東京2020オリンピック・
パラリンピック&55競技

見どころ紹介

テコンドー
パラリンピック競技

東京2020パラリンピックから、正式競技に採用されるパラテコンドー。オリンピックで行われるテコンドーと同様に迫力のある試合が楽しめるという同競技の魅力について、全日本テコンドー協会理事でパラテコンドー委員長の高木伸幸氏に聞いた。

東京2020で行われるパラテコンドーについて教えてください。

テコンドーにはキョルギ(組手)とプムセ(型)とがあるのですが、パラテコンドーには上肢障がいのある選手がするキョルギと、主に知的障がいのある選手が行うプムセがあります。東京2020パラリンピックでは、上肢障がいのある選手によるキョルギが正式競技になっています。テコンドーと同様、蹴りを相手に入れることでポイントが入り、そのポイント数で勝敗を競います。テコンドーと違う点としては、頭への攻撃が禁止されていること、パンチがポイントにならないことなどがあります。ですがもともと足技が主体の競技なので、パラテコンドーもテコンドーに近い、迫力のある試合が楽しめる競技だと思います。

クラス分けはどうなっているんでしょうか。

パラテコンドーは「K41」~「K44」の4つのクラスに分けられます。両腕のない選手が一番障がいが重い「K41」、両腕の肘から下がない選手、片腕がほぼ全てない選手が「K42」、両肘の関節よりも下かつ、両手の関節よりも上の両腕欠損の選手が「K43」、両腕はあるが片腕に機能障がいや麻痺がある選手、片手の肘から手首の間で腕がない選手が「K44」。大まかに言うとこういったクラス分けになりますが、このほか、腕の機能障がいのある選手や、足の指に欠損がある選手も「K44」に振り分けられます。ただし、パラリンピックで実施されるのは「K43」と「K44」を一つにした1クラスのみ。そのクラスが体重別に3つに分けられ、男女各3つの階級で実施されることになります。障がいの軽い「K43」、「K44」の選手はパッと見ても障がい者と分からないような選手も多いので、なかなか見応えのある試合が繰り広げられます。

全日本テコンドー協会

競技をするにあたって、選手にとって課題となるのはどんなところですか。

やっぱり一番はバランスですかね。見ていて感じるのは、先天性で障がいのある選手は、これまでそれで生活してきているので、バランスを取るのが上手ですね。事故など後天的な理由で腕を失った選手は、競技を始めた当初はバランスが崩れやすかったり、左右で蹴り方が大きく違ったりと、バランスを取ることに苦戦する選手が多い印象です。逆に言うと、先天性の選手はそこが一つの強みにもなると思います。

東京2020に向けて、パラテコンドーはどのように強化を行っていますか。

パラテコンドーは東京2020パラリンピックで初めて正式競技になるんですが、それが正式に決定したのが数年前なんです。そこからテコンドー協会内にパラ委員会を作って、手探りながら選手を探すことから強化をスタートさせました。選手を探すために行ったことの一つが、「東京都のパラリンピック選手発掘プログラム」というイベントへの出展です。そのイベントでは色んなパラ競技がブースを出展して、来場した障がい者の方に様々な競技を体験してもらうんです。そこで興味を持ってくれた人に対して、一緒に始めましょうと声をかけて、サポートしていく、という方法で強化を行ってきました。このプログラムをきっかけに競技を始めた選手もいますし、一方で東京2020の競技にパラテコンドーが採用されることを知って、自ら協会に問い合わせてきた選手もいます。現在は日本財団パラリンピックサポートセンターから支援をいただき月1回の体験会を実施しています。問い合わせがあればそこで体験をしてもらって、興味があれば道場を紹介する、という形をとっています。

練習はどのような形で行っていますか?

パラテコンドーは選手数が少ないので、健常者と同じ道場に所属して、同じように練習を行っています。この健常者と一緒に練習を行えるという点もパラテコンドーの特徴の一つだと思います。例えば、テコンドーの日本代表選手を多く輩出している大東文化大学にもパラテコンドー選手が所属しているんですが、日本トップの選手と一緒に練習できるというのは得るものがとても大きいと思います。東京2020に向けた合宿も、オリンピック・パラリンピックの選手が共に行うんですが、その合宿もパラの選手にとっては特に良い経験になっていますね。

全日本テコンドー協会

パラテコンドーならではの見どころはどんなところにありますか?

障がいの部位や程度というのは、人によって本当に様々なので、それぞれが戦い方を工夫している点ですね。テコンドーでは腕をガードに使うことが多いのですが、上肢障がいがあるとそれが出来ないんです。そのため片腕に障がいのある選手なら、腕がある方を前にして構えるようにしたり、両腕がない場合は足をガード代わりに使ったりと、フィジカルの不利に対してそれぞれに工夫しているんです。人によってファイトスタイルが大きく異なるのは、パラテコンドーならではだと思います。

パラテコンドーの強豪とされる国はどこですか?

パラテコンドー自体がまだ始まって間もないスポーツなので、テコンドーに比べると偏りが大きいのが現状です。現時点で、選手層が厚くて強いのはロシア、トルコ、イランです。少数ながら強い選手が多いのが、モンゴル、フランス、イギリスですね。テコンドーの強豪とパラテコンドーの強豪はリンクしている部分もあるんですが、一方でテコンドー発祥の国である韓国がまだあまり強くないというのは、ちょっと興味深い特徴かなと思います。恐らく、日本と同様に強化を開始する時期があまり早くなかったことが原因かと思うのですが、今韓国内でも選手探しに力を入れてきているようなので、今後はもしかしたら強くなってくるかもしれません。

パラリンピックへの出場資格はどのように与えられるのでしょうか。

パラリンピックでは、「K44」で世界ランク4位まで、「K43」で世界ランク2位までの選手に出場権が与えられます。また日本には男女合わせて3つの開催国枠があります。開催国枠のうち1つは必ず女子でなければならず、現在、日本のパラテコンドーの強化選手の女子は太田渉子選手1人なので、現状では太田選手が確定しています。残り2つの枠を今後、男子選手が争う形になります。

パラテコンドーの注目選手を教えてください。

まずは「K44」の伊藤力(ちから)選手ですね。彼は事故で右腕を切断しているんですが、テコンドーを始める前にアンプティサッカー(切断障がいを持った選手が行うサッカー)をやっていて、そこからテコンドーに興味を持って本格的に競技を開始しました。パラテコンドーではパイオニア的な存在です。ただ、最近は伊藤選手に迫るくらい成長をみせる選手も多く出てきています。その一人が「K43」の阿渡(あわたり)健太選手。彼は去年の4月頃に競技を始めたばかりなのですが、今年5月に行われた国際大会の初戦で世界ランク3位の選手に勝って、2回戦目では世界ランク2位の選手にも勝利しました。決勝では惜しくも敗れてしまいましたが、銀メダルの快挙を成し遂げています。阿渡選手は幼少期からサッカーをやっていたため身体能力が高く、オリ・パラの合同合宿でフィジカルトレーニングをすると、トップの成績をとることもあるんです。今後、注目選手の一人だと思います。
また、星野佑介選手も期待の選手の一人です。星野選手や伊藤選手のいる「K44」には、世界ランク1位で圧倒的な強さを誇る、モンゴルのガンバット選手がいるんですが、星野選手は今年7月の国際大会でガンバット選手と白熱した試合を繰り広げました。結果は負けてしまったのですが、今後の成長が楽しみな選手です。こうした選手たちのことを知って競技を見てもらえると、より楽しんで観戦できると思います。

全日本テコンドー協会

協力:一般社団法人全日本テコンドー協会 理事
パラテコンドー委員長 高木 伸幸様
インタビュアー:横田泉