ジェイソン・ブラウン選手|2017-2018シーズン インタビュー|キヤノン・ワールドフィギュアスケートウェブ

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ジェイソン・ブラウン選手
インタビュー

「二度目の五輪は、氷と会場と空気と その瞬間のすべてを身体で感じ取りたい」

文・野口美恵(スポーツライター)

柔軟性を活かした個性的な演技でファンを魅了するジェイソン・ブラウン選手(米国)。今季はカナダ杯で2位、NHK杯で4位となり、世界トップグループで存在感を示している。2度目のオリンピック出場を目指す、今季への思いを聞いた。

いよいよ五輪シーズンが始まりました。GPシリーズ2戦を振り返ってみて、いかがでしょう?

カナダ杯では、今季僕が見せたいと思っているものがちゃんと出せたので本当に良かったです。日本が大好きなので、「同じような演技を日本の皆さんに見せたい!」とワクワクした気持ちで大阪のNHK杯に来たのですが、ジャンプでミスが出てしまいました。本当に残念。でも演技の面では自分なりの表現を伝えることができたと思います。

米国建国のミュージカルで チームUSAの精神を
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今年のプログラムは違うタイプを2曲選びましたが、どちらも評判ですね。ショートのミュージカル『ハミルトン』は印象的で、観客を惹き付ける振り付けです。

本当ですか!それは嬉しいです。『ハミルトン』のミュージカルは、振付師のロヒーン・ワードも大好きで、2人で「この曲しかないよね」と意見が一致しました。とにかく面白い曲なので、道を歩いていても急に演技したくなるくらいです! ジェット気流に乗ったような気持ちで、演技をすることができるんです。演技することが楽しいし、観客が楽しんでくれるのも嬉しいし、手拍子してくれるのが待ち遠しいし、それに観客が笑顔になっているのを演技中にチラッと見るのも楽しいです。

『ハミルトン』は米国では大ヒットしていますが、世界的にはまだ知られていませんね。

そうなんです。だからフリーではなくショートにしましたし、使っている曲も、文脈や歌詞がわからなくても楽しいパートにしました。「ここが手拍子だな」というのが初めて聴く人にもわかりやすい曲なので、誰にでも楽しんでもらえると思います。

米国建国のストーリーである『ハミルトン』を五輪シーズンに選んだのには、重要な意味があるのでしょうか?

もちろんです。やはり五輪イヤーですから、何か米国にまつわる特別なプログラムを演じたいと、ずっと考えていました。米国人らしいもの、米国の歴史に関わるもの、と考えて、この米国建国の父のストーリーである『ハミルトン』に思い至りました。五輪の舞台で、チームUSAとして、USAの精神を伝えられるなんて、そんなに素晴らしい機会はないと思います。

やはり五輪では、自分の国を強く意識しますか?

そうですね。五輪は、“国代表”として参加できる世界で一番大きな舞台です。自分のナショナリティーを示すことができる、人生で一番の大舞台だと思います。羽生結弦選手が『SEIMEI』を演じたり、ハビエル・フェルナンデス選手が『ラ・マンチャの男』を演じたりするのも同じ気持ちだと思います。日本人なら日本の文化を演じ、スペイン人ならスペイン人が主人公のストーリーを演じる。同じように、僕は米国人の精神を演じたいと思いました。

フリーはオリジナル曲 「心の中の感謝と愛を伝えたい」

さてフリーの『Inner Love』は、ブラウン選手のために作曲されたオリジナル曲ということですね。

そうなんです。幸せすぎて信じられない感じです。僕のために作られたオリジナル曲だなんて! だからこの曲は、僕自身を励ましてくれるし、長所を引き出してくれるプログラムになりました。

どんな風に曲を依頼したのでしょう?

これは振付師のロヒーンと、作曲家のマキシム・ロドリゲスさんと一緒に少しずつ作っていきました。まずロドリゲスさんに始まりのパートを作曲してもらい、ロヒーンが振り付けし、僕が実際に滑ってみる。そこで僕が感じたことや表現したいことを伝えて、ロヒーンが「じゃあ次のパートはゆっくりなパートで愛を表現しよう!」といって続きを作曲してもらい、また振り付けるんです。そんな風にお互いの意見を伝え合い、少しずつ紡いでいくような作業でした。

それは素晴らしいですね。本当に特別なことです。

作曲、振り付けをしていた日々を思い返すだけで幸せになります。これは僕の心の中にある、感謝や愛を伝えるプログラムです。シーズンを通じて滑り込んでいくうちに、このプログラムの魔法が人生を豊かにしていってくれると思います。まだ数ヶ月しか滑り込んでいないので、もっと自然に気持ち良く滑れるようになっていけば、自分の心をダイレクトに伝えることができるだろうとワクワクしています。

ジュニア時代は硬かった身体 「表現力のために必至のストレッチ」
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ショートもフリーも、コミカルな面や美しい面など、うまく長所を引き出してくれていますが、ベースになっているのはクラシックバレエなのですか?

すべてのダンスをミックスしたものだと感じています。振付師のロヒーンは、いつも僕を新しい芸術的な方向性へと挑戦させてくれるんです。それはクラシックバレエだったり、モダンバレエだったり、ジャズだったり、色々な芸術的要素を組み合わせています。

180度開脚するバレエジャンプのように、柔軟性を活かした振り付けが多いですよね。子供の頃から身体は柔らかいのですか?

いいえ、子供の頃はすごく身体が硬かったんです。それで、いわゆるジャンプ練習、スピン練習、ステップ練習というのと同じように、ストレッチというのを1つの練習課題としてあげて、ずっとハードに取り組んできたんです。

ブラウン選手の身体が硬かったなんて信じられませんね。

今では信じられないかもしれませんが、子供の時は前屈でつま先に届かなかったんですよ。でも11歳の時に、ジュベナイルのクラスから推薦で全米ジュニア選手権に出たのですが、この時にジョシュア・ファリス選手が出ていたんですね。彼は凄く身体が柔らかくて、すごく印象的でした。そして彼が全米ジュニア選手権で優勝したんです。そうしたら僕のコーチのコリ・エイドが、「ジェイソン、表現力をもっと磨きたいなら、あなたももっとストレッチをして柔軟性を手に入れるべきだわ」と言ってくれて、ファリス選手に刺激されていた僕も「OK、じゃあやってみるよ」ということになったんです。その日以来、とてもハードな柔軟をずっと繰り返してきました。

それが今では、男子で一番の柔軟性のある選手になったのですから、凄いことですね。

でも本当にハードなストレッチでした。

柔軟性を活かした表現を手に入れたことで、この4回転競争時代においても、トップグループで活躍していますね。

スケートの素晴らしさは、違う色々なタイプのアスリートが共存できることです。自分の長所を活かして、ベストを尽くせば、それなりの成績が出せる。長所も年齢も特徴もすべてが違う選手達が、それぞれを受け入れ合い、自分の良さを追求できるなんて、素敵ですよね。ですから僕は自分の演技をして、それを好きになってくれるファンがいて、本当に幸せです。

大学で日本語クラスを受講 「40歳までにペラペラに」

ブラウン選手は日本語を勉強されていますよね。何がきっかけで日本語に興味を持ったのでしょう?

2010年にジュニアGPシリーズで軽井沢の大会に出たんです。僕が初めて日本を訪れた機会でした。その時に日本の文化に触れ、日本のファンの応援の温かさを知り、恋に落ちてしまったんです。日本語を勉強して、いつの日か日本人のファンと日本語で交流したいと思いました。それで、大学に入ってから、日本語クラスを選択したんです。

日本のファンのどんな部分が素晴らしいと感じましたか?

まず応援が凄いです。日本の大会だけでなく、世界中の大会に足を運んで、日本選手だけでなく海外の選手も応援してくれますよね。そしてまるで芸術作品のようなプレゼント。例えばコスチュームを着た人形だったり、選手の似顔絵が描かれたぬいぐるみだったり、素敵な絵画だったり、想像もつかない愛のこもったプレゼントを制作してくれるんです。心のこもった応援が、僕だけでなく、世界中の選手たちの力になっていることは間違いないです。

日本語はどれくらい話せるようになりましたか?

まだまだです。日本語を使ったり喋ったりする機会は、米国にいると滅多にないので、なるべく使うタイミングを探しています。NHK杯などで日本に来たときに、たくさん使うようにしています。40歳までにぺらぺらに喋れるようになるのが最終目標です。まだまだ先ですが、それが夢です。

日本語で、お気に入りの言葉はありますか?

そうですね、「トキドキ」っていう言葉が好きです。「トキドキ!」っていう発音をする時に口が震える感じがすごくキュートです。愛らしくて大好きな言葉です。

羽生選手へのメッセージも「はやく、良くなってください」と日本語で書いて、エールを送っていましたね。

日本でユヅルと戦うというのはどんな選手にとっても最高で大きな機会です。今回シニアで日本の大会で、ユヅルがいない大会にでるのは初めてでとても寂しかったです。皆が、「何かが足りない」という気持ちだったと思います。とにかく早く良くなって欲しいです。

五輪シーズンはひとつの旅 一戦一戦、自分を確認し続ける時間
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いよいよ五輪シーズンも後半戦です。4年前に比べて、自分自身はどこが成長したと思いますか?

おお、それは困りました! とにかく全ての点で成熟したと思います。4年前の演技をビデオで見ると、「なんてこった、僕ってものすごい赤ちゃんみたいな選手だ」って思います。力強さも増して、演技が繋がって見えるようになり、スピードも速くなったし、ジャンプの技術だって上がったし、表現だってもっと伝わるようになっています。

五輪にむけて、いつもとは違う思いを抱きますか?

五輪シーズンというのは、ひとつの「五輪への旅」という物語のようです。五輪に向かって一戦一戦、なにを仕上げたかを確かめながら階段を登っていくんです。自分は何が上手か、上手ではないか、ジャッジは何を好むか、と1つ1つ、自分の技術や才能を確認し続ける時間を過ごしています。

米国の選手選考は、全米選手権での一発勝負になりますね。

そうなんです。緊張します、一発勝負ですから。だからGPシリーズは順位自体よりも、どんな経験をして課題を得たかが大切です。五輪に行くためには、選考会の1月に技術や身体のピークを持ってこなければなりませんし、そもそも自分はどんなゴールを目指しているのか方向性をしっかり決めることが大事。その答えを今季前半戦で見つけられたと思います。

2度目の五輪への思いは?

もし五輪に出るという夢がまた叶うのであれば、もちろん誰もが同じだと思いますが、後悔のない最高の演技をしたいです。いま想像しているのは、まず氷に降り立ち、その氷と、その会場の空気と、その瞬間のすべてを身体で感じ取り、その瞬間を楽しみ、ただひたすら自分自身を示すことだけを考えたいと思います。そう考えることが、この2つの最高のプログラムをミスなく滑るという自信に繋がると思います。

五輪で最高の演技を見せてくれることを期待しています!

2017年11月、NHK杯にて取材

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