近年、気候変動が原因とみられる異常気象によって、自然災害が世界中で増加しています。なかでも、台風やハリケーン、集中豪雨、干ばつ、熱波などは、人々の生活に甚大な被害を及ぼします。キヤノンは、こうした気候変動の主な原因とみられるCO2の排出削減に向け、製品の省エネルギー化をはじめ、オフィスや工場での省エネ、物流の効率化など、製品のライフサイクル(一生)全体で取り組んでいます。
製品を設計する際に省エネルギー技術を採用することで、お客さまの使用に伴って発生するCO2の削減に貢献しています。
キヤノンは、お客さまが製品を使用することで発生するCO2を減らすために、省エネルギーな製品の設計を心掛けています。
例えば、オフィス向けの複合機やレーザープリンターなどの製品には、独自の省エネルギー技術を採用しています。なかでも、オンデマンド定着技術やIH(Induction
Heating)定着技術は、製品稼働時の消費電力削減に貢献しています。さらに、より低い温度で定着できる低融点トナーを新製品に搭載するなど、省エネルギー製品の拡大に向けた技術革新を続けています。
オフィス向け複合機やレーザープリンターをはじめとしたオフィス機器の省エネルギー技術は、2008年から2021年までの累計で6万522GWhの省エネルギー効果を生み出しました。これにより、2万8,200千t-CO2の削減効果が期待されます。
※ 対象製品:電子写真方式のオフィス向け複合機とレーザープリンター(プロダクションプリンターは除外)
※ 2007年に販売した製品の平均エネルギー(電力)消費量を基準とした省エネルギー効果
※ 各年に販売した製品を5年間使用すると想定
※ 電力量のCO2換算は電気事業連合会および電気事業低炭素社会協議会(国内)、IEA公表値(海外)から地域別売上の加重平均値を使用して算出
imageRUNNER ADVANCE DX C5800F Series
Satera MF447dw
オフィス向け複合機「imageRUNNER ADVANCE DX C5860F」では、新開発の低融点トナー、電流制御を最適化したモーターの採用など、省エネルギー設計の推進により、従来機種と比較して使用時のCO2を約13%削減。また、本体フレーム板厚の最適化、一部ユニットに樹脂フレームを採用することなどにより、従来機種と比較して25%以上の軽量化を実現。これにより、原材料調達にかかるCO2を削減しています。さらに、小サイズ紙の出力生産性の向上やさまざまな静音化の工夫により稼働音の低減を図ることで、複合機としての本質性能を向上させるなど、製品ライフサイクル全体での環境負荷低減と製品性能向上の両立を実現しています。また、A4モノクロレーザー複合機「Satera MF447dw」では、従来機種から高さを約15%抑えた392mmのコンパクトサイズで、スリープ時の消費電力を約0.9Wに抑えました。オフィスなどの省スペース化に寄与し、さらなる省電力化を実現しています。
Vantage Elan / Fast Edition
医療機器製造販売認証番号
MR装置 Vantage Elan MRT-2020 225ADBZX00170000
キヤノンメディカルシステムズの新しいMRIシステム「Vantage Elan / Fast Edition」は、同等クラスで最小の設置スペースを実現した、AI技術搭載の1.5T(テスラ)MRIです。キヤノンの1.5テスラMRI設置で初めて、機械室のない設計を実現しました。設置に必要な面積は従来モデルに比べて約29%も削減され、工事費用や設置に要する時間を削減しました。また、検査の合間に自動的にスタンバイ状態になることで、従来機種に比べて最大消費電力量を50%削減するなど、コスト削減と省エネルギーに貢献しています。
キヤノンUSAは、米国環境保護庁(EPA)が主催するENERGY STAR®アワード2022において、「Partner ofthe Year - Product Brand Owner」に7年連続で選出されるとともに、最高位の賞である「Partner of the Year-Sustained Excellence」を5年連続で受賞しました。
国立研究開発法人理化学研究所のX線自由レーザー施設「SACLA」は、分子構造のリアルタイム観察・解析を可能にし、医薬品・材料開発などに応用されています。SACLAの電子ビームの加速パワー源には、キヤノン電子管デバイスのクライストロンが活躍しています。キヤノン電子管デバイスは、マイクロ波変換効率を向上させ、従来製品に対し消費電力を約14%削減することを達成。施設全体で年間約730tのCO2削減を実現しました。
X線自由電子レーザー施設「SACLA」
自社の工場やオフィスで徹底的な省エネルギー活動を継続しています。
キヤノンは、自社の事業拠点が稼働することによって発生するCO2の削減にも徹底的に取り組んでいます。使用する電力のきめ細かい管理や省エネルギー診断などをグループ横断で行うことで、エネルギーをより効率良く使えるようにしています。
2021年の事業拠点における温室効果ガス排出量は、エネルギーコストWGなどの事業拠点における削減活動は継続しましたが、生産活動が新型コロナウイルスの影響を大きく受けた2020年から回復したことにより、990千t-CO2となり、前年と比較し約4%の増加となりました。一方、2019年と比較すると、約5%の減少となりました。
キヤノンでは、2014年に「エネルギーコスト削減WG」を立ち上げ、全社横断的な体制のもとで使用エネルギー削減活動を推進してきました。5ゲン主義(現場・現物・現実・原理・原則)をキーワードに、各拠点の生産装置が必要とする条件を徹底的に見直し、過剰な圧縮空気や生産冷却水、空調などを最適化することにより、使用するエネルギーの削減を図っています。また、有効な取り組みについては、国内外の生産拠点への水平展開を図っています。さらに、本社の専門部署の担当者が国内外の生産拠点を訪問して、省エネルギー診断を実施。診断によって設備の稼働状況や条件設定を把握したうえで、設備機器の運転効率の改善、現場教育を実践しています。これらの取り組みの結果、活動開始以降、グループ全体で18万5,897kL(原油換算)のエネルギー削減を達成しています。
省エネ大賞受賞の様子
キヤノンは、栃木県ほか3社※1と連携し、栃木県宇都宮市において大幅な省エネルギーを実現する清原工業団地スマエネ事業を開始。本取り組みは、清原工業団地内に清原スマートエネルギーセンターなどが新設され、需要状況の異なる複数事業所間で電力と熱(蒸気・温水)を共同利用することで、単独事業所では実現が難しい、エネルギー消費量原単位約20%改善、CO2排出原単位20%改善※2を実現した事例です。この取り組みが評価され、一般財団法人省エネルギーセンターが主催する2021年度省エネ大賞において経済産業大臣賞(共同実施分野)を共同受賞しました。
※1 カルビー株式会社、久光製薬株式会社、東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社
※2 コージェネレーションを核とするエネルギーセンターから送られる電力と熱を対象とする削減率(2015年度比・2020年実測値)
カーボンゼロ認証取得
キヤノンニュージーランドは、CO2削減に向けた長期目標のもと、CO2排出の削減とCO2オフセットクレジットの購入により、カーボンゼロ認証を取得しました。テレビ会議の活用による出張抑制、社用車の電気自動車・ハイブリット車への切り替えなどの取り組みにより、CO2排出量を可能な限り削減し、どうしても削減できなかったCO2排出量については国内外のプロジェクトからクレジットを購入しオフセットすることで、CO2ネットゼロを実現しました。この取り組みにより、ニュージーランド政府カーボンゼロ認証(Toitu Carbon Zero Certificate)を取得しています。
キヤノンは、自身が理事会メンバーである(社) 日本事務機情報システム産業協会 (JBMIA) をはじめとする電機・電子業界団体からなる温暖化対策連絡会に幹事会社として参加しています。電機・電子業界は経団連が策定した「低炭素社会実行計画(現名称:カーボンニュートラル行動計画)」に参加し、気候変動に対する主体的な取り組みを電機・電子業界「低炭素社会実行計画」としてまとめ、実行しています。キヤノンはこの取り組みの推進に貢献しています。具体的には、連絡会傘下のすべての委員会に参加して、2020年/2030年の業界CO2削減目標の設定および『製品・サービスによるCO2排出抑制貢献量算定』の方法論の策定を含む、実行計画/行動計画の策定と運用に貢献しています。
また、電気・電子技術分野においては、国際的な標準化団体である国際電気標準会議(IEC)の委員として削減貢献量の算定ルール作成にも取り組んでいます。
欧州を中心に、再生可能エネルギーの活用を行っています。
キヤノンは地域ごとの普及状況や経済合理性などを考慮し、特に欧州やアジアを中心に、再生可能エネルギーの活用を進めています。ヨーロッパおよびキヤノンUKの新社屋も再生可能エネルギーを活用し、BREEAM※のExcellent評価を取得しています。また、販売会社のキヤノン中国では、オフィスの消費電力を100%再生可能エネルギー由来としました。Pick Upで紹介している取り組みも含めた地域に適した取り組みの推進により、2021年の再生可能エネルギーの使用量は、全世界で86,878MWhとなり、2020年と比較し、約6%増加しました。欧州では、使用エネルギーの約45%を占める電力において、約82%が再生可能エネルギー由来となっています。
キヤノンは、CO2排出量を2050年にネットゼロとしていく上での有効なエネルギー源として、再生可能エネルギーの最大限の活用を目指します。
キヤノンプロダクションプリンティングの新本社棟(オランダ・フェンロ―)は、ヒートポンプ、効率的な温冷水貯蔵システムやLED照明により、建物のエネルギー消費量を抑えています。さらには、ソーラーパネルの導入、電気自動車用の充電設備などが整備され、環境に配慮したオフィスとなっています。
グループ会社のアクシスの新本社棟(スウェーデン・ルンド)は、ソーラーパネルやLED照明の導入、自転車通勤者のための自転車置き場の整備などを推進し、英国の環境基準「BREEAM」※ のスウェーデン版「BREEAM-SE」のExcellent評価(5段階評価のうち上から2番目)に適合したオフィスになっています。
※ 英国建築研究所による環境性能評価手法で建築物を「健康と快適性」「エネルギー」「廃棄物」など9項目に沿って評価します
CO2排出量の少ない輸送手段への切り替えや、輸送の効率化を進めています。
キヤノンは物流によって排出されるCO2の削減に向けて、より環境負荷の低い輸送モードを活用するモーダルシフト、製品・梱包の小型化による積載効率の向上、生産拠点からの直送や輸送ルートの変更、物流センターの集約などによる輸送距離の短縮に取り組んでいます。
従来は片荷で輸送されていた海上コンテナを往復で利用する「コンテナラウンドユース」を積極的に行うことで、物流のさらなる効率化を図っています。キヤノングループ内でコンテナを往復利用するほか、他の事業者が輸入したコンテナをキヤノンが輸出に利用するなど、船会社、コンテナ輸送業者とも連携しながら取り組みを拡大しています。また、ベトナムをはじめ海外拠点においても取り組みが進展しています。
生産拠点であるキヤノンベトナムでは、物流プロセスでのCO2排出量削減に取り組んでいます。キヤノンベトナムは、部品を輸入し、港から拠点までトラックで輸送しています。また、生産した製品は港に輸送し、海外に輸出しています。部品の輸入よりも製品輸出が多いため、港から拠点までの空コンテナの輸送が発生するという課題がありました。キヤノンベトナムは、逆に輸出よりも輸入が多く、拠点から港までの空コンテナが発生している他企業と協働し、輸出入のコンテナを相互に利用することで、トータルのトラック便数を減らすことを実現しました。
この取り組みが評価され、キヤノンベトナムは、ベトナム天然資源環境省主催「Vietnam Environmental Award 2020」を受賞しました。
アワード受賞の様子
異常気象などによる各地での災害リスクの低減に貢献する製品を提供しています。
気候変動による影響を可能な限り小さくするためには、CO2をはじめとする温室効果ガスを削減する「緩和策」が重要ですが、緩和を実施しても温暖化の影響が回避できない場合に備える「適応策」についても同時に対策を進める必要があります。
台湾では、毎年強力な台風や豪雨による洪水によって、農作物への被害などが発生していることから、「Hydrological Conditions Instant Video Surveillance System」が導入されました。これは、南西海岸線エリアに設置した監視カメラが洪水警戒レベルを観測すると、自動で緊急アラームを発信するシステムです。
このシステムのために、アクシス社のネットワークカメラ「AXIS 214 PTZ
Network Cameras」と「AXIS Camera Station video management software」が台湾内で計150カ所に設置され、水位の変化を360°方位かつ24時間体制で監視することに役立っています。
移転前
移転後
宮崎キヤノン社屋
一部地域では、異常気象の増加により洪水被害のリスクが高まっています。日本国内では、これまで河川沿いにあった宮崎キヤノンの旧社屋を高台に移転し、新社屋を建設しました。海外では、タイの生産拠点において高台に第2工場を設立するなど気候変動への適応策を進めてきました。今後もリスク対応計画の更新・策定を進めることで、レジリエンスの向上を図っていきます。