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東京2020オリンピック・
パラリンピック&55競技

見どころ紹介

テニス
オリンピック競技

日本人選手の世界での活躍が注目され、東京2020オリンピックでもメダル獲得の期待が高まっているテニス。日本テニス界の躍進の背景には、選手の努力はもちろん、強化に向けた様々な施策があったという。ソウル1988に日本代表として出場し、現在は日本テニス協会常務理事と強化本部長を務める土橋登志久さんに話を聞いた。

近年、日本人選手の活躍がめざましいですが、背景にはどんなことがあるのでしょうか。

今までの積み重ねが大きいと思います。日本には1990年代に伊達公子さん、杉山愛さんら十数人が世界ランクトップ100に入っていた過去があるので、その頃のような状態を目指して強化を進めていました。トップだけでなくジュニアからシニアまで全てのカテゴリーを強化していき、ダブルスに関しては、ダブルスのスペシャリストでイギリスのナショナルチームのコーチをされているルイ・カイエさんを招いて強化を行いました。
また、かつて活躍した有名選手、レジェンドの皆さんが、解説などでテニス関係の仕事に従事するようになって、選手を近くで支える存在になったことも大きいと思います。松岡修造さんもその一人で、ジュニアの育成などを行う「修造チャレンジ」といった取り組みなどで20年間にわたり日本テニス界を支えてくれ、世界で活躍する選手が輩出されてきました。これによりかつては「海外の選手はこうなんだよ」と教えていたところが、今では日本人選手を例にとって「練習すれば、あんなトップ選手になれるんだよ」ということが具体的に示せるようになったんです。加えて、コーチのスキルがグローバルになってきたことも大きいです。協会だけでなく、日本のテニス界全体でこういったサイクルを作り出せるようになったことが、もっとも大きな好調の要因だと思います。

日本ではトップ選手の活躍もあって、テニス人気が高まっています。協会ではどのように受け止めていますか。

選手の成長や、テニスの盛り上がりが予想したスピードよりはるかに早いので、我々がしっかりしなくてはと改めて気を引き締めています。日本の女子選手が四大大会を優勝することも、あと2、3年後には可能にしたいと思っていたのですが、まさか今シーズンにそれが達成できるとは思ってはいなかったので、本当に選手の可能性は無限大だなと感じています。選手の力や大会の中での成長など、色々な要因が重なった結果だと思います。日本で開催する大会も連日満員で、テニスをよくご存知のファンの方が増えてきたこと、毎日のようにテニスのことがテレビや様々なメディアで報道されていることなど、本当に夢のような話です。我々はそれらを励みにすると同時に、日々謙虚な気持ちで選手がさらに上を目指せるようにしていかなければならないと思います。

若手選手の育成のためには、どんな取り組みを行っていますか?

近年では17、18歳の若い選手に対しても、ナショナルトレーニングセンター(NTC)で合宿をしながら、テニスだけでなく栄養や語学などの教育を行うようにしています。まだ内容は完全とは言えませんが、東京2020だけでなく、パリ2024やロサンゼルス2028など、その先のオリンピックも見据えて強化していければと思っています。日本は世界的に見てもテニスの選手層は決して厚くはないのですが、その限られた人数の中でこれだけ結果を出せている国というのは珍しい方だと思います。しかし、NTCで卓球や柔道、バドミントンなど他競技の方と接すると、本当に学ぶ事がたくさんあり、我々もまだ強化を始めたばかりなので、もっと頑張らなければならないなと強く感じます。

東京2020での日本代表選手の選考基準を教えてください。

基本的に、テニスのオリンピック出場選手は世界ランクをもとに決定されます。8月にジャカルタで開催されたアジア大会にも1枠が振り分けられていたのですが、日本はそこで枠を勝ち取ることができなかったので、世界ランクでの出場権獲得を目指す形になります。出場権は2020年の6月8日付けのランキングで、上位56位までの選手に与えられるので、選手は世界ランク60位を目安に、努力していくことになります。リオ2016の際には多くの日本人選手が出場したのですが、この背景には、リオの治安や環境の不安から出場を辞退する選手が多くいたため、出場権を得る選手が世界ランク100位ほどまで広がった、ということがありました。東京2020ではそういったことはないと思うので、日本人選手はやはり、60位を目安にしていくことになります。また、それとは別に日本には開催国枠として、男女シングルス各1人、男女ダブルス各1ペア、ミックスダブルス1ペアに出場権が与えられるので、全種目に出場することは決定しています。

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日本人選手は海外の選手と比べるとフィジカルでは恵まれていない印象もあります。そんな中でも成果を上げられているのは、日本人選手のどんな能力によるものだと思いますか?

日本人選手の特徴は、技術力があることと、戦術面が長けていることだと思っています。パワーという面では海外選手に劣っているのですが、体の使い方や力の発揮の仕方を、帯同するフィジカルトレーナーが最大限に能力を引き出すように努力してくれているので、相手のフィジカルの強さにも負けてはいないと思います。今年の全仏テニスから一部の試合で分析システムを導入したので、今年の全米テニスではそういったデータも多少、活用出来たかなと思います。
またメンタル面では、もともと勤勉で、物事に対して最後まで責任を持ってやり抜く覚悟を持つことが出来る、というのが日本人選手の特徴だと思います。それに加えて、近年は男女トップ選手の世界での活躍によって、日本人選手の中にも、自分もやればできる、やってやる、という強いモチベーションを感じます。もともと持っていたメンタルの部分と、そうした現在の日本テニスの機運がかみ合って、いい流れが生まれているのかなと感じています。

東京2020に向けて、特別な取り組みは行っていますか?

東京2020での大きな課題の一つが、暑さ対策です。日本の夏の暑さをどうやってアドバンテージにして戦うことができるか、ということが課題になります。日本人選手は夏の暑さには慣れていますし、男女のトップ選手はフロリダを拠点としていますので、日本人選手にとって暑さはアドバンテージになり得ると思います。一方で今、世界の強豪選手は気候が良く、乾燥したヨーロッパを拠点としている選手が多いですし、また東京2020ではウィンブルドン後に皆移動してくることになります。そこでどれだけ我々が情報を得て、暑熱対策をするかということも、勝利のための一つの要因になってくると思います。現在は暑さを武器にするということをテーマに、インドネシアで行われたアジア大会では冷たいベストを着たり、シャーベット状のドリンクを摂ったりして体の深部体温を下げ、パフォーマンスを持続するという取り組みを行いました。テニスは屋外で行う過酷な競技ですから、こうした取り組みはオリンピックでは必須になると考え、JOCの講習などからも学びながら、東京2020に向けてテストを重ねている状況です。

東京2020には、海外のベテランのスター選手から若手選手まで、多くの注目選手が集うことになります。海外の注目選手と、彼らと戦うための強化などを教えてください。

ロジャー・フェデラー選手がもう少し現役を続けるという話も出ていますし、ノバク・ジョコビッチ選手もケガがあったものの、また復調して強くなってきています。アレクサンダー・ズベレフ選手やグリゴール・ディミトロフ選手、さらに若手だとデニス・シャポバロフ選手など、注目選手は数多くいますね。
日本人選手がこうした有名選手と戦っていく上では、やはりライバルたちの分析が重要だと思います。特にフェデラー選手、ジョコビッチ選手、ラファエル・ナダル選手、アンディ・マレー選手らがほとんどのタイトルを取っているので、彼らを無視することは出来ません。彼らの分析を徹底するとともに、その次の世代、フアン・マルティン・デルポトロ選手やマリン・チリッチ選手らの分析も行っていく必要があります。サーブの確率や方向といった分析は簡単に出来るところだと思うので、そこからどういう戦術を行えば、相手に対して有利に戦えるかまで提供できる分析システムを、独自で作っていく目標があります。今活躍している日本人選手はそれを実践できる能力を持ち合わせていますので、そういうことができたら、大きな武器になるのではないかと考えています。

東京2020や、その先も活躍が期待される選手を教えてください。

まず男子シングルスでは、9月に行われた深センオープンで優勝を果たした西岡良仁選手、ダニエル太郎選手。両選手ともATPワールドツアー・250シリーズで優勝していますし、デビスカップでも代表として勝利を挙げています。男子シングルスの西岡選手に関しては、ケガから復帰してこの結果を出せたというのは、得るものが大きかったと思います。故障している間も、自分で栄養の勉強をして自炊をしたり、色んなジャンルの人と話をして勉強したりと、故障期間を学びの時間に変えたと聞いています。そういった、マイナスをプラスに変えようという力を勝利につなげることができたことは、大きな収穫だと思います。
男子のダブルスでは楽天ジャパンオープンで優勝したマクラクラン勉選手や、アジア大会でメダルを獲得した上杉海斗選手のほか、内山靖崇選手、伊藤雄哉選手、島袋将選手、綿貫陽介選手らが注目選手です。綿貫選手は素晴らしいタレントを持っていて、シングルスでもダブルスでも期待が持てる選手ですね。

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女子はトップ選手が東京2020でも金メダルを狙える位置に上がってきたのは本当に大きいと思います。ただ女子全体としてはランキングを落としている状況です。ですが、奈良くるみ選手や日比野菜緒選手のほか、ランキングを落としていた土居美咲選手も復調の兆しを見せています。女子ダブルスでは二宮真琴選手、加藤未唯選手、穂積絵莉選手、青山修子選手。若手では、小堀桃子選手、清水綾乃選手らが期待の選手です。ジュニアの内島萌夏選手はすでにシニアの大会でも準優勝していて、これから先が楽しみな選手の一人ですね。

協力:日本テニス協会 常務理事 土橋登志久様

インタビュアー:横田泉