ネイサン・チェン選手|2017-2018シーズン インタビュー|キヤノン・ワールドフィギュアスケートウェブ

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ネイサン・チェン選手
インタビュー

五輪は「ワクワクした気持ちのまま」
4回転は合計7本、成功へ意欲

文・野口美恵(スポーツライター)

5種類の4回転を跳び分けるジャンパーであり、今季はGPファイナル初優勝をおさめたネイサン・チェン選手(米国)。
勢いに乗って平昌五輪を目指す、若き18歳の思いを聞いた。

GPファイナル初優勝も、
羽生選手不在で「刺激が違う」

GPファイナル優勝おめでとうございます。五輪への自信になったことと思います。

とても光栄なことです。もちろん羽生結弦選手、金博洋選手は棄権し、ハビエル・フェルナンデス選手やパトリック・チャン選手といったトップスケーターも今回は参加しませんでした。でも、どんな大会でもトップに立つというのは特別なことです。五輪シーズンのGPファイナルに優勝するというのは、勝利への1つの道であることは間違いありませんから。

羽生選手らがいないことで、試合は違う感触でしたか?

もちろんです。試合全体のエネルギーが違います。結弦はやはりすごいエネルギーを試合に持ってきます。僕もそうですが、彼のエネルギーに他のスケーターも刺激されて、いつも以上のエネルギーをわかせます。そして僕たちに「4回転ジャンプを成功させなければ」という強いパワーと重圧、そして興奮を与えてくれます。結弦が早く回復してくれて、そしてハビエル、パトリック、金選手たちが参加することで、五輪はすごい試合になれば楽しいなと思います。

アルトゥニアンコーチのもとで技術を修正
怪我も乗り越え4回転ジャンパーに
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チェン選手は、2015-2016シーズンからラファエル・アルトゥニアンコーチのもとに移り、一気に4回転ジャンプを習得したように思われます。どんな変化がありましたか?

ロシア人であるラファエル・アルトゥニアンコーチのもとで練習することで、ロシア流の技術を学ぶことができました。それは自分が今まで習ってきた技術にとても似ているけれど、さらに進化させた技術でした。わずかな違いではありますが、大きなコツの差があり、自分のジャンプの安定に大きく繋がりましたし、スケーティングも上達しました。

ロシア人のコーチに習う、ということに躊躇はありませんでしたか?

僕は子供の頃からとにかく自分を成長させてくれる環境を探し、そこに身を置くということを繰り返してきました。アダム・リッポンやアシュリー・ワグナー、そしてエヴァン・ライサチェクといった超有名スケーターがみんな、ラファエルの教えているこの小さな田舎町のソルトレークシティスケートクラブ出身なんです。だから僕もここに移籍することに何の迷いもありませんでしたし、実際に良かったと思っています。

2015-2016シーズンの全米選手権のフリーで4回転4本を降り、ところが直後の練習で股関節を痛め、世界ジュニア選手権も世界選手権も欠場となりました。

当時はそんなに4回転の練習ばかりやっていたわけではありません。むしろ4回転は練習し始めたばかりで、4回転ループやルッツは降りていませんでした。身体が成長期で身長も伸びているし、骨格も強化されていく前の時期だったので、4回転の衝撃にはそもそも耐えられなかったんです。練習のしすぎというより、身体がまだ成長期だったのが怪我の原因でした。

4回転の計画「フリー5本は変わらず」
種類については「適切に考えたい」
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フリーでは5本の4回転を入れていますが、その分ミスもあります。本数を抑えて、確実な演技をするという計画はありますか?

昨季から同じジャンプ構成にトライしてきました。良い試合、うまく行かない試合、いろいろありますが、まずはトライすることが重要だと思っているので、フリーで5本入れるという作戦に後悔はしていません。自分自身が満足できる演技に到達するためには、トライしていくのが唯一の方法なんです。ショートについては、後半に4回転フリップを入れるという挑戦をしていて、これがかなり上手くいっているので自信がついてきました。

5種類の4回転があるので、そのときの調子によって入れるジャンプの種類は変えています。ここまでの戦いを振り返りながら、適切な計画を立てたいです。そのためにも、やはり昨季からずっとたくさんの4回転に挑戦し続けたことが、良い準備になったと思います。

逆に、もっと多くの4回転を入れることは予定していますか?

4回転ジャンプを増やすことに関しては、常にリスクとの兼ね合いを考えてきました。いまフリーで5本の4回転を入れていて、これでも十分にリスクが高いので、自分としては現時点で増やすのは現実的ではないと思います。でもコーチと相談して、もっと僕が進化するために最も賢いアプローチは何かを考えてみたいと思います。

練習では4回転を8本入れているという噂ですが、本当ですか?

いや、それはいつものことではないです。今季重要なのは、怪我をせずにコンディションを保って試合に臨むことです。試合に向けて、練習では精度を上げることのほうが重要だと思っているので、試合よりも多い数の4回転を練習で挑戦するというやり方は必要ありません。試合とまったく同じプログラムを何度も繰り返す、というのが大切です。

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4回転に関して素晴らしいジャンパーになりましたが、トリプルアクセルには苦しんでいる様子ですね。

そうなんです。僕はエッジ系のジャンプがそもそも得意ではなく、トウループ、フリップ、ルッツといったトウ系ジャンプの方が安定しています。元々ダブルアクセルが苦手だったので、トリプルアクセルに移行する段階で、跳び方のフォームそのものを変えました。今はとにかく新しい跳び方、つまり正しいアウトエッジに乗って滑らせながら跳び上がる、という技術なのですが、これを身につけようと苦労しています。大きな変化なのでここ2年苦しんでいますが、少しずつ良くなってはいます。少なくともアメリカ杯よりもGPファイナルのほうが上達しているのを実感できました。

4回転は、世界で唯一5種類を成功させています。どのようにこれほどたくさんの4回転を跳べるようになったのでしょう?

スケートは同じプログラム、同じジャンプを何度も練習し続けるスポーツです。採点も細かいので最終的に何をしなければいけないかがわかりやすく、ゴールを設定しやすいと思います。スケート全体の大きなゴールに向けて、その日ごとの小さなゴールを作り、1ステップずつクリアしていくんです。大きなゴールを明確に思い描いているので、日々の練習でもブレることなく、それをこなしていけるんだと思います。

フリー曲のモデルになった中国ダンサーと対面
両親の体験と共鳴「感謝の気持ちで滑る」
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フリーは、映画『小さな村の小さなダンサー』の曲を使っていますね。亡命して活躍した中国の名ダンサー、リー・ツンシンの半生の実話を映画化した作品です。中国がルーツのチェン選手にとっては、共感できる部分などもあるのでしょうか?

実はこの間、この映画のモデルになったツンシン氏と会って話す機会をいただきました。中国での日々、亡命してからの日々、どんな体験をしたのかを直接聞くことができたので、僕のプログラムでの表現も前より深いものになると思います。彼の本も読んで、映画への理解がより深まったので、良い演技に繋げられたらと思っています。でも彼の経験を僕が代わりに表現するというのはおこがましいことで、どちらかというと僕の両親の体験と共鳴することがあると思います。

ご両親は中国から米国に移民されたのでしたね。

はい。中国から移民としてやってきて、いろいろな苦しみを体験してきました。僕たち兄弟が良い人生を送るために苦労してくれた両親です。その体験とツンシン氏の体験は、近いものがあると思います。

ご両親は、移民として苦労されたのですね。

北京から米国に移民として渡りましたが、当時は所持品もお金もなかったそうです。父は仕事を得るために米国で勉強をして資格をとり、それまでの仕事がない間は母が、5人兄弟全員の面倒をみながら働いていました。両親は、自分達が得られなかった様々なチャンスを僕たちが味わえるようにと、すごく大変な思いをしてきたんです。フィギュアスケートも両親が自分の人生でやれなかったことの1つ。だからこうやってチャンスをもらって育ってきたことに感謝して、その想いをこめて滑っています。

「ショートで2本、フリーで5本」の4回転
五輪ではパーフェクトを目指す
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五輪に向けてはどんな部分を強化したいですか?

まずは今季の試合で挑戦してきた「4回転をショートで2本、フリーで5本」というプログラムを、パーフェクトで演じられるように繰り返し練習することです。それができたら、バーを1つ上げて、新しいことに挑戦することにします。

五輪シーズンのGPファイナルで優勝したことで、五輪の金メダル候補に名を連ねています。緊張感はいかがなものでしょう?

いろいろ考え過ぎないよう、ワクワクしている気持ちを持つようにしています。誰もが勝つ可能性はあるので、自分がGPファイナル1位とは思わずに、自分がやれることに集中したいです。

ありがとうございます。五輪での最高の演技を期待しています。

2017年12月、GPファイナルにて取材

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