INTERVIEW

インタビュー|リネケ・ダイクストラ(写真家・写真新世紀[第42回公募]審査員)

リネケ・ダイクストラ 写真家 リネケ・ダイクストラ 写真家

Sasha and Marianna, Kingisepp, Russia Noverber 2, 2014 © Rineke Dijkstra

肖像写真の分野で数多くの傑作を生み出してきた
オランダ出身の写真家リネケ・ダイクストラ氏。

世界各地のビーチで撮影した代表作《海辺のポートレート》など、
思春期の若者を被写体にした作品で知られるが、
映像でも重要な仕事も数多く制作してきた。

そこで、写真新世紀の審査員として来日したダイクストラ氏に、
自意識やアイデンティティといったテーマを一貫して追求してきた作家としての関心や、
使用するメデイアや制作手段の決定についてお話をうかがった。

映像作品の魅力

— リネケさんは、肖像という手法をベースにおきながらも、写真だけでなく、映像作品も手掛けられてきましたね。どちらで制作するかは、どのように決められているんですか?

主題によって異なりますが、私が表現したいこと次第ですね。映像作品の魅力は、話す言葉や音楽、そしてまわりの音も作品に取り入れることができることです。それらは静止画にはない種類の情報ですし、音や動きは作品の可能性を広げてくれる要素だと思っています。

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    Videostill from The Krazyhouse (Megan, Simon, Nicky, Philip, Dee), Liverpool, UK, 2009
    Four-channel video installation, with sound, 32 min., looped © Rineke Dijkstra

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    Videostill from The Krazyhouse (Megan, Simon, Nicky, Philip, Dee), Liverpool, UK, 2009
    Four-channel video installation, with sound, 32 min., looped © Rineke Dijkstra

— 今のお話をうかがっていて、リネケさんの初めの映像作品《The Buzzclub, Liverpool, UK/Mysteryworld, Zaandam, NL》(1996–1997)を思い出しました。

1995年、ダンスクラブにいる若者たちの写真を撮影するために、ビートルズなど音楽で有名なイギリスの小さな町、リバプールに行きました。彼らをクラブの背景と切り離して撮影したくて、クラブの裏に小さな簡易スタジオを作りました。そして一年後、同じ場所でビデオを使って撮影したんです。

— 少女たちは、メイクアップをしていたのですか?

リバプールの女の子たちは、特に出かけるときにとてもおしゃれをします。彼らの文化の一つなのだと思います。雪が降る11月に、クラブの前に露出の多い洋服を着た女の子たちの長い行列ができているのを見たことがあります。

— 制作する上で何か足りないことはありましたか?

少し経ってコンタクトシートを見ると、クラブを特別な雰囲気にする何かが感じられなかったんです。それはきっと、動きや音の欠如に関係があると思いました。1年後に、私は小型のセミプロフェッショナル用ビデオ・カメラを用いて撮影しました。フラッシュごとに連続的に明るくなり撮影が出来ました。しかし、それは別として、準備やアプローチは写真と同じだと感じました。

— 映像に映っている少女たちが、とても良いですね。

彼らは何かをしているわけではないのです。例えばタバコを吸うとか、ビールを飲むとか、音楽に乗って踊ったり、そういった小さな動きしかしていません。それが自然に見える限り、何でもありなんです。
それは私が演技させることなく作り上げたかった、若者たちがダンスフロアやバーにいる姿をとらえるのは小さな策略でした。

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Videostill from The Buzz Club, Liverpool, UK / Mystery World, Zaandam, NL, 1996 - 97 Two-channel video installation, with sound, 26 min. 40 sec., looped © Rineke Dijkstra

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Videostill from The Buzz Club, Liverpool, UK / Mystery World, Zaandam, NL, 1996 - 97 Two-channel video installation, with sound, 26 min. 40 sec., looped © Rineke Dijkstra

人生や人間をいかにとらえ、語るのか?

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Videostill from I see a Woman Crying, 2009
three channel video installation, with sound, 12. min., looped © Rineke Dijkstra

— 映像作品の《I See a Woman Crying / 女の人が泣いています(泣く女)2009 》も、素晴らしい作品でした。ピカソの絵画《泣く女》が重要な要素になっていますね。

このビデオインスタレーションでは、はじめて語りを入れました。10人の学生がピカソについて議論をしている。私はいつも、芸術に対する人々の反応の違いに興味を持っています。

— しかし、絵そのものは映像には現れませんでしたね。

撮影では、学生が絵についての質問に答えて、彼らが話しているところを撮りました。例えば、「この絵の女性はどういう気持ちなのかな?この女性に何が起きたのかしら?」と聞くと、子供たちは色々なシナリオを語ってくれました。それがすごくおもしろいんですよ。たとえば、子供たちはみんな結婚式やお葬式の話をするので、なぜなのか疑問に思いました。その後、わかったのですが、描かれている女性が帽子をかぶっているからだったんです。イギリスでは女性が帽子を被るのは、たいがい結婚式や葬式のときなのだそうです。また、「もしかすると、結婚式に行ったのだけど、ウェディングケーキを盗んじゃって、あとで後悔している絵なんじゃない?」なんて、ちょっとおもしろい答えをする子もいれば、「この人は寂しいだけじゃない?」と答えて、自分自身を絵画に投影していると思われるような女の子もいました。グループにいるいろいろな子供たちが、同じ絵を見ながら違う反応を示している。つまり、このビデオは、彼ら自身の肖像でもあるんです。

— ビデオの撮影は一眼レフを使われているのですか?

時々キヤノンのデジタル一眼レフカメラを使いますが、いまでも日本製の4×5インチのビューカメラを使います。4×5のカメラが好きなのは、非常にシンプルな構造だからです。ファインダーのぞくと、上下逆さまになって景色が見えるわけですが、そうするとコンポジションに集中することができます。また、デジタルカメラだと簡単に、しかも大量に撮れてしまいますが、私は集中して慎重に撮るようにしています。ビューカメラを三脚に据えると、被写体の皆さんも、「これはきっと、時間をかけて写真を撮るんだな」とわかってくれるので、それも利点と言えるかもしれません(笑)。

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Ruth Drawing Picasso, 2009
single channel video installation, with sound, 6 min.33 sec, looped © Rineke Dijkstra

— リネケさんが写真を続けていくにあたって、一番大切にされていることを教えてください。

被写体やテーマを選ぶ時は、好奇心が一番重要です。自分の興味がある相手だからこそ、もっと掘り下げて知りたいと思えるのです。そして、プロジェクトに没頭して、どういった可能性があるのかをなるべく時間をかけて考えたいと思っています。
私の関心は、どのように主題のダイナミックさや複雑さをとらえるか、人々はどのようにしてお互いを見分けるのかということにあります。

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Almerisa, Asylumseekerscenter Leiden, the Netherlands, March 14, 1994 © Rineke Dijkstra

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Almerisa, Zoetermeer, the Netherlands, June 19, 2008 © Rineke Dijkstra

PROFILE

リネケ・ダイクストラRINEKE DIJKSTRA

1990年代の初めから写真と動画を融合させた複雑な作品の制作に従事し、現代風に解釈したポートレートを多数発表している。主に若者、特に思春期の少年少女を被写体とした大判のカラー写真と動画を撮影。そこには、文脈的なディテールがごくわずかに、ごく小さく表現されており、撮影者と被写体の交流や見る側と見られる側の関係性に意識が集められる。1959年、オランダのシッタート生まれ。1981~86年までアムステルダムのヘリット・リートフェルト・アカデミーで学ぶ。1999年にシティバンク・プライベート・バンク写真賞を、2017年にハッセルブラッド国際写真賞とニーダーザクセン財団のスペクトル国際写真賞を受賞。近年はキャリア中盤の回顧展も多く、2012年にはサンフランシスコ近代美術館とソロモン・R・グッゲンハイム美術館(ニューヨーク)で、2017年にはルイジアナ近代美術館(デンマーク・フムレベック)で、2018年にはデ・ポン美術館(オランダ・ティルブルフ)で開催。 2013年には世界中に展示した動画作品の中から初の大規模回顧展をフランクフルト近代美術館(MMK)で開催した。

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