インタビュー - Interviews -

鈴木 明子選手
インタビュー

文・野口美恵(スポーツライター)

2012年3月の世界選手権で銅メダルを獲得し、名実ともにトップスケーターの仲間入りを果たした鈴木明子。今季はグランプリファイナルに進出した一方で、全日本選手権は4位となり、来年のソチ五輪を目指すことを表明した。これまでの選手生活、そしてソチ五輪を目指す決意について聞いた。

調子の波があったシーズン前半
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2012-13シーズン前半戦を振り返っていかがですか?

今シーズン前半は、出来る時、出来ない時の差が激しく波がありました。練習で不安を抱えたままショートを滑るから結果が悪くて、その結果で気持ちが吹っ切れてフリーはある程度まで出来て、「ああなんとかなった」の繰り返し。結果としてGPファイナルに行けたけれど、すごい矛盾を感じていました。練習で出来ていないことは自分が一番分かっていたので。

練習の様子だと、12月始めのGPファイナルが調子が良く、12月末の全日本選手権では苦労していました。

ファイナルは調子を上げていっていたのに、フリーで力を出せなかったから「もっと出来るのに」ってとっさに言ったほどでした。でも全日本選手権は全然自信が無くて、ファイナルとは違う心理でした。だからジャンプをミスしても、「ああ練習そのまんま、当たり前」って。あまりに結果が悪かったので、吹っ切れて、ちゃんと休んでもう一度最初からやり直そうと思えました。

年末年始は、初めて長期休暇を取ったそうですね。

2日以上休むと、次の練習での(身体の)始動が遅くなるので長期休むことは今までありませんでした。10代の頃は毎日練習していましたし。今回、全日本選手権のあと12月27日からイタリアのアイスショーに行ったので、移動日などで結果的に1週間休んだんです。ちょっと休み過ぎかなって思ったのですが、全日本選手権の時に感じていた膝の痛みが取れたので、必要な休みだったと思います。

左膝の痛みが消え、調子に手ごたえ
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全日本選手権前のケガというのは、話していませんでしたね。

ええ左膝を。全日本選手権の1週間前のことでした。後の追い込み練習中にめまいがして、でも無理してジャンプを跳んだらひどい転び方をしてしまったんです。試合でも体調が悪い状況は起こりうると思ったので、跳んじゃって…。夜にはパンパンに腫れて、階段がとにかく痛くて上がれなくなっていました。

全日本選手権を棄権するほどではなかったのですか?

痛いけど出来ない訳じゃない、と考えて練習していました。でも痛くて左足から力を逃がすことで、だんだんジャンプの軸がズレたり、左脚の筋力を使わなくなっていたみたいなんです。ルッツやフリップで踏み込んだ時に、左足首、膝、股関節がまっすぐになるよう体重を掛けなければいけないのに、グニャっとなっていて。もちろん全日本選手権の時点では分からなかったから試合でミスしたのですが、正月明けに練習を再開した時に左足の筋力が弱くなっていたので、なるほど無意識で左足を使わなくなっていたんだな、と分かったんです。

痛みが取れて、ようやく本来のジャンプが戻ってきましたか?

正月明けてからは痛みがなく、自然に跳んでいるので、良いジャンプが跳べてきています。四大陸選手権、世界選手権に向けての練習がようやく始まったと実感しています。やはり年齢的にも、正しい身体の使い方をしないと筋力は落ちやすいし、あちこちにひずみが出ますね。全日本選手権の時は、調子が悪いのはプレッシャーのせいだと思っていましたが、それだけではない原因が分かったという感じです。

プレッシャーというと、昨シーズンに世界選手権で表彰台に乗ったことも影響していますか?

いつでも「挑戦者」と言いたいけれど、自分の成績や立場を考えた時に、完全にそう言い切るのは無理になってきました。知らないところでプレッシャーもあるのでしょうね。

「キル・ビル」のポーズが話題に
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「キル・ビル」のしゃがんだポーズが格好良くて、印象的な写真をGPファイナルで見ました。

凄く良い写真を撮っていただきました。あれは、ハイドロブレーディングという技の変形です。整体の先生には、膝が強いと言われました。でも実は、足首と膝を柔らかくするために、普段のスケーティングの練習から入れていた動きで、そこに目線を付けてみただけなんですよ。インパクトは残るみたいで、写真のポーズをみながらファンの方が陸上で試してみたけど「出来なかった~」なんて言われたりします。あれは私でも、氷じゃないと出来ない動きなんです。

フリーは滑りのスピードがいいですね。

最後のコレオシークエンスは、本当に全力で走っています。最初に振付けていただいた時は、加速して、ステップ、スパイラルで端まで行く、というものでした。でも名古屋に戻ってから練習中に長久保先生が「全力でやってみて」って言うので、猛ダッシュで壁にぶつかるような勢いでやってみたら先生が「それで行こう」って。え、最後なのにこのスピードで!? って思ったんですが、やっているうちに、ブワーってエネルギーが湧き出る感じで気持ちよくなって来ました。

チーム長久保の幸せな環境

長久保コーチはジャンプの指導に定評があります。教え子の荒川静香さん、本田武史さんらは引退後もジャンプ力を持続していますね。

先生は理論を確立していて、とても分かりやすいです。長久保先生のところでは、1回転をやっている小さい子と私達が、一緒に練習するんです。全員で半回転、1回転から練習するんです。そして同じ内容を注意される。それだけメソッドがしっかりしているということですよね。

まだ鈴木さんのジャンプ力もレベルアップ出来そうに感じます。

「3回転ルッツ+3回転トウループ」も、やってみたいなと思います。この年齢までやっていなかったことを、今からやる。未知への挑戦です。それはみんなの希望にもなるんじゃないかと。自分でも何処まで行けるのかが楽しみです。昨年の夏は、「3回転フリップ+3回転トウループ」が良い所まで行っていました。この練習をすることで、3回転フリップの流れが良くなったり、「ダブルアクセル(2回転半)+3回転」が簡単になったりと、色々なメリットがあるので、また練習していこうと思います。

今季はジャンプの質が上がっていますね。

ジャンプの質は意識して練習しています。やること(ジャンプの種類)はみんながほぼ決まっている(似ている)状況なので、良いものをするしかない。流れのあるジャンプは、プログラム全体の流れも出るし、ジャンプのプラス点も貰えるので、質の良いジャンプというのが、いま目指しているものです。

長久保チームは子ども達と一緒の練習もするし、チーム力が強そうです。

子ども達は成長の伸び幅が凄いので、それは刺激になります。それに長久保先生から何か言われている時の真剣な目を見ると、自分も素直に聞かなきゃなって反省しますね。私は子どもの頃に個人レッスンで練習していて、スケートブームでもないから子どもも少なかったんです。でも(当時)仙台にいた長久保先生の所に通い出してからは、全く違うスポーツみたいに感じました。たくさん仲間がいる環境で、スケートの楽しさが倍増しました。

スケートの仲間、スケート以外の仲間
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オフの時間もスケート仲間と過ごしますか?

スケートは大好きで、小さい頃は練習じゃなくてもとにかく長時間リンクにいる、というのが楽しかったですね。でも今は、練習するならする、しないならリンクから離れる、という様にして、気持ちの切り替えをします。スケートの人とばかり会っていても偏るので、全く別の分野の友達とご飯に行ったりします。悩みごとを言っても、違う目線でスケートのことを見ているから「いいんじゃない、ケガしてないんだし」と励まされたりして、そういう関係は大事だなって思います。

スケート仲間も、スケート以外の仲間も、それぞれ大事なんですね。

スケート仲間とも深い相談をしますよ。髙橋大輔君も、もう15年くらい前から知っていて、彼のほうが全然レベルが上ですけれど、真っ直ぐ話し合える同志になりました。愚痴も弱音も吐けて、アドバイスももらえる凄くいい仲間。でも彼がショーで凄く良い演技すると、ちょっと悔しい!って思いますね。

「挑戦したほうが後悔がない」

全日本選手権の後とうとう、ソチ五輪を目指すと宣言しましたね。

なかなかソチを目指すことに最終的な踏ん切りがつかなかった理由は、厳しい戦いに向かう覚悟があるかどうかでした。バンクーバー五輪の時経験しているから、五輪に行くには今以上にどんなに練習しなきゃならないか、というのが分かってしまうので。しかも年齢も4年たってる。それでも五輪に行きたいか、という覚悟が、自分にあるのか分からなかったんです。

どんな葛藤を経て、心が決まったのでしょう?

最初は、「五輪の代表になれなかったらどうしよう」なんてウジウジ考えて迷ってたんですよ。立場上、何かを怖がっていた。でも、そうじゃないなと思えたんです。全日本選手権で表彰台に乗れなくて、あそこまで落ちたから吹っ切れて、ここから這い上がればいいじゃんって。私は人生そんなに簡単にここまで来たわけじゃない、これからの人生もそうだろう、だったら挑戦したほうが後から後悔がないな、と思えました。結果がどうであれ、やりきったら私らしいだろうと。今、バックアップしてくれる会社や人がいてスケートをやれる環境があり、自分の立場、技術、ランキングも考えてみた時に、自分のスケート人生の最後にもう一回チャレンジがあってもいいじゃないかと思い、決めました。

GPファイナルでソチの現地に行ったことも影響しましたか?

そうですね。自分の挑戦というだけじゃなくて、GPファイナルに行ったメンバーの、髙橋君、(浅田)真央ちゃん、小塚(崇彦)君、町田(樹)君、みんなすごく楽しくて、今こんな良い時代にスケートをしているのだから、この仲間と最後まで一緒にやりたいなと思えた、というのも理由の1つですね。一人じゃなく、仲間がいるから、と。シーズン前半はゴールが分からなくて苦しんだけど、あと1シーズンと決めたらすごく心が楽になりました。やりきったと言えるように、挑戦していきたいです。

2013年1月7日、名古屋にて

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