写真家インタビュー&ベストショット - Photographer Interviews & Best Shots -

写真家 小橋 城氏
インタビュー&ベストショット

表現者同士の魂と魂のぶつかり合い
「滑りにはその選手の人生が表れる」

文・野口美恵(スポーツライター)

スピード感そして躍動感。小橋城氏の切り取る瞬間は、アスリートのパワーが頂点に達した刹那である。スキー、フィギュアスケートの感動を伝えてくれる小橋氏に、写真への思いを聞いた。

ベストショット
ベストショット写真
<機材情報>
EOS-1D X Mark II, EF400mm f/2.8L IS II USM, F4, 1/1250sec, ISO4000
©Joe Kobashi

小橋 城氏 予測とイメージが合致した一枚は美と躍動が混じり合う瞬間。

高校時代は競技スキーで活躍
水谷氏の弟子としてカメラマンに
写真

小橋さんというとスキーの名カメラマンとして知られていますが、ソチ五輪以降、フィギュアスケートも撮影されています。フィギュアスケートの現場は、スキーとはだいぶ違いますか?

全然違います。僕が撮影しているフリースタイルのスキーは、スキーヤーもカメラマンも男ばっかりで、衣食住を共にし、良い雪を求めて山を転々と渡り歩く世界です。フィギュアスケートは可愛い女の子がたくさんいて、ジュニアの子たちは応援したくなってしまいますね。

なるほど。では最初に、スキー写真の世界のことからお話を聞かせてください。小橋さんが写真を始めたきっかけは?

僕は父が建築カメラマンですので、子供の頃から家にカメラがあり写真には慣れ親しんでいました。父から譲ってもらったカメラで、小学生の時から友達の集合写真を撮る役でした。でも小さい頃はカメラマンになりたいとは思っていませんでした。

プロを目指そうと思うまでにはどんな学生時代を?

中学生までは少年野球でキャッチャーをしていて、高校の時に競技スキーを始めました。競技スキーに熱中し、夏場は海外まで合宿に行かせてもらったくらいです。印象深かったのは、まだ出場できなかった高校2年生のときにインターハイを観に行って、父の一眼レフでトップ20の選手を撮影したんです。ポールに入る姿勢、切り返しの瞬間、上手な選手がスキーに乗れてる感覚、コンマ何秒を争う技術を瞬間に捉えたいと思いました。

カメラマンとして撮影したわけではなく、あくまでも競技の勉強のために撮影したのですか?

そうです。上達したかったので良いプレーを学ぼうという気持ちでした。お陰で、高校3年の時にインターハイに出ることができました。

そのままスキーのカメラマンに?

いいえ。2年の語学留学のあと、カメラマンを志して日本写真芸術専門学校に通いましたが、当時はモデルの女の子ばかり撮っていました。父からは「人物をしっかり撮れないと何も撮れるようにならない」と言われていたので。そして卒業間近のころ、父を介して、スキー写真の大家である水谷章人先生が最後の弟子を取るという話を聞きました。

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水谷氏といえば、スキーカメラマンのトップですから憧れですよね。

まずは3年間の約束で弟子入り。お給料は出ないので、平日はアルバイトをしながら、週末はラグビーやバスケ、サッカーなどスポーツ写真を撮り、先生に見せていました。時間があるときは、先生の撮ったモノクロ作品を暗室でプリントし、構図などを勉強することができました。

具体的には、水谷氏からどんな指導を受けたのでしょう?

水谷先生は必ず、弟子に隣で撮らせるんですね。シャッタースピードとかISO感度とか露出とか、先生はこれにしてるという設定も見せてくれます。スキーなら一緒に行って、山のどこでポジション取りしているのかもわかります。先生は、「隣で撮れ。出る(押し始める)タイミングを考えろ」と。でも僕はだいたいワンテンポ、ツーテンポ、遅く押し始める。スキーヤーが滑り去ると先生が、「遅いぞ、お前。だいたい何であんなに早く止めちゃうんだ」と言われるのです。先生は僕のシャッターの音も聞いているんです。それくらい手取り足取り教えていただいて。でも僕はカメラマンのいわば2世で、どこかに甘えもあったのでしょう。そこまで教えていただいてるのに、2年たっても自分が何を撮りたいのかわからないままでした。

スイスの山撮影で開眼「光と影」
スポーツ写真もアートの領域に
写真

そこからどうやって一流を目指したのでしょう?

きっかけは、弟子になった2年目、水谷先生とスイスの夏山を撮りに行ったことでした。一ヶ月間、2人きりでグリンデルヴァルトを旅して、朝焼けから星空まで、美しい花畑や山々を撮り続けました。「綺麗だろう。お前見ろよ、そこ撮らないでどうするんだ」と。先生は美しいものが大好き。「風景を撮る力より、風景を読める力が必要」と仰っていました。山の光と影、地形、太陽の東から西への動き。冬なら雪面の変化。山肌のどの部分が朝日に赤く染まり、その時にここにスキーヤーがいたら素敵だな、とか。撮るんじゃなくて、読むんです。読める力。スイスで僕に伝えたかったこと。僕も先生に負けないくらいたくさん撮って、その1カ月で写真に対する考えや思いがガラッと変わりました。

素敵な体験ですね。スイスでの撮影を通して、スポーツ写真の撮り方も変わったんですね。

スポーツ写真も見るポイントがガラッと変わりました。やはり風景を読む力。見るのは光と影です。秩父宮ラグビー場の10月、夕方に影が伸びてくる時の美しい風景。有明のコロシアムで選手が逆光になるときに、光と影が同居する美しさ。スキーでも、山の光が綺麗に出る場所で待って「スキーヤーがここに来なかったらシャッターは押さないよ」というくらいのスタンスになりました。写真に「美」という考えが入って、アートの世界になっていったんです。

それは大きな変化ですね。スキー写真は特に山の美しさも切り取るので、スポーツ写真というより、芸術作品という感じがします。

水谷先生からは「お前はスキーが滑れるんだから、絶対スキー写真に行け」と言われました。先生は「アップの水谷」の異名で一流でしたから、その弟子が同じ撮り方をするのはつまらないという反骨精神があったので、あえてアップではなく、山の景色を活かす方向を目指しました。

水谷氏の写真は、400㎜でスキーヤーに肉薄する写真ですよね。

先生はアップで撮る分、標高が高いところに行く必要はなくて、スキー場でも割と低いところで「待つ」、「切り取る」という能力です。僕は山に登る体力も技術もあったので、とにかく高い所まで行き、雲海や高地の雄大な雪山の中にスキーヤーがいる、という絵を求めました。僕が最初の写真集を発表したときに、帯に水谷先生がくれたコメントが「私の求めたスキー映像と明らかに違う」だったんです(笑)。褒めてくれてるのか?怒られてるのか?という感じでした。

あえて水谷氏と逆の持ち味を追求したのですね。山の写真で工夫したことは?

多くのスキー写真は、晴天の青空と雪山というものが多いです。しかし実際の冬の山は、雪が降っているのが普通。ですから自然な山の雰囲気を表すためにも、あえて天気が悪い時に撮影します。当時とても気に入って使っていたのがEOS-1D Mark Ⅳ。雪にピンがいかなくて、ちゃんと被写体(スキーヤー)を追ってくれる名器でしたね。湿度や寒さにも強く、濡れても撮れるのが安心でした。

表情を撮るフィギュアスケート
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フィギュアスケートの写真を撮ったきっかけは?

2014年に、フィギュアスケートの雑誌社から声がかかりました。編集部からの依頼は「とにかく顔の表情が良いのを撮ってください。ジャンプ中の苦しい顔とかは使いません」ということでした。

スケートを撮ったときの第一印象は?

思ったより難しいなと。スキーだと表情を撮影しようというスタンスではなかったので、新しい世界が楽しかったです。

フィギュアスケートでは、こんな撮影をしたいというスタンスはありますか?

スキーと違って、スケートの場合はすべてのカメラマンが、同じリンクの、同じ様な場所での撮影になります。リンクの真ん中あたりで綺麗なポーズをとっていれば、誰でもシャッターを押せば撮れます。400㎜のレンズで、選手が自分の目の前を通過していく瞬間。この横振りで、ピントを合わせてバチッと撮れないとプロじゃないな、と。400㎜のギリギリの世界観に魂を込めようと思っています。

400㎜の単焦点での撮影というのは、かなり難しそうですね。

僕は、レンズは400㎜1本だけ。ズームできないことで、自分をハンターと考えた時に「アップはここまで、引きはここまで」という押せる領域がわかる。自分の勝負領域を知ることが、プロカメラマンにとって大切だと思っています。さらにカメラや撮影ポジションの条件が同じ中でも、細かいセッティングの違い、構図、押す瞬間、選び方、などで表現の違いが出てくると思います。

スキーの撮影をしていたことが、スケートの撮影に活かされる部分は?

やはり同じ滑る競技なので、滑りの上手い人の「乗れてる」感じが好きです。上手い滑りの人にしか出ない、ターンを切り返す瞬間などの「間」を切り取りたいですね。演技と演技の切り返しや次の動作に入る瞬間の「間」に表情が出るんです。

この選手のここが好き、というのはありますか?

やっぱり滑りが上手だと目が行きますし、応援したくなります。樋口新葉さんのエッジの良い所に乗ってる感じとか、山本草太くんの滑らかさとか、滝野莉子さんの突っ込み方とか。あと紀平梨花さんのジャンプは、ジャンプ自体が美になっていて、本当にすごいです。彼女の肩のラインなど肉体美もあるのですが、躍動感と上品さの共存しているところが素晴らしいです。

感情が溢れ出てくる瞬間をどう表現するか
選手との一発勝負の気持ちで撮影
写真

今季はザギトワ選手に注目されていますが、彼女の魅力は?

去年、台湾で開かれた世界ジュニア選手権で初めて撮影したのですが、ひと目みて「この子、すごいな」と。記者会見では全然笑わなくて、ちょっとした仕草でドキッとします。それでいて演技は躍動感があって素晴らしい。アスリートの魂を感じました。もともと美がある容姿を持ちながら、踊ると力強さがある。その美しさと躍動感を伝えたい、と思わせる選手です。

選手のプログラムを研究することは?

先にプログラムを覚えることはしません。その時の感覚、その時の一発勝負、真剣勝負、選手との魂のぶつけ合いと思って撮影に挑みます。その子たちが、その瞬間に出した表現を、僕たちがどう撮れるか。素晴らしい瞬間があれば、自然にシャッターを押してしまうものです。今季でいえば、宇野昌磨選手が、フリーの『トゥーランドット』で、グーンと手を上に伸ばすシーンがあったのですが、そこで感情がブワーッと溢れました。カメラマンも、その瞬間は「逃したくない」と思って必ず押す。そういうものです。

選手の感情に呼応するように撮影するのですね。

そうです。今季は宮原知子さんも感情が出てきて、面白くなってきました。フィギュアスケーターは、毎日のように練習し、試合の場にやってきます。その滑りには人生があり、表現が出てくる。選手が身体を通して表現するなら、僕たちはカメラを通して表現する。スキーもスケートも、やはり魂と魂のぶつかり合いだと思っています。

■小橋 城(こばし・じょう)
1974年、東京都生まれ。写真家である父の影響で写真を始める。語学留学を経て日本写真芸術専門学校入学。卒業と同時に一般社団法人日本スポーツプレス協会会長でもある水谷章人氏に最後の弟子として師事する。スキーを中心としたスポーツ写真を撮り続け、雑誌、広告などで活躍するほか、個展も開催している。2014年には初の写真集『Face』(桜花出版)を発表した。NHK文化センターで写真講師を務める。

2018年秋にスキーで出会った森の写真展を開催予定(三宿 CAPSULE Gallery)

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