インタビュー - Interviews -

無良 崇人選手
インタビュー

プログラム表現に向けて新しいアプローチ
自己ベスト更新した進化のシーズン

文・野口美恵(スポーツライター)

今季は4回転ジャンプの安定と、円熟味を増した滑りの両面が評価され、四大陸選手権では自己ベストを更新した無良崇人選手。25歳になってもなお進化を求め続ける彼が、スケートへの情熱を語る。

肉体改造、振り付け、衣装で変化 4回転の練習方法も観点を変えた

2015~2016シーズンお疲れさまです。進化に手応えを感じるシーズンだったのではないでしょうか?

今季は、トレーナーさんと一緒に肉体改造に取り組んだり、プログラムに関しても衣装や振付師について今までとは違う観点からスタートしたりと、挑戦的なシーズンでした。すべて新しい観点からアプローチしようとしたので、すぐには噛み合わず、アメリカ杯では10位。その悔しさからNHK杯3位、そして全日本選手権も調子が上がり、しっかりまとめることで銅メダルを獲得することができました。

シーズンを通して、成績が安定したように見えました。

昔のように、ノリと勢いだけでは試合にピークを持ってこられない年齢になっています。なので、自分の身体をどう動かすか、ということを常に考えています。全日本選手権にピークを持っていき、本当にしんどい試合でしたので、終わってから疲れが出ました。なので、2月の四大陸選手権に向けて、さあ取り組もうと思っても身体がついてこなくて、1月末から2月上旬はジャンプに関して「どうしたんだ」というくらい調子が落ちたんですよ。

そうなんですか?四大陸選手権ではショート、フリーともに自己ベストを更新し、調子が悪かったようには見えませんでした。

台北入りしてから調子を上げていき、なんとか試合には合わせられたという感じです。試合も中1日あいたので、疲れが取れて良かったみたいです。

金選手の4回転ルッツから吸収 「理想のフォームをどう自分に応用するか」

今季、いろいろな進化がありましたが、まず4回転の確率がさらに上がりましたね。

実は今季前のオフでは、がむしゃらに4回転トウループを練習していました。しっくりこなくてあれこれ修正を繰り返すうちに、無理なフォームで跳ぼうとして捻挫したんです。ポイントを押さえてちゃんと正確に身体を動かせば、怪我なく跳べるはずなんです。そこで反省しました。シーズン中は4回転の助走の部分で、「基礎からフォームを作り直すための助走」と「試合用の助走」というのを交互に繰り返し、フォームが無茶苦茶に崩れないようにしていきました。そのおかげで安定していった感じがあります。

今季の男子シングルは、ハイレベルな4回転時代へと突入しました。そのなかでしっかりと「フリーで4回転2本」にキャッチアップしてきましたね。

四大陸選手権のフリーではどんな状況下であれ、「最低限2本入れる」という技術まではでき上がったと感じました。でも4回転トウループのあとに連続で3回転にできなかったので、まだ不完全ですね。それに来季はまず、「後半に4回転を1本入れる」という構成を考えないといけません。あと練習で4回転ルッツを練習しているので、どこまでこれが試合に入れ込めるかなと考えています。

4回転ルッツも練習しているのですね!

他の種類の4回転をやることで、4回転トウループのタッチが良くなる、ということもあります。ですので、全日本選手権が終わってからは、4回転ルッツを積極的に練習しています。お手本は中国の金博洋選手。彼のルッツはあまり上半身を捻らずに、右手をシンプルに引き寄せて体幹だけで回転をかける。あの浮き方、上半身の使い方は理にかなっていて素晴らしいです。でも肩幅や体格が自分とは違うので、金選手の跳び方をどう僕の身体に合わせていくかを試行錯誤しています。

やはり無良選手はジャンプを理論的によく研究していますね。他の選手のフォームも参考になりますか?

そうですね。4回転ジャンプの動きを色々と考えていった時に、金選手と、羽生結弦選手が、理想の動き方なんです。ただ僕の場合は、体型がそもそも違う。なので、彼らの理想の理論をどう自分に当てはめていくか、トレーナーさんと相談しながらやっています。トウループは自分の形がつかめてきていますが、4回転サルコウと4回転ルッツは、彼らの動きをどう自分に応用するかは、まだこれから考えていく課題です。

あえて筋肉を削ぎ落とす肉体改造 「効率良い身体で、ハイパフォーマンスを」

トレーナーさんと相談しているということですが、ジャンプの安定感の秘訣には、新たな肉体改造もあるそうですね。

はい。東京スポーツトレーナー学院の学長でもあるトレーナーさんなのですが、出逢った時に「そもそも、力を使いすぎだ」と言われました。やはり年齢的にも、力技でジャンプを跳んでいると確率が悪いし、疲れるし、身体がもたない、という実感がありました。そのため「体型が違う部分をどうカバーしようか」ということを考え始めた時にちょうど出逢えたんです。肉体改造では「いかにハイパフォーマンスな身体にしていくか」をメインテーマにしています。

具体的にはどんな肉体改造を?

自分の場合は、筋肉を落としていくんです。特に上半身に要らない筋肉をいっぱいつけているから、効率が悪くなり、疲労が溜まるのも早いんですね。要らない筋肉はあえて使わないように意識したり、意識して使う筋肉の部位を変えている。そうやって身体を削ぎ落として、シャープに動けるようにしていっています。

あえて筋肉を落とす肉体改造なんですね。

今の時代は4回転ジャンプ跳びながら、演技もステップもスピンも全部をやらないといけません。4回転を3本跳んだからといって、そこで力を使い果たしている状態ではダメ。最後まで効率良くジャンプを跳ぶためにも、身体は細く、効率良く動けるほうが良いのです。まだまだ道半ば。理想の身体になったら、他の4回転も軽々と跳べるようになるかな、と感じています。

「プログラムのなかでジャンプがある」 新しい意識でジャンプを跳ぶ

さて次は、表現面についてです。昨季までは「ジャンプが得意」というイメージでしたが、今季は滑りに円熟味が出てきましたね。

今までと違うのは、プログラムをレベルアップさせたい、という考えでシーズンを始めたことです。今まではどうしても「ジャンプを跳びにいく」という意識が8割くらい。でも今季は、「プログラムの中でジャンプを入れる」という気持ちを大切にしました。プログラムを意識してしまうと、自分が今まで考えていたような力技では曲とリズムが合わないし、プログラムの中で跳ぶことができません。なので、プログラムを意識しながらジャンプを跳ぶために、肉体改造だけでなく、振り付けに対する取り組みや衣装への意識など、色々なことを変えてみようということになったんです。

曲を意識しながら、ジャンプも跳ぶというのは大変なことですよね。

曲のなかで跳ぶためには、ジャンプの直前のターンをした後に、いつものジャンプと同じ動きにすればいい。その直前まではジャンプを意識しないで入っていけるようにします。そのためには、ジャンプの注意するべき要点を押さえておいて、他の演技の時はジャンプのことを意識しないでいられるようにしなければならない。普段の練習で、8~9割の確率で跳べるようになっていることが必要ですね。

若手のホワイト、バトルらに依頼 「一緒に滑りながら振り付けを作る」

振り付けは、ショートがチャーリー・ホワイト氏、フリーがジェフリー・バトル氏。どちらも引退したばかりの若手に依頼しましたね。

元々は、チャーリーとアイスショーで一緒に滑った時に、彼から基礎的なスケーティングを習いたいと思ったことから、振り付けを依頼しました。一般的には、振付師の方が振り付けを決めて、それを選手がやってみて手直しするというのがパターンです。でもまだ現役でショーに出ている方にお願いすることで、自分と一緒に滑りながら作っていけると思ったんです。

確かにお二人とも、まだショースケーターですし、しかも踊れるタイプの方々ですよね。

はい。実際にチャーリーが自分でやりながら「もうちょっとこういう方が良いかな」と手直ししたり、あとは僕がやっているのをみて「こういうこともできるんじゃない?」と提案してくれたり。ジェフも同じです。そして一緒に滑っていたことで、自分のスケーティングが上達しました。彼らのスケーティングの良い部分をこと細かに観ることができたことが、メリットになりました。

ショートもフリーも、観客を引き込み、手拍子が起きるプログラムに仕上がっていました。

ショートは、曲が途中で変わる所から観客の皆さんからの手拍子が聞こえて、背中を押されました。演技後半に向けて自分のテンションも上がっていくし、自信を持って滑れるプログラムでした。フリーも、最後のシークエンスで盛り上がるので、自分がヘバらないように、と思って全力を出しました。プログラムを通しての完成度や自分が表現するということを、すごく勉強させてもらうプログラムでした。

衣装の新しいアプローチとはどんなものでしょう?

フリーの衣装なのですが、デザイナーのYUMA KOSHINOさんにお願いしました。やはり一流のファッションデザイナーの方と一緒に衣装を作らせていただいたことで、衣装に対する概念が変わりました。工程にしても素材選びにしても、自分にはない発想ばかりで、素材などは、「ないなら作れば良い」というのです。衣装って自分のテンションを上げるツールでもあるし、絶対的な安心感がないといけないモノ。その価値が高まりました。

多くのことを学んだシーズンになったようですね。

とにかく今シーズンは、色んなことを勉強させてもらうことができました。ストーリーやテーマを意識しながら、プログラムを滑れるようになったことが大きいです。エキシビションの演技まで変わってきている実感があります。自分から自然に出る雰囲気とかニュアンスが、そもそも変わってきたかな、と。

いよいよ25歳。ベテランの滑りになってきたのですね。

例えば髙橋大輔さんをみていると、ただフッと滑るだけで「この人違うな」という雰囲気が身体から出てくる。スケーターはそうであるべき。これから僕は年齢的にも、一歩滑るだけで「ああ雰囲気出てるな」と思ってもらえるような選手になりたいと思っています。

2016年2月、四大陸選手権にて取材

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