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須藤 絢乃

「 幻影 -Gespenster- 」

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2014グランプリ

ARTIST STATEMENT

幻影 -Gespenster-

私が持っていた「人生のイメージ」というものは、日常を平凡に過ごし、歳を重ね、少女がお姉さんになり、おばさんになり、果てはおばあさんになって、80年くらいは生きて、いつかは死んで行くのだろうなぁ、というぼんやりしたものであった。しかし、歳を重ねて行く中で、どんなに恐ろしいものもイマジネーションの盾で守る事が出来た無邪気な少女時代は終わり、神頼みでは治らない病気がある事、おまじないでは人の心は操作出来ない事、そして最悪な状態を一変させる魔法は存在しないという現実を知った。それはかつて空想の中に生きる少女であった私には、本当に死んでしまいそうなほど苦しい洗礼であった。

死というものがリアリティを持って私の目の前に現れると、体の力は抜けて、手足は冷たくなって、この世の中から既に自分は消えてしまったかのような気分になった。わたしがかつて立っていた場所はもう其処にはなく、不安定で、全てがぼんやりと麻痺してしまった様な感覚に日々包まれていた。

そのような時に、最寄りの駅の壁に貼られたたずね人の少女の張り紙を目にとめる事があった。彼女達の平凡な日常は何らかの理由によって絶たれている。彼女達には私の考える「人生のイメージ」が存在しないという事実。そこで時が止まったかのように彼女達は張り紙の中に存在している。彼女達に、自分の姿が重なる様な気持ちがあった。それまで想像していた私はもうこの世から居ななってしまっていたから。彼女達も、かつての私の存在も、まるで幻影の様に、半透明なものの様に思えた。そうして私は実在する行方不明の女の子達をモチーフにセルフポートレイトを撮ることにした。

様々な理由や状況の中で失踪して行った彼女達について、私は想像を巡らす事しか出来ないけども、ただ共通して言える事は、年齢も、容貌も失踪したその時から刻一刻と変化して行くのにもかかわらず、私たちは、彼女達の当時のイメージをずっと探し続けているということ。仮に彼女達が今どこかで生きていたとしても、私たちが捜している彼女達のイメージは既に何処にも存在しない。

失踪した当時の年齢、髪型、服装、体型などを調べて撮影のための衣装を探す。もちろんその通りのものは容易には見つからない。その時の気分はまるで、自分が彼女達を街中で捜しているかの様な気分であった。そして見つけ出した衣装で彼女達の格好をして、撮影をすると、自分が彼女達になってしまった様な錯覚に陥って、形容しがたい恐怖のようなものを覚えた。彼女達の無防備さや儚い雰囲気を纏う事、存在するけども存在しない人を演ずるという奇妙な体験は今まで味わった事の無い感覚であった。

私が、行方不明の女の子達をモチーフに制作をしているという事を人に話すと皆、怪訝な顔つきになった。私たちの日常は彼女達の事を話す事さえもタブーである。「光の当たらない少女達」そのような言葉が浮かんだ。しかし、彼女達は日常では気づかないぐらいの微量の光を放っている。遠い昔、失踪という現象を人々は「神隠し」と呼んだが、彼女達はまるで神の力を受けたかの様な存在感を放っていると私は思う。私はそのささやかな光を感じ、それがより浮かび上がる様に写真に収める。写真の彼女達、あるいは私自身はその時、時間軸から外れ、永遠の存在になる。

私は写真を通して闇の中の微量な光を感じる事ができる。対象をじっと見つめる事が出来る。そして、生身の肉体は日々変化して行くのに対し、写された姿は不死である。写真に収めるという行為の中で、私は光を捜し、闇の中から抜け出そうとしている。

もし、突然私がこの世界から消えたとしても、私が世に出した写真は残る。それは私が感じている、滅び消え行く肉体への悲しみに対しての救いである様に思う。

応募作品形態:ブック(270mm×360mm)/画材用紙にデジタルアーカイバルピグメントプリント/1冊、点数21点

審査評 選:椹木 野衣

単なるセルフポートレートではなく、実在したものの現在は行方不明となっている少女達の残されたデータ(髪型、服装、年頃、場所)をもとに作者自身がそれを克明に再現し、失われたその少女達になり替わって撮られた作品です。そこには色々な意味が含まれています。消えた少女達は老いることのない永遠の存在になったのに対し、作者自身は刻々と老いて容貌も変化していく。その埋まらないギャップを、消えていった少女達に扮することによってあらわにし、現在の日本の若い世代が持っている儚さ、危うさを実にうまく表現しています。写真史の流れでいうとシンディ・シャーマンという先駆者がいますが、それを日本の状況の中で消化しこの作者ならではの作品に仕上げています。冊子のデザイン、製本の仕方、紙の手触り等も非常によく練られている作品だと思います。

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PROFILE

須藤 絢乃Ayano Sudo

1986年大阪府出身
2009年 パリ、エコール・デ・ボザールに交換留学
2011年 京都市立芸術大学大学院卒業
2011年 MIO 写真奨励賞審査員特別賞受賞
2011年 美術作家、フォトグラファーとして国内外で活動
2014年 写真新世紀[第37回公募]優秀賞(椹木 野衣 選)、「写真新世紀東京展2014」グランプリ
(2014年当時)
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2014グランプリ

須藤 絢乃

幻影 -Gespenster-

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