キヤノンは、環境目標の継続的な達成、さらには、事業活動を通じたCO2排出量の2050年ネットゼロをめざし、製品のライフサイクル全体(「サプライヤーでの原材料や部品の製造」「事業拠点活動」「物流」「お客さまの使用」)でのCO2排出量を把握し、技術を通じそれぞれのステージでその削減に努めています。
製品を設計する際に省エネルギー技術を採用することで、お客さまの使用に伴って発生するCO2の削減に貢献しています。
キヤノンは、お客さまが製品を使用することで発生するCO2を減らすために、省エネルギーな製品の設計を心掛けています。
例えば、オフィス向けの複合機やレーザープリンターなどの製品には、独自の省エネルギー技術を採用しています。なかでも、オンデマンド定着技術やIH(Induction
Heating)定着技術は、製品稼働時の消費電力削減に貢献しています。さらに、より低い温度で定着できる低融点トナーを新製品に搭載するなど、省エネルギー製品の拡大に向けた技術革新を続けています。
オフィス向け複合機やレーザープリンターをはじめとしたオフィス機器の省エネルギー技術は、2008年から2022年までの累計で6万6,858GWhの省エネルギー効果を生み出しました。これにより、3万780千t-CO2の削減効果が期待されます。
※ 対象製品:電子写真方式のオフィス向け複合機とレーザープリンター(プロダクションプリンターは除外)
※
2007年に販売した製品の平均エネルギー(電力)消費量を基準とした省エネルギー効果
※ 各年に販売した製品を5年間使用すると想定
※
電力量のCO2換算は電気事業連合会および電気事業低炭素社会協議会(国内)、IEA公表値(海外)から地域別売上の加重平均値を使用して算出
imageRUNNER ADVANCE DX 4800Fシリーズ
Satera MF447dw
オフィス向け複合機「imageRUNNER ADVANCE DX
4800Fシリーズ」では、消費電力の約25%低減による業界トップクラスの標準消費電力量(TEC値)や、約15%の本体軽量化にともなう稼働時や製品輸送時の効率向上などでCO2排出量を削減しています。さらに、針なしとじに対応したフィニッシャーを装着することで、最大10枚までの用紙を圧着でとじることもでき、金属針の廃棄物削減につながります。
こうした複合機としての本質性能を向上させるなど、製品ライフサイクル全体での環境負荷低減と製品性能向上の両立を実現しています。
また、A4モノクロレーザー複合機「Satera
MF447dw」では、従来機種から高さを約15%抑えた392mmのコンパクトサイズで、スリープ時の消費電力を約0.9Wに抑えました。オフィスなどの省スペース化に寄与し、さらなる省電力化を実現しています。
Vantage Elan / Fast Edition
医療機器製造販売認証番号
MR装置 Vantage Elan MRT-2020 225ADBZX00170000
キヤノンメディカルシステムズのMRIシステム「Vantage Elan / Fast Edition」は、同等クラスで最小の設置スペースを実現した、AI技術搭載の1.5T(テスラ)MRIです。キヤノンの1.5テスラMRI設置で初めて、機械室のない設計を実現しました。設置に必要な面積は従来モデルに比べて約29%も削減され、工事費用や設置に要する時間を削減しました。また、検査の合間に自動的にスタンバイ状態になることで、従来機種に比べて最大消費電力量を50%削減するなど、コスト削減と省エネルギーに貢献しています。
キヤノンUSAは、米国環境保護庁(EPA)が主催するENERGY STAR®アワード2023において、「Partner ofthe Year - Product Brand Owner」に8年連続で選出されるとともに、最高位の賞である「Partner of the Year-Sustained Excellence」を6年連続で受賞しました。
キヤノン、大日本印刷株式会社、キオクシア株式会社は共同で既存の半導体製造レベル(最小線幅15nm※1)のNILによるパターン形成に成功しています。従来の露光技術が光で回路を焼きつけるのに対し、NIL技術はパターンを刻み込んだマスク(型)をウエハーに塗布された樹脂に押し当てて回路を形成するシンプルなものです。NIL技術を適用した装置「FPA-1200NZ2C」は、大規模な露光光源や大掛かりな真空・冷却装置を必要とせず、パターン形成時の消費電力を既存の最先端ロジック向け露光技術とくらべて約10分の1まで削減できます。
3社は「NILによる超微細半導体の省エネルギー加工技術」が半導体製造時の消費電力削減に貢献し、今後のIoT社会の急速な拡大を支える技術として評価され「第49回 環境賞※2」で「優良賞」を受賞しました。
※1 1nm(ナノメートル)は、10億分の1メートル
※2 環境賞詳細
優良賞受賞の様子
「インスペクション EYE for インフラ」のサービスイメージ図
橋梁やトンネルなどの目視による従来方式の定期点検は、時間と労力がかかることが課題となっています。また、環境面でも、車両や点検者の移動にともないCO2が発生します。キヤノンは、高精細画像の撮影、独自の画像処理技術、撮影したインフラ構造物の画像から変状(ひび割れなど)を検知するAI技術を融合させた、インフラ構造物点検サービス「インスペクション EYE for インフラ」の活用による、CO2削減効果を算定しました。今回、従来の近接目視点検から、画像点検への切り替えによるCO2排出量削減の算定が先進的な取り組みであること、今後多くの分野への波及効果が期待できることなどが評価され「第19回LCA日本フォーラム表彰」において「奨励賞」を受賞しました。
国立研究開発法人理化学研究所のX線自由レーザー施設「SACLA」は、分子構造のリアルタイム観察・解析を可能にし、医薬品・材料開発などに応用されています。SACLAの電子ビームの加速パワー源には、キヤノン電子管デバイスのクライストロンが活躍しています。キヤノン電子管デバイスは、マイクロ波変換効率を向上させ、従来製品に対し消費電力を約14%削減することを達成。施設全体で年間約730tのCO2削減を実現しました。
X線自由電子レーザー施設「SACLA」
キヤノンは、LCA(ライフサイクルアセスメント)の手法を導入し、ライフサイクル全体でCO2排出量を算定しています。さらに、お客さまがよりCO2排出量の少ない製品を選択できるよう、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)のカーボンフットプリント(CFP)コミュニケーションプログラムにおける「CFP宣言」の認定を取得し、情報開示に努めています。
また、経済産業省が推進する「CFPを活用したカーボン・オフセット制度」※の活用により、ライフサイクルCO2排出量が実質的にゼロとなる製品を実現しています。対象製品である「imageRUNNER ADVANCE」シリーズ、プロダクションプリンター「imagePRESS」の一部の機種においては、お客さまは製品使用により発生すると想定されるCO2排出量を、お客さまの排出削減分として、地球温暖化対策の推進に関する法律にもとづく管轄省庁への報告に使用することができます。
2014年の本制度活用開始以降、2022年までにお客さまの要望にもとづきオフセットされた量は、4万5,769tCO2となりました。
参考:エコリーフ環境ラベルプログラム登録製品
https://canon.jp/corporate/csr/environment/customer/products/cfp/
参考:カーボンフットプリントを活用したカーボン・オフセット制度対象機種
https://canon.jp/corporate/csr/environment/customer/products/cfp-certified/
自社の工場やオフィスで徹底的な省エネルギー活動を継続しています。
キヤノンは、自社の事業拠点が稼働することによって発生するCO2の削減にも徹底的に取り組んでいます。使用する電力のきめ細かい管理や省エネルギー診断などをグループ横断で行うことで、エネルギーをより効率良く使えるようにしています。
2022年の事業拠点における温室効果ガス排出量は、エネルギーコストWGや生産工程における徹底的な効率化などの事業拠点における削減活動により1,021千t-CO2となり、前年と比較し約4%の減少となりました。
キヤノンでは、2014年に「エネルギーコスト削減WG」を立ち上げ、全社横断的な体制のもとで使用エネルギー削減活動を推進してきました。5ゲン主義(現場・現物・現実・原理・原則)をキーワードに、各拠点の生産装置が必要とする条件を徹底的に見直し、過剰な圧縮空気や生産冷却水、空調などを最適化することにより、使用するエネルギーの削減を図っています。また、有効な取り組みについては、国内外の生産拠点への水平展開を図っています。さらに、本社の専門部署の担当者が国内外の生産拠点を訪問して、省エネルギー診断を実施。診断によって設備の稼働状況や条件設定を把握したうえで、設備機器の運転効率の改善、現場教育を実践しています。これらの取り組みの結果、活動開始以降、グループ全体で21万3,756kL(原油換算)のエネルギー削減を達成しています。
地球環境大賞受賞の様子
省エネ大賞受賞の様子
キヤノンは、栃木県ほか3社※1と連携し、栃木県宇都宮市において大幅な省エネルギーを実現する清原工業団地スマエネ事業を開始。本取り組みは、清原工業団地内に清原スマートエネルギーセンターなどが新設され、需要状況の異なる複数事業所間で電力と熱(蒸気・温水)を共同利用することで、単独事業所では実現が難しい、エネルギー消費量原単位約20%改善、CO2排出原単位20%改善※2を実現した事例です。この取り組みが評価され、一般財団法人省エネルギーセンターが主催する2021年度省エネ大賞において経済産業大臣賞(共同実施分野)、またフジサンケイグループが主催する第31回地球環境大賞においても経済産業大臣賞を共同受賞しました。
2023年度には廃熱由来の蒸気供給余力を予測・可視化し、蒸気利用設備の導入や設備の運用改善により有効活用することで従来よりも2ポイント以上のさらなる省エネ・省CO2の実現が見込まれます。
※1 カルビー株式会社、久光製薬株式会社、東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社
※2
清原SECから送られる電力と熱(蒸気・温水)を対象とした本事業開始前の2015年度とくらべた削減率
2021年度実績:原油換算▲約10,400kL/年、CO2削減量▲約21,000t/年
カーボンゼロ認証取得
キヤノンニュージーランドは、CO2削減に向けた長期目標のもと、CO2排出の削減とCO2オフセットクレジットの購入により、カーボンゼロ認証を取得しました。テレビ会議の活用による出張抑制、社用車の電気自動車・ハイブリット車への切り替えなどの取り組みにより、CO2排出量を可能な限り削減し、どうしても削減できなかったCO2排出量については国内外のプロジェクトからクレジットを購入しオフセットすることで、CO2ネットゼロを実現しました。この取り組みにより、ニュージーランド政府カーボンゼロ認証(Toitu Carbon Zero Certificate)を取得しています。
キヤノンは、自身が理事会メンバーである(社) 日本事務機情報システム産業協会 (JBMIA)
をはじめとする電機・電子業界団体からなる温暖化対策連絡会に幹事会社として参加しています。電機・電子業界は経団連が策定した「低炭素社会実行計画(現名称:カーボンニュートラル行動計画)」に参加し、気候変動に対する主体的な取り組みを電機・電子業界「低炭素社会実行計画」としてまとめ、実行しています。キヤノンはこの取り組みの推進に貢献しています。具体的には、連絡会傘下のすべての委員会に参加して、2020年/2030年の業界CO2削減目標の設定および『製品・サービスによるCO2排出抑制貢献量算定』の方法論の策定を含む、実行計画/行動計画の策定と運用に貢献しています。
また、電気・電子技術分野においては、国際的な標準化団体である国際電気標準会議(IEC)の委員として削減貢献量の算定ルール作成にも取り組んでいます。
欧州やアジアを中心に、再生可能エネルギーの活用を行っています。
キヤノンは地域ごとの普及状況や経済合理性などを考慮し、欧州やアジアを中心に、再生可能エネルギーの活用を進めています。
キヤノンベトナムタンロン工場やキヤノンプロダクションプリンティング、長崎キヤノンでは太陽光パネルを設置し、積極的に再生可能エネルギーを活用しています。さらに、キヤノンヨーロッパおよびキヤノンUKの新社屋も再生可能エネルギーを活用し、BREEAM※のExcellent評価を取得しています。また、販売会社のキヤノン中国では、I-REC証書を導入し、オフィスの消費電力を100%再生可能エネルギー由来としました。
このような地域に適した取り組みの推進により、2022年の再生可能エネルギーの使用量は、全世界で99,096MWhとなり、2021年と比較し、約14%増加しました。欧州では、使用エネルギーの約37%を占める電力において、約78%が再生可能エネルギー由来となっています。
※ 英国建築研究所による環境性能評価手法で建築物を「健康と快適性」「エネルギー」「廃棄物」など9項目に沿って評価します
キヤノンプロダクションプリンティングの新本社棟(オランダ・フェンロ―)は、ヒートポンプ、効率的な温冷水貯蔵システムやLED照明により、建物のエネルギー消費量を抑えています。さらには、ソーラーパネルの導入、電気自動車用の充電設備などが整備され、環境に配慮したオフィスとなっています。
新本社棟
ソーラーパネル
グループ会社のアクシスの新本社棟(スウェーデン・ルンド)は、ソーラーパネルやLED照明の導入、自転車通勤者のための自転車置き場の整備などを推進し、英国の環境基準「BREEAM」※ のスウェーデン版「BREEAM-SE」のExcellent評価(5段階評価のうち上から2番目)に適合したオフィスになっています。
※ 英国建築研究所による環境性能評価手法で建築物を「健康と快適性」「エネルギー」「廃棄物」など9項目に沿って評価します
CO2排出量の少ない輸送手段への切り替えや、輸送の効率化を進めています。
キヤノンでは、生産から販売までの物流におけるCO2排出量の削減に取り組んでいます。環境負荷を軽減する輸送方法として、トラック輸送から鉄道輸送へ切り替えるモーダルシフトに取り組むとともに、コンテナのサイズを考慮した製品や外装箱の設計を通じ積載効率の向上にも努めています。また、輸送ルートの見直しによる輸送距離の短縮や、輸入コンテナを輸出に転用し再利用する「コンテナラウンドユース」を積極的に進め環境負荷低減に努めています。
従来は片荷で輸送されていた海上コンテナを往復で利用する「コンテナラウンドユース」を積極的に行うことで、物流のさらなる効率化を図っています。キヤノングループ内でコンテナを往復利用するほか、他の事業者が輸入したコンテナをキヤノンが輸出に利用するなど、船会社、コンテナ輸送業者とも連携しながら取り組みを拡大しています。また、ベトナムをはじめ海外拠点においても取り組みが進展しています。
生産拠点であるキヤノンベトナムでは、物流プロセスでのCO2排出量削減に取り組んでいます。キヤノンベトナムは、部品を輸入し、港から拠点までトラックで輸送しています。また、生産した製品は港に輸送し、海外に輸出しています。部品の輸入よりも製品輸出が多いため、港から拠点までの空コンテナの輸送が発生するという課題がありました。キヤノンベトナムは、逆に輸出よりも輸入が多く、拠点から港までの空コンテナが発生している他企業と協働し、輸出入のコンテナを相互に利用することで、トータルのトラック便数を減らすことを実現しました。
この取り組みが評価され、キヤノンベトナムは、ベトナム天然資源環境省主催「Vietnam
Environmental Award 2020」を受賞しました。
アワード受賞の様子
異常気象などによる各地での災害リスクの低減に貢献する製品を提供しています。
気候変動による影響を可能な限り小さくするためには、CO2をはじめとする温室効果ガスを削減する「緩和策」が重要ですが、緩和を実施しても温暖化の影響が回避できない場合に備える「適応策」についても同時に対策を進める必要があります。
生育指標のデータ化のイメージ
キヤノンは農業における気候変動などの環境変化に対応する手段として、長年培ってきたイメージング技術を活用して、非破壊・非接触で作物の画像から生育指標を自動で取得可能な農業生育モニタリングシステム「GM-1」を開発し、水稲栽培における実証実験に取り組んでいます。
「GM-1」は作物の特徴にあわせた独自の画像解析技術とディープラーニングによって実現したAI診断技術により、撮影した作物の画像から、葉色・茎数・草丈といった重要な生育情報を自動で計測・データ化することに成功しました。従来、手作業で行っていた計測を自動化することで、作業効率を大幅に改善することができます。さらに、画像から統計的に生育状況を解析することができるため、ばらつきの少ない安定性・再現性の高い解析が可能になりました。データを蓄積し、過去データと比較をすることで、作物の気候変動リスクへの適応や適切な栽培管理、新品種開発などに活用することも期待されます。
台湾では、毎年強力な台風や豪雨による洪水によって、農作物への被害などが発生していることから、「Hydrological Conditions Instant Video
Surveillance
System」が導入されました。これは、南西海岸線エリアに設置した監視カメラが洪水警戒レベルを観測すると、自動で緊急アラームを発信するシステムです。
このシステムのために、アクシス社のネットワークカメラ「AXIS
214 PTZ
Network Cameras」と「AXIS Camera Station video management
software」が台湾内で計150カ所に設置され、水位の変化を360°方位かつ24時間体制で監視することに役立っています。
移転前
移転後
宮崎キヤノン社屋
一部地域では、異常気象の増加により洪水被害のリスクが高まっています。日本国内では、これまで河川沿いにあった宮崎キヤノンの旧社屋を高台に移転し、新社屋を建設しました。海外では、タイの生産拠点において高台に第2工場を設立するなど気候変動への適応策を進めてきました。今後もリスク対応計画の更新・策定を進めることで、レジリエンスの向上を図っていきます。