PHOTOGRAPHER INTERVIEW

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INTERVIEW03 出村謙知

人が極限状態になる瞬間を捉えられるのはこの上ない幸せ

出村謙知氏のベストショット
1/500sec F7.1 ISO5000 ©JRFU,2015
撮影機材

EOS-1D X, EF70-200mm F2.8L IS II USM

2015年春、香港代表とのアウェー戦が、あまりの激しい雨のため開始数分で打ち切られました。通常は雨天決行が当たり前のラグビーの試合が中止になるほどの豪雨だったのに、エディー・ジョーンズヘッドコーチ率いる当時の日本代表はそのまま練習を始めた。私も海のようになったグラウンドに突進して撮影。もちろん練習だったから可能だったわけですが、できるだけ近づきながら、選手たちの動きと水しぶきなどの臨場感を出すため普段よりもシャッタースピードを遅めにして撮影しました。

PROFILE

出村謙知(でむら・けんじ)

出村謙知

1964年北海道生まれ。明治大学経営学部卒。90年代初頭からフランスパリをベースに、ラグビー、サッカー、アイスホッケーなどのスポーツ分野を中心にフォルトポルタージュを手がけてきた。ラグビーW杯は、1995年の南アフリカ大会以降、すべての大会で開幕戦から 決勝戦まで取材。世界有数のラグビーテストマッチ撮影数を誇ると自負している。現在は 日本ラグビーフットボール協会やアジアラグビー(アジア協会)、ワールドラグビー(旧国際ラグビーボード)のオフィシャル撮影なども担当。

学生時代からラグビーと写真が好きだった出村謙知氏。1995年の南アフリカ大会をきっかけにワールドカップでの経験も重ねながらラグビー撮影の虜になっていったようです。試合撮影のスキルが上達するコツや、2019年のワールドカップで楽しんで欲しいユニークな観戦文化についても触れていただきました。

写真を撮るようになったきっかけを教えてください。

「自分で撮るようになったのは、20代前半で英国南部に語学研修に行ったのがきっかけですね。それまでも、写真展に行ったり写真集を集めたり、写真を見ることは好きだったのに、自分で撮るということには結びついていなかった。その頃は自分のカメラさえ持っていなかったのですが、実家に古い一眼レフがあったのを思い出して、記念写真でも撮るつもりで英国に持っていったら、自然に写真を撮り始めるようになりました」

「いま考えると、海外旅行でカメラを首からぶら下げて写真を撮りまくる昔のジャパニーズのイメージそのままですね(苦笑)。写真集で見たものなのか、一時期たくさん観ていた映画から自分の中に蓄えたイメージなのかもしれないですが、英国に行ったら自分が素直に共感できる光景が目の前にそのままあった。それで、どうしても撮りたくなったんだと思います。何を撮っていたかというと、基本的には人ですね。街の中の人間というか」

ラグビーの撮影はどんなきっかけで始めたのですか。

「自分としては小さい頃から一生懸命スポーツをやってきたつもりなので、撮影対象としてのスポーツにも当然、最大限の興味が沸いて……でも、ラグビーを本格的に撮るようになったのも実は欧州でなんです」

「大学卒業後、渡英前からアルバイトとして働いていたメディア関連会社にそのまま就職。4年ほど休みもほとんどないようなかたちで働いた後、運良くパリ駐在員としてフランスに赴くチャンスを得た。どうせだったら自分のやりたいことをガンガンしたいなと思って、無謀にも子供の頃からテレビで観て憧れていたファイブ・ネーションズ(=当時。イングランド、フランス、アイルランド、スコットランド、ウェールズによる対抗戦。現在はイタリアが加わりシックス・ネーションズに)の撮影にいきなり行っていました」

出村謙知

「小さい頃から日本の大学ラグビーも大好きでいつもテレビで観ていて、大学生の頃はラグビー観戦に明け暮れていたのですが、本場・欧州のラグビースタジアムは秩父宮ラグビー場とも国立競技場(当時)の雰囲気とも全く違った。撮影に関しても技術というか流儀を欧州のラグビースタジアムで学んだのは確かなのですが、それよりも人間力を学んだという感じですかね。大げさかもしれないですけど」

「ひと言で言えば、欧州のラグビーファンは”大人”ですね。いつの間にか日本の大学ラグビーだと「〇〇大学の応援席はこちら」といった具合に、チームごとにサポーター席を分けるようになってしまっていますが、どちらのチームのサポーターも入り混じって応援するのが本来のラグビー観戦の流儀。欧州のラグビースタジアムでは、呉越同舟の中でお互いを面白おかしく相手をけなしたりする場面もあったりしますが、あくまでもそれは予定調和的なジョークとして成り立っていて、そのやりとりさえもラグビーを楽しむ余興として存在している。それは、例えばスタジアムに向かう列車の中などでも一緒で、お互い応援歌やエールのやりとりをしながらも、一触触発な雰囲気は皆無」

「欧州ではサッカーも撮影していたのですが、次第にラグビー取材に特化していった理由のひとつに、観客も含めた深みのあるラグビー文化に魅せられた面があったのは確かですね。その一方で、ラグビーは生身の人間がぶつかり合うコンタクトスポーツなので、単純な撮影対象としても迫力があって撮りがいあるというのもあります。コンタクトスポーツは決死の覚悟を決めないとできないものだと思いますし、人間が極限状態になる場面に遭遇できる。その瞬間を捉えられるのは撮影者としてはこの上ない幸せですね」

「ラグビーは集団競技なのでとんでもないスーパースターがいたとしてもそれだけではチームという全体が好結果を出すことにはつながらない。自分が頑張るだけではダメという不条理を抱えたチームスポーツでもあるのも魅力的だと思っています。だからこそドラマが起きやすいし、基本的には勝者よりも敗者により惹かれます」

4年に1度のワールドカップは、1995年の第3回大会から撮影されています。

「ワールドカップを撮り続けている理由としては、自分が最初に経験したワールドカップが1995年の南アフリア大会だったというのが大きいかもしれません。あの大会は本当に特別だった」

「当時、南アフリカでラグビーは白人のスポーツと認識されていたし、黒人にとってはあまり印象の良くないスポーツだったわけです。南アフリカ代表スプリングボクスは1987年の第1回、1991年の第2回のワールドカップには参加できていません。それは、国として人種隔離政策を取っていたから。それが終わり、生まれ変わった自国で世界有数のスポーツイベントを開催できるようになった南アフリカですが、開幕までは否定的な意見も多くありましたが、スプリングボクスが勝ち進むに連れて、空気がどんどん変わっていった。このあたりのことは映画『インビクタス/負けざる者たち』に描かれているとおりですが、僕自身もヨハネスブルグで知り合った青年が、最初はアンチラグビーを主張していたのに決勝戦ではスプリングボクスジャージを着て南アフリカ代表を応援するまでになったのを身近で経験しました。その時の彼の照れ臭そうな笑顔は忘れられないですね」

出村謙知

「もちろん、あの時の南アフリカという国、そしてそこにおけるラグビーという存在が特別なものだったことは間違いなくて、あんな大会は2度とないかもしれません。ワールドカップ取材を通して仲良くなった地元人フォトグラファーが真顔で「街中では絶対にカメラを持ち歩くな」とアドバイスしてくれるほど治安が悪かったことも含めて、あの時の南アフリカワールドカップを経験したのがその後もラグビーにこだわり続けていることにつながっているのは間違いないですね」

以後も5大会のワールドカップなど多くの試合、大会を撮影して来られました。良いシーンを収めるために工夫されていることを、写真撮影をされるファンの方向けにお伝えいただけますか。

「この記事を読んでくれるようなラグビーに関心のある方なら大丈夫だと思うのですが、まずは対象への理解度はあった方がいいと思います。ラグビーの試合を撮るのであれば、ゲーム理解度は深い方がいい。狙いはそれぞれあるとは思うのですが、次に何が起きるかを予測する力はどんな写真を狙うにしても必要でしょう」

「たとえば、日本代表の試合でウィングに福岡堅樹選手が出ていたなら、その存在はファインダーの中に映り込んでいなくても、常に意識しておきます。自分から見て左側で何かが起こっていても、一番右側のスペースにも意識を置いておくというか(福岡選手は左ウィングで起用されることがほとんどなので)。そうしないと、実際に福岡選手にボールが渡った時に対応できなくなります。他の選手になら多少遅れても対応できたりしますが、福岡選手はとびきり速いので。あるいは、セットプレーの強い庭井祐輔選手が出場した場合、スクラムやラインアウトが安定するので、そこからバックスのサインプレーなども決まりやすくなって要注意です(笑)。セットプレーの強さに見とれていると、決定的なシーンを逃すことになるかもしれない。バックスのきれいなサインプレーによるトライが決まった裏で、泥臭いプレーでそのお膳立てをしたフォワードの選手が相手ともみくちゃになりながら小さくガッツポーズをするシーンなんか撮れたら、それも素晴らしい写真でしょう」

「もちろん、ラグビーの試合中はピッチ内には入れないので、望遠レンズで撮影するのが基本です。メインレンズとしては『EF400mm F2.8L IS II USM』を使っていて、8割くらいはテレコンを付けた状態で撮っている感じでしょうか。試合中に手前で起きたことへ対応する持ち替え用としては『EF70-200mm F2.8L IS II USM』を使っています」

「使用する望遠レンズはどこまでグラウンドに近い場所で撮影できるかにもよるわけですが、ラグビーのように動きが激しく、かつ不規則な動きをする被写体を撮影する訓練としてはズームレンズではなく単焦点レンズを使うのがひとつの方法かなと思っています。基本的にアタックする側を正面(ゴール裏)から撮影する場合、不規則な動きをしながら自分に近づいてくる。時には、ペースを変えたり、相手と接触しながらです。単焦点レンズの場合、ズームのようにその状況によって枠を広げたり、狭めたりできないので、常に同じフレームの中に自分の撮りたいものをどう捉えていくか、たとえば、全身が枠に収まらない場合など、どこを強調して撮影するのか一瞬での判断と動作が求められる。そういう作業の繰り返しは写真の上達につながる気がします」

2019年には、ワールドカップ日本大会が始まります。ご自身が楽しみなこと、ファンの方に楽しんで欲しいことは何でしょうか。

「ヨーロッパでも南半球でも、成熟した観戦文化を持っているのが、ラグビーという競技のひとつの特徴だと思います。試合だけではなく、スタジアム内外でそうした粋な部分を感じてもらえたらいいですね。それを体験することで、自分のスポーツの楽しみ方が変わると思います。撮影という意味でも、先ほど話した『被写体への理解度』も高まるかもしれません。スタジアム周辺で面白い写真が撮れること請け合いです!」