2004準グランプリ
この作品に対して、私は言葉で正確に表現することが出来ません。この写真は、私の妻と亡くなった彼女の母の、亡くなる2日前の最後の写真です。この写真を撮る背景、彼女たちの人生の背景には、様々な辛い体験や原因が数多くありました。そして、突然予期していなかった末期癌の告知から亡くなるまでの4日間の間にも、辛い人生の最期を私は見、これから死に逝く者とまだ生きていく者たちの間に、大きな距離が生まれていくのを感じました。死に向かう者はより根源的な方向へ向かい、生きていく者は混沌とした感情と現実世界にとどまっていきました。その生と死という最後の分岐点で、写真という媒体で出来た、ほんのわずかな一時の、最も大切な交流を記録しえたのだと思います。義母が亡くなったのは、2003年12月4日、彼女の誕生日であり、その1周忌にあたる2004年12月に展示されることを、奇跡のように感じ、全てに感謝いたします。
私は現在、様々な表現手法を用いて作品を制作しています。写真・映像・アニメーション・絵画。それぞれはまだ未熟であり、まだ点のようです。それらの中で、私にとっての写真表現は、現実世界との直流的な対話であり、世界から私を通過していく瞬間の記録です。世界は、常に同じ様相をしておらず、常に変化していきます。カメラのファインダーを覗く時、その世界に、ある力が自分を通過していく瞬間があることを感じました。写す対象を私が選ぶのではなく、対象が私を呼んでくる力です。見えている世界の中にある、その見えない力を捜し、それを記録していくことが、今の私にとって写真表現の根底にあると考えています。
表情をうまく捉えている。死に近いであろう母とその娘が涙を浮かべて笑っている。その表情、そして泣いている表情。泣くということと笑うということは紙一重の感情で、その心の動きを非常によく映し出している。またとても大きな愛、肉親の愛に満ち溢れた作品。殺伐とした作品が多い中で、極めて抜きん出た人の心を掴む写真である。
1977年 | 静岡県生まれ |
2000年 | ニューヨーク大学 映画学科短期留学 |
2001年 | 東京藝術大学美術学部デザイン科卒業 アニメーション「風にゆられて」グループ現代主催/映像公募にて大賞受賞 |
2003年 | 絵画「I hope...」Tokyo Wonder Wall 入選 |
2004年 | 写真「狭間」Canon写真新世紀2004 荒木経惟選・優秀賞受賞/同年の準グランプリ受賞 |
2019年 | 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程デザイン専攻修了 |
2019年 | 東京藝術大学修了制作作品 写真「つづれおり」 デザイン賞受賞 |
2004準グランプリ