PHOTOGRAPHER INTERVIEW

画像:フォトグラファーインタビュー

INTERVIEW04 谷本結利

スクラムって造形美なんです

谷本結利氏のベストショット
1/6400sec F2.8 ISO2000 ©JRFU,2018
撮影機材

EOS-1D X Mark II,EF400mm F2.8L IS II USM

これは、2018年6月23日、日本代表VSジョージア代表の試合です。ラグビーを初めて観たとき、人と人が全力疾走でぶつかりあうというのが迫力があってかっこいいと思うのと同時に、美しいということに感動しました。8対8で組むスクラム、動かし方を計算して組まれるモール、ラックやスクラムから真っすぐ伸びるライン、ボールが出されると同時にそのラインに参加している選手たちが一斉に走り出す瞬間など、本当に綺麗だと思いました。

PROFILE

谷本結利(たにもと・ゆうり)

谷本結利

ラグビーを愛し、写真を愛し、家族を愛する獅子座の32歳。くらげのごとく、あくまで自然体。文豪・開高健の言葉を借りると、「漂えど沈まず」だろうか。初心と笑顔を忘れず、感謝を込めて、今日も女性の目線でシャッターを押す。

くらげのごとく、白い透明のレースをまとった谷本結利さんが現れると、人いきれで温かくなっていた部屋の空気が少し揺れた。よく笑う。すると、そこにいる者すべてが明るくなる。名刺をもらうと、赤や青や黄色のくらげの絵がたくさん描かれていた。「ふふふ。くらげ、好きなんです。何も考えていそうもなくて浮遊している姿を見ると、いいな、きれいだな、と思って」

静岡で生まれた。小学校6年の鎌倉への修学旅行の時、使い捨てのインスタントカメラで大仏を撮ったら、写真屋のおばあちゃんや学校の先生に褒められた。うれしくて、うれしくて。調子にのって、あとはカメラ一直線。中学3年でラグビーにはまり、高校では写真部に入ってスポーツはラグビーの試合ばかりを撮っていた。いまやプロの写真家として、ラグビーのテストマッチでもシャッターを切る。左利きだが、右の人差し指で。5、6kgの望遠レンズを2つ、ざっと10kgほどのカメラ機材を抱えて、フィールドを動き回る。

小柄な女性の谷本さんには難儀では。肩は凝りませんか。

「凝ります、凝ります、腰も痛いです。機材は重いし、力仕事ですね。これほどの力仕事とは思っていなかったです。でも、ラグビーは他の競技と比べると、女性フォトグラファーが多いように感じます」

そうなのですね。大変な想いをしても撮りたくなるラグビーの魅力とは。

「ラグビーはスポーツの中で一番格好良いと思います。全力疾走している人に全力疾走で当たるじゃないですか。スピード感も迫力もすごくて、身体全部を使って80分間やり切るんです。昔はバックスばっかり見ていたのですが、いまはフォワードにも目が行きます。特に密集プレーは撮っていて楽しいなと思います。スクラムやラック、モールは造形美だと思います。きっちり8人同士が組むスクラムは、構図としてすごく好きです」

シャッターチャンスは運もありますか。

谷本結利

「それは感じます。本当にスポーツは運だなと。もちろん、ある程度ルールをわかっていないといけませんが。どこにトライするのか、流れを読むことも必要です。運を呼ぶために会場には早めに行くことにしています。カメラ位置は会場によって違うので、少しでも良いところに入れるよう交渉する時もあります。普段だと2時間前には行き、代表戦だと3時間前ぐらいでしょうか。だいたい試合が始まる前まで落ち着かず、うろうろしています。良い写真が撮れるかなって。良い写真を撮れればテンションも上がるし、撮れなければグッと落ち込みます」

写真を撮る時、気を付けていることは。

「被写体へのリスペクトです。被写体の人に嫌だなと思われないように意識しています。しつこく撮りすぎないようにとか。どうしても仕事で必要な時、例えば、ポートレートの時など、写真を嫌がる人だったら極力短く終わらせます。写真は一瞬が残ってしまうじゃないですか。インパクトあると思います。その一瞬がその人にとって嫌な瞬間だったら、悲しいですよね。それって、すごく暴力的だと思ってしまうんです」

ところで、高校卒業後、写真の専門学校に入って、半年間、東南アジアを歩き回ったそうですね。

「過酷でしたね。常に生活に必要なものや機材は自分で担いでいました。タイやベトナム、カンボジアなど9カ国。国境を越える時だけクラスメイトと集合して、国の中では単独行動でした。荷物を盗まれたり、詐欺にあったりした人もいましたけど、私は大丈夫でした。常に写真のこと、被写体のことを考えていました。タイではムエタイのジムで撮影していて、宿とジムの往復ばかりでした。言葉が通じなくてもニコニコして。あの時の体験は大きな財産になっています」

その財産を得るにあたって、何か学んだことってありますか。

「人のありがたみと、集中力です。スポーツは特に一瞬で何かが起こる。気を抜いていると、あれっ、ああああとなってしまう。また、フォトグラファーは基本的には被写体が好きであったほうが良いと思うんです。好きだったら、集中できると思うので。好きなほうが撮っていて楽しいですし…。好きな言葉?なんだろう。“人に誠実に”です」

大手新聞社系出版社の契約社員を辞め、いまはフリーランスです。

「毎日がすごく楽しいですね。ラグビーを好きと周りに言い続けて、周りの記者さんや編集さんからスポーツまわりの仕事をいただけるようになってきた感じです。そんな記者や編集さんにも、仕事があることにも、そして、現場にいられることにも、感謝しています。いつも仕事に対して、“ありがとうございます”と思っています」

ラグビーワールドカップの撮影は。

「実はまだ撮影した経験がありません。2019年の大会が初めてになりそうです。もちろんテレビでは見ていました。最初に見たのは、高校の時なので、2003年のオーストラリア大会でしょうか。2011年のニュージーランド大会の時には、事前に当時日本代表の菊谷(崇)さんら選手のポートレートを撮らせてもらっていたので、応援していました。ワールドカップってすごく楽しそうです。ふわっとした表現で申し訳ありませんけど、どの場面もすごく画になって。選手も観客も…。ラグビーファンもたくさん来るので、日本の人たちに“海外ではラグビーってこんなに人気があるんだ”って知ってほしい。まあ、一生に一度のお祭りですね。全部楽しそうです」

女性フォトグラファーならではの目線はありますか。

「あえて言うと、選手の表情を良く見ているのかもしれませんね。ぶつかった瞬間やトライでボールを置いた瞬間よりも、その前後の表情の動きにシャッターを押したくなります。表情はとても重要です」

インタビュアー:松瀬 学