インタビュー - Interviews -

ヴィンセント・ゾウ選手
インタビュー

4種の4回転を跳ぶ18歳のジャンパー
初の銅メダルで「次は演技とスケーティングを」

文・野口美恵(スポーツライター)

米国の若き天才ジャンパー、ヴィンセント・ゾウ。ジュニア時代から4回転を跳び、平昌五輪のフリーでは4種5本の4回転に挑戦した。四大陸選手権では、シニアのISU大会で初となるメダルを獲得。世界選手権への弾みをつけた。

四大陸選手権ではショート首位発進
「フリーに向けて素晴らしい経験に」
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米国開催での四大陸選手権となりました。

全米選手権に続いて国内での四大陸選手権ということで、とても興奮しました。全米で良い結果が出た勢いのまま、四大陸で滑ることができたと思います。それに練習拠点のコロラドからアナハイムは近いので、フライト疲れもないですし、母国開催大会のメリットを感じました。

ショートは素晴らしい演技で、100点超えでの首位発進となりました。

僕にとって国際大会で初めて100点を超えた記念すべき演技でした。本当にハードな練習をしてきた成果で、やってきたことが正しかったと証明された気持ちです。ジャンプの質という面で苦労してきましたが、やっと自分に自信を持てました。

4回転ルッツ、4回転サルコウともにクリーンな成功でした。

今季は、せっかく4回転を降りても回転不足の判定が続いていました。ついに回転不足なく跳べたということが、本当に嬉しいです。ジャンプの修正は本当に大変な道のりでした。回転不足が大きな問題だったので、何を直すかはわかっていました。しっかり回転しきることに注意を向けて跳び、本当に長い間そのことだけに集中してきたのです。なので、ショートでは自信を持って滑り、確実に回ったと手応えを得る演技でした。

ショートの『エクソジェネシス』は曲と一体化するような演技でした。

これは振付師のローリー・ニコル、そして手伝って下さったカート・ブラウニングのお陰です。トロントで1週間ブラッシュアップのレッスンを受けたのですが、最終日に僕が曲かけで演技をした時、カートが涙をぬぐって「こんな素晴らしい君の演技は今まで見たことがなかったよ」と言ってくれました。それで、ああやっと僕も4回転ジャンプばかりではなくて、ちゃんと演技できるスケーターになりつつあるんだ、と実感できたんです。

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シニアの国際大会で、ショート1位発進というのは初ですね。

そうなんです。フリーに向けてすごいプレッシャーも感じましたし、一方で、同じような気持ちで滑れば良いんだという自信にもなりました。今後に向けて良い経験になったと思います。

その重圧を受けながらも、フリーでは、3本の4回転に挑戦しました。

フリーの演技は僕にとって新しい体験でした。いつもはジャンプのことばかり考えてしまいますが、今回はこのスポーツをやっていて良かった、幸せだという気持ちで滑ったんです。観客の声援が聞こえて、手拍子が背中を押してくれました。

フリーも踏ん張って総合で銅メダル、おめでとうございます。

今回の銅メダルは、本当に嬉しいです。世界選手権への励みになりました。ジャンプの質はどんどん良くなってきているので、努力を続けます。

9歳で3回転を成功し、自信
トリプルアクセルより先に4回転も
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それでは、スケートを始めた子供の頃のことからお聞かせください。

初めてスケートをしたのは5歳の時でした。友達の誕生会で、皆で滑りました。その時のことは良く覚えていて、とにかく面白くて、もうリンクのあちこちに滑っていくだけで興奮していました。その後も、グループレッスンのクラスに入ったのに、インストラクターの言うことを全然聞かないで勝手に滑りまわって大喜びしていたそうです。他の生徒は皆、転んだり泣いたり、壁につかまったままでいたんです。それで母が、プライベートレッスンを受けさせようと考えてくれて、スケートを習うことになりました。

スケート以外にもスポーツはしましたか?

はい。色々なスポーツを習いましたし、どれも楽しかったです。サッカー、テニス、水泳もやりました。でもスケートだけが「もっとやりたい、もう一度やりたい」と思えたんです。スケートのためなら早起きも辛くないし、努力することも楽しい。初めて、好きなものに出会えたという感じでした。

本格的に習い始めてからは、あっという間に全米でも注目の若手へと育っていきましたね。

9歳の時には、3回転を跳び始めていました。練習を始めてからは、どんどん3回転が跳べるようになっていき、楽しくて仕方がなかったです。2011年には全米選手権インターメディエイトクラスで優勝して、とにかくジャンプをたくさん身に付けたい、跳びたいという一心でした。

トリプルアクセルを初めて降りた時のことは覚えていますか?

初めて降りたのは15歳の時です。すでにシニアに上がってからでした。僕は、実は4回転サルコウのほうが先に跳べるようになったんです。アクセルは、左のエッジで氷を削るような感覚が難しくて、それを習得するまでに時間がかかりました。むしろ4回転サルコウを先に跳べるようになったことで、空中での感覚を身に付けて、それからトリプルアクセルでした。

先に4回転を跳べたなんて、嬉しかったでしょうね。

初めて跳んだ時の感動は素晴らしいものでした。こんな風に空中にいられるんだ、という浮遊感みたいなものがあって、驚きの世界でした。それに4回転が跳べたことで、自分の中に眠っている才能がまだまだあるはず、と思って、すごくワクワクしました。

一番好きな4回転はどれですか?

どれも好きです。今は試合では4回転トウループ、サルコウ、フリップ、ルッツを成功させていますが、やはり全種類を目指したいです。どの4回転もとてもカッコイイ気分になります。

ネイサンは「衝撃的で驚きを与えてくれる存在」
米国で幼少期から“2人の天才児”と評判に
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幼少期から、ネイサン・チェンと共に「次世代の天才児」として注目されてきましたね。

ネイサンは僕の1歳半上なので、常に一つ上のカテゴリーにいました。いつか追い付きたいと思ってやっとジュニアに上がったと思ったら、その途端に僕は怪我をして2シーズン休養してしまったんです。その間にネイサンはシニアに上がってしまったので、いつまでも追い付けない、遠い憧れの人でした。今やっと同じシニアの仲間になれて、同じ試合で彼を近くで見られるようになったばかりです。未だに彼は、衝撃的で、刺激的で、驚きを与えてくれる存在です。

怪我で2シーズンも休養したのですね。

13歳の時でした。右膝の半月板断裂で、手術を受けました。骨と骨のクッションになる部分が潰れてしまっていて、ものすごい痛みがあったんです。その痛み、そして手術、リハビリという2年は、僕のスケート人生の中で一番苦しい時期でしたが、手術は成功し、今は完治しています。それは本当に幸運なことだと思っています。

怪我から復帰してからは、素晴らしいスピードで成長してきましたね。2017年世界ジュニア選手権で優勝。翌年にはオリンピックで6位となりました。

オリンピックは本当に特別で、忘れられない、そして感動的な経験でした。オリンピックを経験したことで、本気でもっと成長して、このスポーツで自分だけにしかできないことをやってのけようと思いました。やはり僕としては、全種類の4回転を世界で初めて降りる人になりたい、そう思ったんです。いずれにしてもオリンピックという素晴らしい舞台の刺激が、僕に夢を与えてくれました。

その後の2018年世界選手権では、今度はショートが絶好調で3位、しかしフリーで多くのミスをして14位となりました。

実は世界選手権に出発する直前に、背中を痛めてしまったんです。それでフリーを通しで練習することがほとんどできなくなっていました。ショートは4回転2本ですし演技時間も短いので、なんとか集中して気合いで滑ることができていました。しかしフリーは、試合前10日間ほどまったく滑っていないという状況のままの試合だったのです。残念な結果でしたが、怪我の中で戦ったことや、世界選手権の空気感を感じられたことは、大きな経験でした。それにショートで3位になったことで、自分はトップスケーターの一人に仲間入りできたんだという、強い自信を得ることができました。

濱田コーチからのスケーティング指導
「ジャンプに応用できる基礎を学んだ」
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昨年夏には、濱田美栄コーチのもとで指導を受けたそうですね。

はい。夏の間は新しい経験をする、何か新しいことを学ぶ時間にしたいと考えました。それで米国内だけでなく世界中どこにでも合宿に行こうと考えたんです。濱田美栄コーチは、基礎のスケーティングの指導を大切にしていることは、宮原さんや紀平さん、その他のトップスケーターを見てわかっていました。濱田コーチのレッスンは素晴らしく、エッジワークを単に練習するだけでなく、そのエッジワークの技術をいかにジャンプに応用するかという部分を教えてくれました。日本で2週間ほどレッスンを受けましたが、本当に有意義な時間になりました。また彼女の紹介で、コロラドにいるトム・ディクソンからも日々レッスンを受けられるようになり、基礎の練習を強化しています。

日本には何度も行ったことがあるのですか?

ジュニアGPシリーズ横浜大会の時が初めてで、昨年の濱田コーチのレッスンの時が2回目でした。ですので、今度の世界選手権は3回目になります。

日本に行ってみた感想は?

本当に素晴らしい国です。誰もがとても親切だと感じました。米国にいても日本食はよく食べています。特にうどんが好き。なので、世界選手権に行くのは楽しみです。

それでは世界選手権に向けての抱負は?

世界選手権に向けては、まずは表彰台を目指して、もっともっと進化しようという強い気持ちで臨みます。そのためには、技と技の間の流れ、スケーティングが重要になってくると思います。僕としては、単にジャンプだけでなく、演技やスケーティング、そして世界観というものを観客に楽しんでもらえるようになりたいです。

ありがとうございました。世界選手権でも活躍を期待しています。

2019年2月、四大陸選手権にて取材

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