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無良 崇人選手
インタビュー

27歳での平昌五輪へ始動。日本の兄貴分として「責任を実感」

文・野口美恵(スポーツライター)

今季はGPシリーズカナダ杯優勝、初のグランプリファイナル出場と、存在感を増してきた無良崇人選手。チームジャパンを背負う“兄貴分”として、技術面も精神面もひとまわり成長した姿を見せている。

「自分はもっと成長できる」 成績の安定を課題に、五輪挑戦を決意
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昨季、2018年平昌五輪を目指すことを宣言。新たな4年に向けてどんな決意で臨んでいますか?

昨季は、2014年2月の四大陸選手権出場のチャンスを、織田信成君が引退したことでいただきました。出るからにはしっかり成績を残したいという思いで、自分としてはやりきった演技での優勝。出場して良かったという思いと、やはり今後はもっと「成績を安定させていかないと」という課題が見えました。

五輪への決意は、いつ固めたのでしょう?

全日本選手権を6位で終え、数日たってから「次の4年」と思いました。このまま終わるのは自分としても納得がいかないし、ジャンプの種類や成績など、自分はもう少し成長できると感じていましたから。ただ現役というのではなく、あと4年と考えて決意しました。去年は五輪イヤーということもあって、どの試合も五輪に振り回されていた感じがあり、その気持ちに勝つことができなかったのが自分の弱さでした。

平昌五輪を27歳で迎えるという年齢については?

やはり大学1年の頃は、身体に無理が利きました。練習の量もジャンプも、無理矢理力で持っていけたし、練習量もこなせましたから。でも髙橋大輔君が、大学卒業くらいから演技面で素晴らしいものを醸し出すようになったのをみていたので、自分も同じように、この年齢だからこそ出せるものがあると信じて磨いていきたいです。

確立された4回転トウループ 4回転アクセルへの挑戦も
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4回転トウループは今季とても安定しています。

そうですね。大学の時よりも安定して、種類を増やしていく段階だと思います。今季オフに、ロシア人のイリヤ・クーリック先生に習ったことが良い影響になっていると思います。彼の理論は「4回転は3回転の延長である」という考え方。3回転をいかに簡単に回るかで、もう1回転を簡単に増やすことができる、という理論なんです。口で言うだけだと難しい概念ですね。

まずは3回転の練習を徹底するのですか?

まずは2回転ジャンプをして、着氷してからも身体を絞めた姿勢のまま、氷上でクルクル回る“ツイズル”という練習をしました。そのあとは3回転をやってからツイズル。これで空中での姿勢を身につけました。あとは、跳びあがってすぐに身体を絞めるのではなく、ちょっと遅れて絞める練習。これでさらに1回転をプラスする余裕が生まれる。そんな練習方法でした。

3回転を4回転に繋げる、という理論がうまくいったのですね。

今までは「4回転である」ということを頭に置きすぎて力んだり、最後の半回転が回りきらないことがありました。今後、4回転サルコウなど種類を増やしていくには、この考え方が効果として現れてくると思います。

新しい種類の4回転ジャンプは楽しみですね。

実は昨年8月の全日本合宿では4回転アクセル(4回転半)もやりました。4回転と4分の1までは回りましたが、右脚で着氷する感覚はもう少し練習しないといけません。トリプルアクセルを習得する時と同じで、「半回転足りないと前向きに転ぶ」という恐怖心がありました。跳べたら気持ちいいだろうと思います。

やはり才能が違いますね!

ジャンプは苦手ではないと思うので、もう1種類4回転が跳べればプログラムでの構成も楽になると思います。現実的には4回転サルコウを来シーズンまでにはやれるようにしたいですね。

「自分らしい演技を確立したい」 今後はジャズなどにも挑戦へ
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今季のショート『カルメン』、フリー『オペラ座の怪人』ともに表現力が増したように感じます。

『オペラ座の怪人』はずっとやりたかった曲で、今季からボーカルOKになったので実現しました。ショートは、最初は『カルメン』ではなく『バイオリン協奏曲』でしたが、基礎的なバレエの姿勢がもう少し出来てこないと、自分の個性を出せないということで、『カルメン』に変更しました。でも早い段階で演技がしっくりときて、合っているように思います。

今後の表現の方向性は?

エキシビションで使っている『フィーリンググッド』のような、気だるいムーディーなものやジャズなどは、もう少し個性を伸ばしていける部分かなと感じていて、試合でも使ってみたいですね。今までのような力強い曲だと、逆に力が入ってスピードが出なくなっちゃう部分もあるなと感じています。

ここ数年で、確実に表現力は伸びましたね。

スケートとは別のオフアイストレーニングとして、フロアでのダンスやバレエもやってきたので、その効果も出ていると思います。でもまだ髙橋君のようには動けませんね。『髙橋大輔といえばこれ』みたいな個性があったのと同じように、自分らしい演技、これは自分の曲といえる表現、それを最終的には目指しています。

同世代の引退と、若手の台頭 “お兄さん”としての役割
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町田樹選手が突然の引退表明。同じ岡山で練習してきた同世代として複雑な気持ちでは?

世界選手権の代表発表の場で突然話し始めたので「えっ!今このタイミングで?」と思いました。村上大介選手とリンクサイドで聞いていたのですが予想外でした。僕としては同じリンクでスケートを始めて、ジュニアの頃から一緒に競い合ってきた仲間です。ここ2、3年彼がボンっと伸びたけれど、やはり1つの指標にしていました。正直、もうちょっとやればいいのにな、という気持ちがありますね。

代わりに無良選手が世界選手権に出場することになりました。

引退表明のあと町田君から「僕自身はずっと(無良)崇人をライバルだと思ってやってきた。崇人がいたから今まで頑張ってこれたし、ここから先あと数年、お前に託したよ。お前ならやれる実力はあると思っているから、しっかり僕の分までやってね」といわれました。今の僕にとって、その言葉が、次へと向かう活力になっています。

町田選手の「達成しなかった何か」を託されたのでしょうか?

何を託されたのでしょうね。五輪のメダルなのか世界選手権の頂点なのか。自分としては、まずは今年の世界選手権での表彰台を目指し、また来季への枠取りをするという責任もある。チームジャパンを背負っていくことかな、と感じています。

町田選手の引退で、チームジャパンでは年長者になりましたね。

そうなんです。髙橋君、織田君、町田君と引退して、上が一気にいなくなって年長者に。ついこの間まで一番下の気分だったのに! いつも髙橋、織田というお兄さん達の存在が大きく、可愛がってくれるし個性もあって、一緒に居て楽しかった。その人達がいないのは寂しい思いもあります。

今度は無良選手が若手に慕われる側になるのですね。

そうだといいですね。宇野昌磨君など、若手の世代がどんどん上手くなってきているので、それに負けない個性や実力を示していかないと、と思います。今までは髙橋君達の存在にくっついていく身だったのが、今度は下の世代が僕を見て育ってくるんだなという、自分の試合をするだけではない責任を実感しています。

無良選手のトリプルアクセルに憧れた世代ですよ。

やはり目標とされる存在であり続けたいと思いますね。特に宇野君は7歳違いですが、本当に小さな頃から知っています。彼が名古屋で練習していて、もうちょっとでトリプルアクセルや4回転が跳べるといって練習していた時に、ちょっとアドバイスしたら跳べたりして、やはり才能があるなと思いました。

ライバルにも4回転のコツをアドバイス 「自分にとっても良い刺激になる」
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ライバルにジャンプを教えるとは凄いです。羽生結弦選手も、無良選手と一緒に練習していて4回転サルコウを跳べたと話していました。

はい。コツを教えるというより、もともと彼らが持っている部分に、足りない部分をちょっと補うだけなのですが。2011年5月の豊橋でのチャリティーアイスショーの練習の時に、羽生君に「4回転サルコウ、もう少し体の使い方がこうなんじゃない?」と言ったら、それだけで跳んじゃったんですよ。初めてというより、普通に跳べる人みたいに成功させていたので「おお~」としか言い様がなかったです。

無良選手はジャンプのフォームをすべて分析できるのですか?

この動きが合理的、というイメージはあります。歴代の選手のジャンプを見て、4回転を成功した人、跳べなかった人の動きを見比べて、自分にもあてはめてきました。人によって多少の個性はありますが、やはり成功した人と自分では何が違うのか、見ていると分かってくるんです。自分の感覚だけで練習すると「あれも違う、これも違う」となりますが、他人の動きを見ると比較しやすいですね。そして自分に合う動きとか、合理的な動きとかを「あ、これが良いな」と感じられるようになってきました。

せっかく掴んだコツをライバルに教えるとは!

彼らが才能あるだけですよ。羽生君も宇野君も、回転の速さがメインにくるタイプ。僕のようにボンッと大きなジャンプを跳んでから回るタイプとは跳び方のタイプは違います。だから参考になるか分からないけれど、見て分かることは伝えます。それに彼らが成功させてくることで、「よし自分もやらなきゃ」という思いにさせてもらえますからね。特に羽生君のジャンプは綺麗で、あんなジャンプを跳びたいとこっちが思える。羽生君と一緒に滑ると、自分が次に向かう活力をもらえるんですよ。

日本チームの“お兄さん”としての抱負は?

やはり最終的には4回転2種類以上はやりたいし、ショートで90点後半とかフリーで180点くらいは、次の五輪シーズンまでに近づけたいです。羽生君や町田君が出している点なので、僕も頑張ろうと感じています。表現力は、自分としては年齢的にももっと探求していける部分かと思います。

重圧のないGPシリーズカナダ杯で優勝 緊張のNHK杯は良い経験に

今季はカナダ杯で優勝。素晴らしい演技でした。

スタートダッシュが良すぎて後が続かなかった、という気持ちもあります(笑)。でもしっかりと演技をすれば255点超えという点数が出ることが自信になりました。一方でそれがプレッシャーになったのがNHK杯でした。やはり課題は「安定」だなと思っています。

NHK杯は3位。

緊張しましたね。カナダ杯と違ってNHK杯は、優勝を頭に置いての最終滑走でしたし、村上大介君が良い演技をしたことでさらに緊張も一段上がっていました。思った以上にショートの結果が良かったこともあり、表彰台を狙いながらどう自分を落ち着かせれば良いのか、どういうモチベーションがいいのか、勝ちにこだわり過ぎてはいけない、など色々と考えました。とても勉強になる試合でした。

四大陸選手権では表彰台へ 最高の形で臨む世界選手権

いよいよ四大陸選手権と世界選手権です。

今季は、まずグランプリファイナルに出られたのが大きな経験でした。NHK杯で、優勝がかかった最終滑走というプレッシャーを経験し、グランプリファイナルという空気感も感じられました。そのあとの全日本も含めて、重圧に圧倒されたというよりは、上手く自分の気持ちと身体をかみ合わせることが出来ず、やりきれた感じがしていません。シーズン後半は、全力で追い込む練習をしてから、良い形で臨みたいです。

2試合への抱負を。

まず四大陸選手権は、昨季再起の良いきっけかになった試合なので、そこでもう一度表彰台に立つことが一番の目標です。世界選手権は、まず世界のトップ5、6人の中にねじ込んで行けるようなモノを創り上げて臨みたいという思いがあります。世界選手権でちゃんと演技できれば、次のシーズンに繋がると思います。

(1月17日、代々木体育館にて取材)

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