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2020年度[第43回公募]グランプリ選出公開審査会報告 2020年度[第43回公募]グランプリ選出公開審査会報告
2020年度[第43回公募]グランプリ選出公開審査会報告 2020年度[第43回公募]グランプリ選出公開審査会報告

2020年度グランプリは、樋口誠也氏に決定!

2020年10月30日(金)、東京都写真美術館にて写真新世紀2020年度[第43回公募]グランプリ選出公開審査会を開催しました。
今年度は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため会場内で様々な対策を講じるとともに、海外在住のグランプリ候補者のプレゼンテーションを映像で行うなど、異例の形式での開催となりました。

今年度の審査員として、ポール・グラハム氏(写真家)、オノデラユキ氏(写真家)、椹木野衣氏(美術評論家)、清水穣氏(写真家評論家)、瀧本幹也氏(写真家)、野村浩氏(美術家)、安村崇氏(写真家)の7名をお迎えし、過去最多となる2,002名の応募者の中から優秀賞7名、佳作14名が選出されました。

グランプリ選出公開審査会では、優秀賞受賞者7名(金田剛氏、後藤理一郎氏、セルゲイ・バカノフ氏、立川清志楼氏、樋口誠也氏、宮本博史氏、吉村泰英氏)がそれぞれプレゼンテーションを行い(セルゲイ・バカノフ氏は映像)、審査員との質疑応答が交わされました。そして、審査員の合議の下、本年度のグランプリは樋口誠也氏に決定しました。

開会

2020年10月30日(金)、午後2時30分。期待と緊張感が高まる独特の静けさのなか開会し、グランプリ候補者である優秀賞6名が緊張した面持ちで登壇(セルゲイ・バカノフ氏は欠席)。続いて審査員5名が着席しました(ポール・グラハム氏、清水穣氏は欠席)。

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プレゼンテーションと質疑応答

優秀賞受賞者は、それぞれ持ち時間7分の中でプレゼンテーションを行い、自らの言葉で作品の背景や制作意図、作品への思いを語りました。審査員からは、作品に対する賛辞や鋭い批評、質問などが寄せられ、受賞者は真剣な表情で応答しました。

  • PRESENTATION

    金田 剛TSUYOSHI KANEDA

    「M」

  • PRESENTATION

    後藤 理一郎RIICHIRO GOTO

    「普遍的世界感」

  • PRESENTATION

    セルゲイ・バカノフSERGEI P. BAKANOV

    「The Summer Grass, or My mother's eyes through her last 15 years」

  • PRESENTATION

    立川 清志楼KIYOSHIRO TATEKAWA

    「写真が写真に近づくとき」

  • PRESENTATION

    樋口 誠也SEIYA HIGUCHI

    「some things do not flow in the water」

  • PRESENTATION

    宮本 博史HIROSHI MIYAMOTO

    「にちじょうとひょうげん—A2サイズで撮り溜めた、大阪府高槻市・寺田家の品々—」

  • PRESENTATION

    吉村 泰英YASUHIDE YOSHIMURA

    「馬の蹄」

グランプリ選出公開審査会の様子を映像でご覧いただけます。

表彰式

プレゼンテーション終了後、別室にて約1時間の審議が行われ、グランプリが決定しました。

表彰式で2020年度のグランプリが発表され、受賞者の樋口誠也氏には、奨励金100万円ならびに副賞としてミラーレスカメラ「EOS R5」が贈呈されました。

樋口氏は、「作品をこのような形で多くの方に見てもらえたことだけでも嬉しく思っています。審査員の先生方には鋭い指摘やコメントをいただけて、とても参考になりました。嬉しい半面プレッシャーでもありますが、自分が気になったものに純粋に興味を持って、嘘をつかずに作品を作っていけたらと思います。先ほどは椹木先生の質問に答えられませんでしたが、今は答えられなくても、無理に言葉を繕うのではなく、自分で考えて真摯に作っていきたいと思います」と受賞後の気持ちを語りました。

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総評

椹木 野衣氏

今回は過去最多となる2,002点の応募がありました。当初はコロナ禍で応募がどうなるのかという心配もありましたが、在宅中に自分の過去を見つめ直したり、作品を練り直したりする機会があったのか、それともこの特殊な環境が新しい着想を生んだのかはわかりませんが、最高の競争率となりました。その中でグランプリを獲得された樋口さんは見事な成果だったと思います。

樋口さんには、写真に対する関係が一方向的なのではないか、イメージを消すときと記憶によって取り戻すときの身体の違いが必要なのではないかという指摘をしました。しかし彼の展示の本当の魅力は、方法論的なことだけではなく、コンセプチュアルな行為をあえて自らの身体を使って試みたことや、言葉のセンスの良さがあったと思います。硬くなりがちな主題の中にユーモアといっていい柔らかな視線が感じられたことも評価に値するものでした。ただ、僕や先生方が指摘されたことは依然、課題として残っていると思うので、粘り強く克服してより素晴らしい作品を作っていただきたいと思います。

今年の総評を簡単に申し上げます。清水先生は「対」ということを仰っていましたが、僕自身は今年、全体の傾向として、「距離、ディスタンス」がキーワードになっていると感じられました。コロナ禍の前から作られた作品も、コロナ禍を元に作られた作品もありますが、私たちが作品を見るときの見方も変質してきているので、人や物との距離をどう作り直していくのかが大きなテーマの1つではないかと思っています。

写真は「遠くのものを近くに」という技術として発達してきた部分が多いのですが、かえって近くのものが遠い、あるいは近いのに関係が結びにくい、そうしたことが主題として浮上してきて、これからの写真にも影響を与えるのかと考えさせるような作品が多々ありました。樋口さんの作品も、近くて遠い、遠くて近いという関係性、言葉だけでは表せないことを、身体を使って、矛盾も含めて提出したという点で、そうした傾向の中に位置付けられるのではないかと考えます。

ただ、依然として私たちが未知の事態に直面していることは事実です。表現する人は、一歩前進、一歩後退という試行錯誤を恐れずに、新しい写真の可能性を果敢に探求していってほしいと思います。グランプリの樋口さん、優秀賞、佳作受賞者の皆さん、大変な時期だったと思いますが、今後の活動を期待しています。

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