インタビュー - Interviews -

ジェイソン・ブラウン選手
インタビュー

羽生、ジュンファンらと同門に
「美しい4回転を見ることが最大の練習」

文・野口美恵(スポーツライター)

情感溢れる演技に定評があるジェイソン・ブラウンが、今季から羽生結弦と同門の「チーム・ブライアン」へと移籍し、新たなスタイルの模索を始めた。四大陸選手権では自己ベストを更新し、飛躍のシーズンを送っている。刺激的な練習環境での日々について聞いた。

北京五輪まで4年、新たな環境を求めて移籍
ブライアンのOKに「嬉しくて泣いた」
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まずは四大陸選手権で250点を超えての5位。着実に「チーム・ブライアン」に移籍してからの成果が表れてきましたね。

今季は、僕にとって変化と挑戦の時期です。昨年の初夏にトロントに移ってから、僕はすべての心をオープンにして、どんな変化も受け入れようと決めていました。以前のコーチ、コリ・エイドのもとに18年もいたので、最初は何をやっても、動きがバラバラで、ぎくしゃくした滑りになっていました。でも毎日、練習を重ねるごとにスケーティングも演技もジャンプも安定して、確実なモノになってきています。シーズン初戦からどんどん右肩上がりに成績も伸び、自分でも新しいスケートに手応えを得てきていて、とても充実した日々を送っています。

18年もいたチームをなぜ離れようと思ったのでしょう?

コリのことは今でも大大大好きです。でも昨季の四大陸選手権が終わった後、「僕は23歳で、五輪のチャンスはあと1回。4年しかない」と思った時に、新しい環境が必要でした。それで世界中のコーチを調べ、トライアウトをたくさん受けました。技術やスタイルを変えるなら、ちょっと変えるのではなく、すべて変えようと思いました。そしてブライアンのもとで練習してみたら、コーチ達と環境、そして指導のすべてが最高でした。でも人気のチームなのもわかっていたので、ブライアンから入門のOKが来た時は、嬉しくて涙が止まりませんでした。

今までに比べて、最も変化した部分はどこでしたか?

まずトレイシー・ウィルソンとたくさんスケーティングの練習をしました。中でも重心の移し替えという感覚が、今までの僕には無いものでした。ステップやスケーティングをする時の重心を、どの高さ、どの角度、どの場所に置くかを細かく考えながら移動させるのです。ただ前に滑るだけでも、その滑り心地が変わり、伸びやかになりました。

確かに、演技が以前にも増して伸びやかになりましたね。

そうなんです。さらに基礎スケーティングの変化の大切さを感じたのはジャンプです。正しい位置に乗れるようになったことで、ジャンプを跳ぶ時に正確な回転を作り、美しくランディングすることができるようになりました。といっても、まだまだ慣れたとは言えません。これからも毎日ちょっとずつ成長していくと思います。

ジャンプのフォームも変化
新たに4回転サルコウを練習
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やはりジャンプの感覚が変わるのは難しいことですか?

ええ、とっても大変です。ジャンプを変えてから、再びトリプルアクセルが跳べるまでは3週間かかりました。でも、そのお陰でトリプルアクセルは今までよりも大きく跳べるようになりましたし、加点もつくようになりました。ブライアンは何度もアクセルのフォームを僕に見せてくれますし、他のコーチ達も適格な技術を教え続けてくれています。

悲願だった4回転ジャンプも、手応えを感じていますか?

4回転に関してはもっと難しいです。4回転は、古い跳び方は完全に消し去って、新しいジャンプとして習っています。ですから新しいフォームで跳ぼうとしても、感覚が全然身に付かず、今でもまだ手に入れたとは言えません。

今までは4回転トウループを練習していましたが、今季はサルコウになりましたね。

そうなんです。実は4回転トウループを本当に長いこと無理に練習してきたせいもあって、悪いクセが完全に身体に染みついているんです。一方で、4回転サルコウは全く新しい技術として学ぶことができるので、習得しやすいだろうということになりました。古いクセを消し去ってからまた新しく学び直すよりも、まったく新しい技のほうが早く身に付くんです。本当にそれくらい、去年までダメな4回転トウループをたくさん練習しちゃってたんです。

4回転は誰がメインで教えてくれているのでしょう?

ブライアンです。あとはリー・バーケルや、カレン・プレストンも教えてくれます。皆がジャンプ技術や指導について共有しているので、とてもわかりやすいです。夏のうちはハーネス(補助器具)も使いました。シーズン中は、実際のプログラムの流れの中でジャンプを練習しなければならないのであまり使っていませんが、最初にジャンプの感覚を身に付けるのにはとても役立ちました。

羽生、メドベデワ、ジュンファンと世界選手権へ
「全員がすごいエネルギーを発している」
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今季のクリケットクラブは豪華なトップスケーターが揃っていますね。

本当に素敵な環境です。初夏に来た時は、ユヅルやハビエルが現役を続けるかどうか知りませんでしたし、ただブライアンとトレイシーに習いたくて入門したんです。でも結果的に、ユヅルもハビエルも現役続行で、そしてエフゲニア・メドベデワも加わり、僕にとってはすべてがプレゼントでした。今でも、リンクサイドで靴を履いている時に目の前をユヅルが通ると、「僕はすごいところにいるな」と格好良い気持ちになりますよ。

全員が同時に氷に乗って練習する風景は、素晴らしいです。

皆がものすごいエネルギーを発していて、常に自分のベストを尽くそうと努力しています。そしてライバルになるとか、順位を争うという雰囲気ではなく、世界選手権に向かってチーム一丸になっている感じです。皆が揃った空間の中にいると、すごいエネルギーをもらえます。それに、これだけのトップスケーターが揃っていても、コーチ達はそれぞれの生徒に合ったアプローチでアドバイスをしてくれます。だから僕たちは、自分とちゃんと向き合ってくれているんだ、と実感できるんです。このチームの一員なんだということが、何よりも幸せです。

メドベデワは、ロシアから北米に来て、新たな環境に馴染むのにジェイソンがとても助けてくれると話していました。

それは嬉しいことです。彼女は本当にラブリーです。最初にトロントに来た時は、まず空港に迎えに行って、電話やアパートなど生活面の世話もしましたし、英会話のサポートもしました。でもそれは僕がやりたくてやったことです。彼女にとっての変化は、僕のジャンプの変化どころじゃない。生活もすべて変わる、本当に大きな挑戦なんです。だから彼女の頑張りを少しでも手助けしたいと思うのは当たり前のことでしょう。

4回転ジャンプを跳べる選手が揃っていますが、誰がお手本になりますか?

クリケットクラブには、本当に素晴らしい4回転ジャンパーがたくさんいるので全員がお手本になります。それぞれ違うタイプの4回転なので、そのすべてのパターンを見ることができるというのは最高です。ユヅルの4回転サルコウは本当に無駄な力がなく美しくて、チャ・ジュンファンの4回転サルコウはパワーとタイミングが素晴らしいですし、スティーブン・ゴゴレフのジャンプは回転がすごく速い、そしてハビエルの4回転はまるで空を飛んでいるみたい。どれも素晴らしいので、見比べるだけで勉強になります。トレイシーもブライアンも「まずはこの4人のジャンプを観察することが一番の練習だよ」と言っています。観察して、吸収する。誰が一番とか、誰を真似するとかではなく、皆の4回転を上手くミックスして、僕に合う4回転を身に付けたいと思っています。

デヴィッドが振り付け、演技構成点9点台に
「明らかに成熟した新たな段階に」

フリーはデヴィッド・ウィルソンの振付による、サイモン&ガーファンクルのメドレー。大きく印象が変わりましたね。

これまでの振付は、長い間ローヒン・ワードにお願いしていましたが、僕自身に保守的なところがありました。いつも同じ様な曲で滑っていて、プログラムに入れている技や演技の流れなども似ていました。それが心地良かったんです。だからデヴィッドがサイモン&ガーファンクルの曲を持ってきた時は「絶対無理。これは好きになれない」と言いました。でもデヴィッドが「ええ?これダメなの?」と驚いた様子だったので、「じゃあ、デヴィッドを信用するから、やってみよう」と話し合ったんです。でも出来上がったプログラムは素晴らしく、滑り始めたら本当に気に入って、ワクワクする作品に仕上がりました。

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今までのように目立つ技を次々と披露するような演技ではなく、滑りそのものや流れを重視したプログラムですね。

そうなんです。すごく成熟したというか、新たな段階の演技になっていると感じています。特に滑り方、動き方が明らかに違います。このフリーは、トレイシーから習ったスケーティングがしっかり身に付いていないとできない内容になっています。ですから僕にとっては、新しいスタイルのスケートを理解し、復習し、反復し、テストするという場にもなっています。

今季は演技構成点が一気に伸びて、9点台も出るようになってきました。

やはり基礎のスケーティング技術を本当にたくさん練習したことに尽きると思います。演技力も大切ですが、しっかりと伸びやかに力強く滑ることが、こんなに大切だとは思いもしませんでした。

ブライアンは祖父のような「見守ってくれる存在」
トレイシーは「心を理解してくれるお母さん」

「チーム・ブライアン」は家族のような繋がりがあることが、一つのパワーです。ブライアンは、ジェイソンにとってどんな役割、どんな人物ですか。

ブライアンは本当に僕にとって大切な人です。常に正しい道を示してくれる、おじいちゃん、いや天から見守ってくれる人という感じです。技術的な変化については、毎日の練習でトレイシーとカレンから細かくアドバイスを受けながら身に付けていって、ブライアンがその技術をさらに上のランクに持っていくためのアイディアをくれる感じです。ブライアンは、大きなゴール、つまり完璧で感動的なプログラムにするための方向性を示してくれるという方がわかりやすいかもしれません。

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ではトレイシーはどんな役割になるでしょう?

トレイシーは、僕たちの心を理解し、寄り添ってくれるママです。彼女は仕事として指導している感じではなく、まるで育児のように愛情をもって接してくれるんです。でもレッスンになると妥協は許しません。例えばクロスオーバーの練習でも、ちょっとでも僕の足の角度が間違っていると、彼女が期待しているなめらかな加速が出ないので、すぐに僕を止めます。そして目の前で一緒に滑って見せてくれます。トレイシーは、美しいスケーティングとはこういうものだという完成形がわかっていて、そこに向けての努力を惜しみません。「カモン、カモン」と言っていつも僕の背中を押します。でも辛い努力ではありません。スケーティングそのもの、ただ滑ることそのものがどんなに幸せで楽しいことか、をいつも教えてくれます。

カレンはどんな手助けをしてくれていますか?

カレンは僕の技術的な変化を、もっともサポートしてくれています。とにかく技術を変えるというのは、何度も何度も繰り返しの練習が必要で、それを見て修正してくれるコーチが必要です。カレンは練習動画を撮影して、重箱の隅を突くように細かい間違いを指摘するのですが、そこを直すと本当に大きく技術が変わるんです。その「見極め」をする特別な目を持っています。例えば3回転ループにクセがあって、頭を正しい重心位置で固定できずにいたのですが、それを直してくれたのもカレンでした。

世界選手権では「ノーミス」を
「日本のファンに会うのが楽しみ」

では最後に、世界選手権での目標は?

「ノーミス」です! それが最終的なゴールですから。このシーズンちょっとずつ成長してきた自分を、そのまま皆さんに見せることが目標です。今季は、試合ごとに点数が上がっているので、このまま世界選手権でも上昇気流に乗っていきたいと思います。できればショートもフリーも今季ベストを更新して、最高のスケートをしたいです。

世界選手権は埼玉での開催です。日本に行くのは楽しみですか?

もちろんです。さいたまスーパーアリーナは、カーニバルオンアイスの時に行ったことがあります。ものすごく大きくて、天井まで見渡すような会場なので、今から興奮しています。それに僕の両親も観に来るんです。本当に日本が大好きなので、日本開催の世界選手権に行くことが楽しみで仕方ないです。大好きなツナマヨのオニギリも食べたいです。
(日本語で)ニッポンノミナサン、アエルノガ、トテモ、タノシミ。マッテイテネ!

2019年2月、四大陸選手権にて取材

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