パトリック・チャン選手|2012-2013シーズン インタビュー|キヤノン・ワールドフィギュアスケートウェブ

インタビュー - Interviews -

パトリック・チャン選手
インタビュー

文・野口美恵(スポーツライター)

卓越したスケーティング力と雄大な4回転ジャンプを武器に、世界選手権2連覇中のパトリック・チャン(カナダ)。今季はコーチが変わり、新しい表現力の世界にもチャレンジしている。今季前半戦を振り返りながら、世界選手権への抱負を語った。

新コーチと振付師、新しい環境に慣れる必要
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今季はコーチを変えてのスタートとなりました。

今季前のオフは、僕にとって今までにない大きな変化がありました。コーチを変更し、振付師も長年お願いしていたローリー・ニコルではなくなりました。シーズン前半戦は様々な不確定要素があり、練習ではある程度まで大丈夫でも、試合では不安が噴出してミスする、という感じが続きました。

新コーチはいかがですか?

とても息が合っています。クリスティー・クラールと別れて、ダンスの先生であるキャシー・ジョンソンとチームを組みました。キャシーはとても僕の体の調子や考えを理解しようと努めてくれて、僕の状態に合わせた練習量や練習内容を考えてくれます。今の僕に必要なのは、無理な練習をすることではなく、自分に合った練習をすることなんです。無理して怪我をしないこと、自分のペースを保つことを心がけています。

振付師が変わり、今までとは違う雰囲気の表現にチャレンジしていますね。

振付師が変わったことで、ジャンプに入るタイミングや軌道、しっくりくる動きなどが全て変わりました。僕は変化に対応するのが苦手な方なので、躊躇せずに動けるまでにかなり時間がかかっています。それに今季はショートとフリー、両方とも新しいプログラムに変えたのですが、例年は片方だけ変えていたので慣れるのに時間がかかっています。困難なシーズンになるだろうなと予想はしていましたが、絶好調ではない中で試合に挑戦し続けることは、こんなにもエネルギーを使うのかと感じています。

同じ流派の先輩とライバル、2人の振付師から得るもの
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フリーは、デイビッド・ウィルソン振付の『ラ・ボエム』ですね。

これは選曲に時間をかけました。古典的オペラの悲しいドラマティックなプログラムです。恋に落ちて幸せな日々で始まり、愛しい人の死が訪れる。今までとは全く違うスタイルで、かつ自分の感情をさらけ出さなければならない。かなりリスクを取った選曲です。振付は内容にピッタリの完璧なものなので、ここに4回転トウループ2本をしっかり揃えることで完成させたいと思います。

デイビッドに依頼した理由は?

デイビッドとは、ずっと一緒に仕事をしたいと考えていました。彼は、僕の恩師オズボーン・コルソンの門下生でもあるので、スケートに関する専門知識とか、基礎技術は共通していますし、彼が求めている世界観を理解しやすいだろうと思っていたからです。なのでプログラムを理解はできています。でもスピードの緩急がすごくあって、トップスピードの部分は今まで以上に速く、遅い部分は僕が慣れている以上に遅く、それで技のタイミングが変わってしまいました。だんだん、身体がしっくり来るようになりました。

フリーは情緒的な素敵なプログラムですね。

自分にとって挑戦となるプログラムをやりたかったんです。でもプログラムが出来た時、最初は演じきれる自信がありませんでした。ジャッジや観客はこれを理解し気に入ってくれるのかな、と。でもこのプログラムは見事に受け入れられました。演技構成点がそれを証明しています。それで今はリラックスして気持ちを込めて滑っています。

ショートはジェフリー・バトルの振付ですね。

ジェフは、長い間カナダの頂点を競ってきたライバルで、気心知れた仲です。彼は素晴らしい芸術性と技術を持っていて、本当の天才ですよね。特に音楽で感じ取ったものを、目に見える形に具現化するセンスが卓越しています。それは長い間、僕が追い求めているものなので、彼にプログラムを依頼しました。

バトルは引退後でもトリプルアクセルを降りていますよね。

そうそう。面白いことに、トリプルアクセル+3回転トウループを軽々と跳んでいる。彼は、試合の緊張感ではなくショーのほうが、体の声を聞いて動くことができるから思った通りに動けてジャンプも跳べるんだと話していました。

バトルとチャン選手は、違うタイプだと思いますか?

僕たちは似ているタイプだと思います。オフアイスの時に色々とスケートのことを語り合うと、理想としているものが似ているので。彼はすごく僕を後輩として助けてくれますよ。

羽生、髙橋から受ける刺激
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羽生結弦選手と、ショートもフリーも同じ振付師になりましたね。

ユヅルのプログラムは、とにかくエネルギーがあって若くて、日増しに進歩しています。バンクーバー五輪のあと僕が成長した時のように、彼からもパワーが溢れています。(世界歴代最高得点を出した)ショートは、本当に驚異的な内容。彼は去年すでに世界選手権で銅メダルを獲っていますし、その実力を証明するシーズンになっていますよね。試合の展開が面白くなって、彼の存在はいい刺激です。僕も練習するのみです。

GPシリーズでは、スケートカナダで2位、ロシア杯で優勝、GPファイナルは3位でした。

だんだん手ごたえを掴んできています。プログラムが非常に芸術的なので、シーズン前半はまず、技術だけでなく演技への努力に集中してきました。だんだん自信がついてきたので、後半は調子が上げていきたいです。

今季は4回転ジャンプに波がありますね。調整の手ごたえは?

モスクワでの世界選手権(2011年)で優勝した時が、僕のこれまでのベストの4回転でした。あの4回転は、まだ今季実現できていません。なので2013年世界選手権で優勝するのが今季の目標ですが、良い4回転を跳ぶことも大切です。4回転の感触はシーズン前半より良くなってきました。

GPファイナルの3連覇はならず、髙橋大輔が初優勝でした。

大輔はもちろん一番のライバルですから、負ける試合もあります。彼の演技は本当に素晴らしいし、違う持ち味のライバルだと感じています。彼はいつも3回転もトリプルアクセルが完璧で、あとは4回転だけ、という状況ですから、オリンピックに向けて順調に仕上げていると思います。

カナダ男子初の金メダルへ、五輪は精神面がカギ

GPファイナルで五輪会場を体験してみて、いかがでしたか?

とても美しい会場です。建設中のオリンピックパークでたくさん写真を撮りました。バンクーバー五輪はすべて元々ある建物を使いましたが、今回はすべての施設を同じ場所に建てて村を建設していますね。まったく新しい五輪なんだ、という印象を受けました。黒海に面しているのも素敵です。アイスホッケー会場が目の前なので、五輪で試合を観たいです。カナダといえばアイスホッケーですからね。金メダルを獲って欲しいです。

五輪への手ごたえのようなものはありましたか?

ソチに行ったことが大事な経験になりました。バンクーバー五輪では、トリプルアクセルを入れるだけで苦労してたんですよ。今度のソチ五輪はフリーで4回転を2本入れるのが当たり前のレベルで、すごくエキサイティングな大会になるでしょう。そのレベルをGPファイナルは痛感できる大会でした。来季の自分のプランはまだ分かりませんが、さらに違う種類の4回転が必要という事になったらどうしようかと、危機感を感じていますよ(笑)。

五輪に向けてどんな準備を進めていますか?

五輪では精神面が何より難しいでしょう。自信を持つことが大事です。昨季までは成功した2シーズンで世界選手権でも優勝しましたが、今季はまたちょっと違う味わいのシーズンを過ごしています。五輪シーズンはまた違う心境で戦うことになるでしょう。2010年のバンクーバー五輪では5位で自分にがっかりしましたが、2011年の世界選手権で優勝して自信をつけてからは、すべての試合で精神面や戦い方を学ぶことに集中してきました。

メダルへの期待も大きいと思います。

今度の五輪では、カナダの歴史で初となる男子の金メダルを期待されています。すごいプレッシャーですが、出来ないことではないと感じています。一つ一つの技に集中して、自分のやるべき仕事をやれば、結果はついてくると思います。もちろん自信はあります。

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