PHOTOGRAPHER INTERVIEW

画像:フォトグラファーインタビュー
  • ホーム
  • インタビュー
  • 阿部典子『ラグビー撮影の女性フロンティアが語るラグビーの魅力とは』

INTERVIEW09 阿部典子

『ラグビー撮影の女性フロンティアが語るラグビーの魅力とは』

阿部典子氏のベストショット
1/1600 sec F4.0 ISO-4000 ©JRFU,2018
撮影機材

EOS-1D X Mark II,EF400mm F2.8L IS II USM + EXTENDER EF1.4x III

これは2018年6月のリポビタンDチャレンジカップ日本代表対ジョージア戦の1枚で、レメキ・ロマノ・ラヴァ選手がトライを挙げて、皆で抱きついている1枚です。レンズは400mm F2.8に1.4のテレコンをつけています。選手の表情にスポットを当てたもので、全員の力でトライを挙げた喜びを伝えている1枚だと思います。普段いかつくて必死の形相でボールを追いかける選手たちが、このときばかりは無邪気な少年のような表情になるのが魅力的ですよね。

PROFILE

阿部典子(あべ・のりこ)

阿部典子

1963年北海道札幌市生まれ 北海道札幌清田高校在学中に写真部に入部。卒業後、会社員をしながら撮影活動を開始。1986年に二科会写真部北海道支部に入部。弟の影響でラグビーの撮影を始める。 2008年8月よりフリーランスのプロとして活動を開始。
1994年から開催しているラグビー写真展「思い出のノーサイド」はこれまで5回実施。
(公社)日本写真家協会(JPS)会員 (公社)日本写真協会(PSJ)会員

女性ラグビーフォトグラファーの草分け的存在として、日本ラグビーの変遷を見つめ続けてきた写真家の阿部典子氏。試合の決着だけでなく、選手の心情に迫り、競技への造詣も深めた1枚には限りないラグビーへの愛情が込められていた。アジア初開催となるラグビーワールドカップ2019™日本大会を前に、ラグビーと写真への思いを語ってもらった。

カメラとの出会いを教えてください。

写真にはごく普通に接していて、父親がカメラを持っていて私たち子どもを撮影していたぐらいで特別に意識を持っていたわけではありませんでした。中学校では陸上部で、高校でも競技を続けていましたが、写真部の友達が暗室で現像をするところを見せてくれたんですね。当時は銀塩写真だったので、現像液の入ったバットに紙を入れたところ、像が浮かびあがる瞬間に大変感動を覚えました。写真はこういう感じにして出来るんだと、そこから興味を持つようになって写真部に入部しました。しばらくは陸上と平行させていましたが、陸上の記録が振るわなくてこのまま中途半端な状態で続けるのも嫌だったので、高校1年生の秋ごろからは写真部に専念することにしました。

最初は友人の記念撮影から始めましたが、次第に学校行事や部活動の試合などを撮影するようになりました。写真部には写真好きな先輩が色々熱心に教えてくれて、当時はまだフィルムカメラが主流で、現像コストがかかるカラーはとても手が出なかったので、私は安価な白黒写真を中心に焼きつけの技術を磨いていきました。また先輩方は各メーカーのフラッグシップを使う中で、私は親の持っていた全自動コンパクトカメラを使っていたのですが、少しずつカメラの事が分かってくると、これではダメだと思うようになり、実家の花屋で必死にアルバイトをしてお金を貯めて、憧れのキヤノンF-1を手にすることができました。
その後は写真を撮ることがとにかく楽しくて、将来仕事に出来たらいいなと思うようになり、高校3年生の進路相談の時に親に「東京方面の写真専門学校に行きたい。」と打ち明けたら、「何を言っているの」と言われてしまいました。親は自宅から通える範囲で普通に進学することを希望していたようで、自分の意にそぐわない勉強をしたくなかった私は高校卒業後就職してお金を稼ぎながら、カメラ、レンズ、暗室用品などの撮影機材を揃えてアマチュアで活動することになりました。

その頃の被写体はどんなものを選んでいましたか?

とにかく見境無く、自分が興味を惹かれたものは何でも撮っていました。特に好きだったのは、小樽運河や札幌大通公園の冬に点灯されるホワイトイルミネーションでしょうか。その日の気分で、風景や人、動物など思い立つままにシャッターを切っていたのを覚えています。独学で技術を磨き、公募展に応募するなどして楽しんでいました。

ラグビーを撮影するようになったきっかけは?

大学からラグビーを始めた弟から、練習試合の撮影を依頼されたことがきっかけです。
当然ルールも全く知らなかったのですが、「観ていればわかる」と半ば強引に連れて行かれて、とりあえずトライまでの過程を撮ることに専念しました。すると次第に15人の選手が楕円形のボールを追いかける迫力と、泥だらけになりながらチームプレーをする姿に心を打たれてしまって、そこからの被写体はラグビーが中心となりました。
弟がラグビーから卒業しても、自宅から徒歩圏内に月寒ラグビー場があったこともあり、試合や合宿に来る高校、大学、社会人チームを撮影するようになりました。時には写真を送って差し上げてお礼状を頂き楽しい交流をしていました。そうして続けていくうちに、この素晴らしいラグビーの魅力を多くの方に伝えたいという思いが強くなり、1994年に月寒で撮影してきた作品を集めた初個展を開催しました。当時はアマチュアリズムが非常に厳しく、金銭授受、スポンサーシップ、名声利用という面で規制があり、今までにない文化的行事に許可をいただくことが課題だったのですが、二科会写真部北海道支部というアマチュア団体に属していたことや、北海道ラグビー協会に趣旨をきちんと説明した上で初開催にこぎつけることができました。
その後は『思い出のノーサイド』という展名つけてシリーズ化させていくのですが、2回目の展示を終えたとき、キックオフの時間が決まっていて、撮影できるチームや構図もマンネリ化していた月寒ラグビー場では限界だと感じていました。もっと全国のラグビー場に行って、より多様な作品を撮りたいと秩父宮や花園など色々な競技場へ遠征するようになりました。

阿部典子

プロ転向への経緯を教えてください。

アマチュアとしてラグビー撮影を中心に活動していたのですが、東京で写真展をやったときにある方から撮影機材を聞かれて答えたら、『それはプロが使うカメラじゃないの?』と言われてショックでしたね。まるであなたが使うカメラではないと言われたように感じて悲しい気持ちになりました。しばらくはモヤモヤした気持ちを引きずっていたのですが、別の女性プロの方とお話する機会があって、その事を話したら『写真展はそこに張られたものが作品。カメラは関係ないわ』と言われとても勇気をもらいました。そうか!私もプロになればいいんだという気持ちを後押ししてくださった言葉でした。
でもプロになる土台は持っていなかったので経験を積んでいきました。
北海道夏合宿に来るトップリーグチームの練習試合の撮影を引き受け、北海道ラグビー協会の方にもそれまでボランティアで提供していたポスター用画像を発注してもらいました。またラグビー雑誌にも写真を入稿するなど、小さな仕事を積み重ねていきました。そういった実績を持って2012年に日本写真家協会に入会することができました。2008年から写真でお金をいただいていましたが、やっとラグビーの写真家として認知されるようになったと思います。
現在力を入れているのは日本代表とトップリーグ、高校生が中心ですね。札幌在住ですが、大会ごとに現地に出向いて撮影をしています。依頼があれば専門誌にも写真を納品しています。

ラグビー撮影で心がけていることはありますか?

まずはここぞという瞬間を逃さないことですね。あとは試合カードや天候、競技場の広さを考えてベストなレンズ選択を心がけています。私は選手が走るシーンと、ボールを蹴るシーンで、微妙にシャッタースピードを変えています。構図でもボールを蹴る選手の脚の角度や、選手と放たれたボールの軌道が対角線上に納まるような工夫をしています。
フィギュアスケートに例えて、技術点を狙うか表現力を狙うかと言えば、私は4回転ジャンプに挑戦したい。つまり技術的に難しい撮影に挑戦したいと思っています。技術が優れた1枚にこそ伴う表現力があると思っています。それをストーリーとして繋げたい。また無意味に動画(連続)シャッターは切らないようにしています。バッファーもいざという時に空けておきたいのと、フィルム時代の癖がついていて、連写もせいぜい10枚程度。大事にシャッターを切る癖がついているからでしょうか。撮影後の選別も早いですしその分、シャッターも長持ちしている気がします。

現在の使用機材を教えてください

EOS-1D X Mark Ⅱ、EOS-1D X、EOS 5D Mark Ⅲ、EOS 7D Mark Ⅱを使用しています。
主に1D X Mark Ⅱと1D Xを使っていて、1D XにはEF70-200mm F2.8L IS II USMを付けています。
レンズはEF400mm F2.8L IS II USMが主流になっています。雨や暗い条件でも強いレンズですね。でも広くて照明の明るい競技場などの良い条件がそろえば、EF600mm F4を持ち出します。両方とも解像が良くて良いレンズですが、F2.8の方が絞りのバリエーションが使えます。でも遠くの被写体には400mmにテレコンをつけるよりも、EF600mm F4L IS II USMの方で撮影した方がオートフォーカスも速い気がします。キヤノンさんの機材はやはり信頼度が高いですよね。シャッター耐用回数も想像を超えて使えていたし、サービス体制もしっかりしているので安心です。

阿部典子

今後のキヤノンに期待することは?

北海道から飛行機に乗って全国各地に移動するので、やはり機材の重さが鍵になりますよね。
出来ることであれば、性能や使い勝手はそのままに軽くなってくれることを期待します。
でも最近の単焦点EF400mm F2.8L IS III USMはかなり軽くなっているので近々購入予定です。
ミラーレスにも興味がありますが、長年身に染み付いたユーザビリティがあるので、それに準じたものになってくれたらサブカメラとして候補を考えたいと思います。

一般の方がスポーツ撮影を楽しむコツはありますか?

無理のない機材で楽しんでください。プロ用の機材でなくても、撮ったもので楽しめればいいと思います。ラグビーワールドカップには世界各国から多くのファンがやってくるので、競技だけでなくスタジアムの様子や、その周辺での交流も撮影してもいいですよね。気ままにシャッターを押すのもいいですが、せっかくなら自分がいいなと思った光景や構図なども意図することでより写真への愛着が沸いてくると思いますので、色々チャレンジをしてみてください。

9月に開催される日本でのラグビーワールドカップではどう関わりますか?

現在日本代表戦を含めた10試合を撮影する予定です。地元の札幌での試合も撮れるので念願叶って嬉しいです。私は2015年のワールドカップイングランド大会も撮影したので、その実績がワールドラグビーに認められたのでしょうか。試合だけでなく出場チームと地域の交流イベントなども撮影できたらと思います。

今後の目標を教えてください。

また写真展をやりたいですね。試合会場で録音した音声を写真展の会場に流すことで観た方により臨場感を感じてもらえるような工夫をしてきました。また撮影した1枚1枚にその写真のシーンを表す短い言葉をつけて、最後にその言葉をつなげて1つのストーリーにするという試みもしております。現在は音声や肖像権などの権利関係も複雑になりましたが、今後も五感を活用しながら写真が持つ表現や発信力を高めていければと思っています。作品を通じて交流が生まれ、ラグビーがより多くのファンに愛される競技になるよう力を尽くしたいです。

インタビュアー:小笠原 大介