PHOTOGRAPHER INTERVIEW

画像:フォトグラファーインタビュー
  • ホーム
  • インタビュー
  • 松本かおり「相手への尊敬」を抱きながら最高の瞬間を切り取る

INTERVIEW06 松本かおり

「相手への尊敬」を抱きながら最高の瞬間を切り取る

松本かおり氏のベストショット
1/1250sec F4.0 ISO640 ©JRFU,2018
撮影機材

EOS-1D X MarkII, EF400mm F2.8L IS II USM +EXTENDER EF1.4x III

日本代表対ニュージーランド代表戦(2018年11月3日・味の素スタジアム)の試合前、ニュージーランドのハカを見つめる日本代表の選手たちです。直前まで自分がどちらサイドから撮影できるかわかりませんでしたが、ニュージーランド側になりました。日本代表がじわじわと前に出てきて、それぞれがすごくいい表情をしているんです。自分の中でも血がたぎってきた感じでした。本当はすごく緊張しているはずなのに、リーチ選手は少し笑っているんです。キャプテンとして先頭に立っている表情に感動しました。流選手は真面目な選手ですが、相手を威嚇しているような顔をしている。田村選手、姫野選手もそうです。福岡選手は走り出しそうな感じで。やっぱり表情なんです。ああ、ラグビーだなって感じた瞬間です。

PROFILE

松本かおり(まつもと・かおり)

松本かおり

広島県生まれ。都立駒場高校、専修大学文学部卒。大学1年時、入部したスポーツ新聞部でラグビー部担当に。撮影、交流をする中でラグビーに魅かれていく。2010年よりベースボール・マガジン社「ラグビーマガジン」で編集補助をしながら、フリーランスのフォトグラファーとしての活動をはじめる。現在も同編集部での仕事を中心にラグビーの撮影を続けている。ラグビーW杯は2011年、2015年大会を撮影。7人制ラグビーの国際大会や、女子ラグビーの撮影も多数。2016年1月に高円寺で初の個展を開催。

これも運命だろう。ラグビーワールドカップの第一回目となる1987年ニュージーランド・豪州大会の最中に生まれた松本かおりさんは、ラグビーとともに生きている。いつもポジティブに。いつもはつらつと。5月27日の誕生日に、実はニュージーランド対フィジー戦が行われていた。それを知ると、「へえー、すごいなぁ」と笑い、愛らしい顔の両ほおにエクボができた。2016年に開いた個展のタイトルは『ぜんぶ、ラグビー』。人一倍ラグビーを愛してやまない松本さんに、写真との出会いから、ラグビーワールドカップ2019™日本大会にかける思いを聞いた。

シャッターを押す時、それはどんな瞬間でしょうか。

全部、ですね。特に選手がラグビーを好きなんだろうなと思う瞬間です。頭を踏まれるかもしれないのにセービングに行っている。ラグビー選手はいつも全力。そんなプレーを見る時、シャッターを押すんです。試合でいえば、スコアが競っていてスタンドの歓声しか聞こえない時がありますよね。ああ、ラグビーは最高だなって思います。

フォトグラファーになったきっかけと、ラグビーを撮るようになった経緯を教えてください。

中学でバスケットボール部に入っていた時、先輩のお父さんがフォトグラファーで試合を撮ってくれていたんです。そして卒業する時、自分の写真をもらってすごく嬉しくて。高校時代は試合にほとんど出られなかったんですが、家に帰ってその写真を見るとバスケがうまそうに見えて、とても勇気づけられていました。それで、自分もそんな写真を撮りたい、選手の力になれるようなフォトグラファーになりたいなって思いました。バスケ部を引退してから担任の先生にスポーツの写真を撮りたいと言ったら、一眼レフを貸してくれて。それがもう面白くて。

松本かおり

写真の専門学校に進もうかと迷ったが、結局は四年制大学に進学。たまたま「スポーツ新聞部員募集中」という張り紙を目にし、部室を訪ねたそうですが、これもまた運命ですね。

そうです。写真も撮って原稿も書くんです。ラグビー部も担当になりました。その頃、ラグビー部は全然注目されていなくて、私がグラウンドに行くと、選手が喜んでくれたんです。「まっちゃん、おれも撮って、おれも撮って」って。そんなに歓迎されたことなかったので嬉しかったです。チームはほとんど勝てなくて、それがつらくて、つい魂を揺さぶられてしまうんです。ラグビー部に感情移入しすぎて、何もできない自分もいました。少し被写体から一歩引いてみなければいけないというのを大学の時に学びました。

大学を卒業して、ラグビー専門誌『ラグビーマガジン』に入ったのですか。

最初は編集プロダクションに入ったのですが、5カ月の研修で辞めてしまったんです。『ラグビーマガジン』のアルバイトの募集を聞いて、その日のうちにもう「やります、やります」って。編集補助のアルバイトでしたが、1年経った頃に「私は写真でやっていきたい」と編集部のみなさんに話したんです。

ラグビー専門誌のお仕事は忙しいはずです。

だから面白いんです。土日の試合のほか、記者会見や練習、インタビューやチームルポなど、毎日何かしらあって、全部撮っている感じが楽しいんです。

プロだと責任も大きいですよね。疲労はないですか。

そうですね。絶対撮らなければいけないので、緊張して気持ちが悪くなることもあります。写しながら、自分がこんなに心が疲れているんだと感じる時もあります。この間の日本代表のニュージーランド戦も、興奮はしているんですけど、途中でぐったりしている自分に気づくんです。結構メンタル面の戦いです。お腹も痛くなるし、胃が弱くなりました。

フォトグラファーは一瞬を逃すとアウトですからね。大変なお仕事です。

絶対に逃してはいけないシーンってあるじゃないですか。例えば、前回のワールドカップの日本代表対南アフリカの最後のヘスケス選手のトライシーンとか。あれを撮れなかったら、フォトグラファーは辞めなきゃいけない。ポジションの関係もありますが、いざ自分の前で決定的なプレーが起きた時、絶対に撮らなきゃいけないプレッシャーはあります。

実際、失敗したことはありますか。

あります。いっぱいあります。情けなさすぎてお話できません。

それでも、いつもいい写真撮ってらっしゃいます。『ラグビーマガジン』10月号のキヤノンイーグルスの天野選手のボールをほうる写真はド迫力でした。

ありがとうございます。私もすごく気に入っている写真です。天野選手が何回もボールを投げてくれたんです。実は私、芝のグラウンドに寝転んで、お腹の上に置いたボールを投げてもらったんです。「叫んでください」って言いながら。すごくいい顔してくれました。

松本かおり

すごいプロ根性ですね。

だって、少しでもいい写真を撮って、その人にも喜んでもらいたいじゃないですか。写真を嫌な思い出にしてほしくないんです。相手への尊敬ですね。これは、いつも大事にしています。

いい写真を撮る際のおまじないやゲン担ぎはありますか。

「ヘスケスのトライ」って念じて撮っています。いつも、これは日本代表対南アフリカのヘスケス選手のトライだと、そのくらいの瞬間だと思って撮らないといけない。

機材は重いかと思いますが、身長はどのくらいでしょうか?

高校の時に測って156cmでした。たぶん機材を持って縮んでいると思います。

どのようなカメラ機材を使い、重さはどれくらいでしょうか?

撮影の時、ボディがEOS-1D X Mark IIともう一台くらいです。レンズがEF400mm F2.8L IS II USMともうひとつ。EXTENDER EF1.4×IIIを合わせると、10kgほどじゃないですか。昔、キヤノンさんに切り替えた時、びっくりするくらい軽かった。軽いと動きやすくなるので、スポーツ取材で機材の軽さは大事です。あとオートフォーカスの速さ、食いつきが良くて、キヤノン機材を信じている感じです。

相棒のようなものですね。

そうですね。自分にとって一番怖いのは、カメラが壊れることなんです。レンズが割れる夢をよく見ます。落として割れる、一番怖いのがそれなんです。

ラグビーワールドカップは過去、2011年ニュージーランド大会と2015年イングランド大会に取材で行ってらっしゃいますね。

はい。ですが、2011年大会は2試合だけ、2015年大会は3試合だけでした。志願して自腹で行かせていただきました。2011年大会の開幕試合は、感動して泣きながら撮影しました。2015年大会のウェールズ対フィジーはカーディフの街がすごかった。パブではでっかいビールをたくさん飲んでいて、外ではスクラムをして盛り上がっている人たちもいて。ワールドカップっていいなあ、とつくづく感じました。

2019年日本大会への意気込みは?

今度は、『ラグビーマガジン』の戦力として撮影させていただくつもりです。期間中、初めてずっとその場所にいられるんです。こんな幸せなことはありません。頑張ろうって思っています。

夢はありますか?

目標ですが、ワールドカップでヘスケス選手みたいな決定的な瞬間を撮ることです。

インタビュアー:松瀬 学