蛍石、非球面、手ブレ補正など、先進の光学技術とノウハウを凝縮
主にデジタル一眼カメラに装着する交換レンズは、その一本一本にキヤノンの先進の技術とノウハウが宿っています。ここでは、その交換レンズ群に搭載されたテクノロジーをご紹介します。
2018/12/27
キヤノンは、人工結晶生成技術の開発に挑み、1969年に写真用レンズとして蛍石レンズを採用しました。蛍石レンズは光学ガラスと比較して①屈折率が著しく低い ②低分散および異常部分分散特性をもつ ③赤外・紫外部での透過性がよいなどの特徴があり、色収差のほぼ完全な除去を実現しています。
色収差の補正比較図
研削非球面レンズは、高画質の大敵となる収差を抑制するという特長をもっています。加工、形状の点で実現が難しく「夢のレンズ」と呼ばれていましたが、キヤノンは1970年代前半に世界初の商品化に成功。研ぎ澄まされた描写性能を実現しています。
非球面レンズの効果原理図
UDレンズの採用により、色収差補正をより多くのレンズで実現できるようになりました。2枚で蛍石1枚にほぼ匹敵する性能を発揮します。また、光学性能を大幅に向上させたスーパーUDレンズも開発。色収差補正、レンズの小型化に大きく貢献しています。
色収差を補正するためにキヤノンが開発したのが、蛍石と同等の異常分散特性を持つBR光学素子です。材料を分子構造設計から見直し、有機光学材料を原料とした独自のレンズ材料の開発に成功しました。
BR光学素子は青色(短い波長域)の光を大きく屈折させる特徴があります。これにより、従来の技術では色収差補正が難しかった大口径レンズにおいても、絞り開放から優れた描写性能を実現できます。
光には障害物の端を通過するとき、障害物の裏側に回り込む「回折」という性質があります。この現象を利用して光の進路をコントロールするのがDOレンズで、球面ガラスレンズと特殊な樹脂製の回折格子で構成されています。製造には微細かつ高精度な技術が必要です。DOレンズには2積層型、3積層型、密着2層型の3種類があります。
DOレンズの構造(概念図)
DOレンズの採用により、従来の手法で設計された400mm F4と比較して大幅な小型・軽量化が可能になります。
回折と屈折で色収差が逆に発生する性質を利用して色収差を抑制します。
レンズ表面にナノサイズの構造物を配列した「SWC」は、屈折率を連続的に変化させて、入射角が大きな光に対しても優れた反射防止効果を実現し、フレアやゴーストを大幅に抑制します。
SWCの構造
手ブレによる撮影ミスは、シャッターが開いている間にカメラ自体が動くことが原因で起こります。主なブレとして、「角度ブレ(図1)」と「シフトブレ(図2)」があります。「角度ブレ」は、従来の手ブレ補正機構(IS)によって適切に補正することが可能でした。しかし、マクロ撮影などの近接領域では、「シフトブレ(図2)」が大きく影響します。
キヤノンが開発した「ハイブリッドIS」は、「角度ブレ」と「シフトブレ」を同時に補正できます。角度ブレを検知する振動ジャイロ(角速度センサー)に加え、水平・垂直方向へのブレを検知する加速度センサーを搭載。この2つのセンサーが立体的に捉えたカメラの動きをもとに、アルゴリズムがブレ量を算出して、マクロ撮影での最適な手ブレ補正を行います。
角度ブレとシフトブレを共に補正するハイブリッドIS
角度ブレ量とシフトブレ量の比較は、撮影条件によって異なります。撮影倍率が等倍(1倍)に近づくほど角度ブレだけではないシフトブレ成分を含んだブレ量が急激に大きくなり、その補正が重要となります。
キヤノンの高精度AFシステムを支えるレンズ内モーター駆動システムは、魚眼から超望遠までの様々なレンズのAF作動特性に合わせて、最適なモーターを搭載することによって実現しています。
超音波モーター(USM)は超音波振動を所定方向の駆動に変換するモーターです。
高トルク、高レスポンスで素早いピント合わせに対応します。大口径レンズ・超望遠レンズに最適です。
「EF24-70mm F2.8L II USM」
静止画での高速で高精度なAFと、動画でのスムーズなAFの両方で高いパフォーマンスを発揮します。
「EF70-300mm F4-5.6 IS II USM」
ステッピングモーター(STM)はパルス電力で駆動するモーターです。
起動・停止するときの、レスポンスや制御性の高さが特徴です。シンプルなメカニカル構造により、スムーズな駆動を実現しています。
「EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USM」
レンズの小型化を実現するモーターです。主にEF40mm F2.8 STMなどのパンケーキレンズに採用されています。
「EF40mm F2.8 STM」