インタビュー - Interviews -

エフゲニア・メドベデワ選手
インタビュー

トロントで築いたスケートファミリーが支えに
復活の銅で、「さらに次に進む力を得た」

文・野口美恵(スポーツライター)

今季はロシアからカナダへと練習環境を移し、変化と挑戦のシーズンとなったエフゲニア・メドベデワ(ロシア)。シーズン最終戦となる世界選手権で見事な復活の演技を見せ、銅メダルとなった。激動の今季を振り返った。

コーチも生活環境も変え、タフなシーズン
「世界選手権で再出発することが重要だった」
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復活を印象づける銅メダル、おめでとうございます。

この世界選手権では、ショートもフリーも全ての演技にとても満足しています。世界選手権に出られるまでが本当に大変だったので、今回日本に来られたことが嬉しくて、とても気持ち良く滑れました。今季はコーチも生活環境も変えて、本当にタフなシーズンでした。何十歳も歳をとったような、長く、苦しく、そして幸せもいっぱいありました。自分を誇りに思い、トロントの「チームクリケット」を誇りに思い、多くの人と嬉しさを分かち合いたいです。

銅メダルを獲得されて感じたのは、安堵感なのか喜びなのか、どんな気持ちでしたか?

安堵や解放感ではなく、自分ならできるといったような、何も失っていない、いつも通りの「戦える」エフゲニア・メドベデワなのだという自信がつきました。今回の大会を私の再出発にすることがとても重要で、大きなプレッシャーの中でも良い結果を出そうと強く決意していました。ロシアからカナダに移ったことで、私の周りで起きたごたごたや論争、周りの目線や批評を気にする時期もありました。だからこそ、良い演技を見せて再出発すること、そして「より先へ行くための力」を獲得することが重要でした。今は、その力を手に入れたと感じています。

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プレッシャーや周りの意見に立ち向かうには、何が重要でしたか?

まずは、そういった批評から距離を置くことです。それが一番効果的でした。テレビは好き勝手に物事が進行してしまうので、基本的に見ません。インターネットならまだ自分の興味に応じて情報を探してどんどん深掘りしていけば新しいことを知ることができますが、テレビはただ受動的に観て、コメンテーターの言うことを鵜呑みにするしかできなくなるので、ここ5年ほど観ていません。

テレビから取材を受けることも避けているのですか?

いえ、自分と異なる領域のプロフェッショナルの人々がいて、一緒に仕事をすることは刺激になります。放送業界ではスピードが何よりも重要で、チームの統制をとって動く様子など、プロフェッショナルの人たちが働いている姿を見ると刺激になります。実際に映像として形にもなりますし、テレビカメラに撮られること自体は好きです(笑)。

フリーのタンゴは特に気迫が伝わってきました。この情熱は、カナダで得たのか、それともロシア時代からのものですか?

情熱は、ロシア人としての気質からだと思います。生まれたときからの性格というわけではなく、この世界選手権で完全に獲得したとは言えませんが、自分の演技に対して、今までにない怒りにも近い感情で向き合うことができました。ここで力を発揮できなかったらどうするんだと、自分に対して怒るような気持ちです。それはすごく新たな体験でした。

個性的なクリケットのメンバーたち
シーズン後半には「一つの家族になった」
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ブライアン・オーサーのもとに移り、新しい技術を獲得していると思いますが、その手応えは?

週に3回、合同で練習をする機会があるのですが、ユヅルやジェイソンの滑りを見ていると私とは天と地ほどの差で、恥ずかしくなってしまうくらいです。でも彼らを見て学べることは多いです。今季は特にスケーティング技術が向上した実感はあります。もちろん達成度としては10%ぐらい。むしろ、私にはもっと上達できる伸びしろがあると気づかされたことが大きいです。

GPシリーズの頃はまだ調子が上がりませんでしたが、世界選手権では見事に復活しましたね。

シーズン始めの頃は、新しいコーチ陣にまだ慣れていなかったので、試合でリンクサイドのコーチたちを振り返ると、そこに知らない人が立っているような違和感がありました。まだ自分は養子のような感覚だったんです。コーチたちは本当に優しくて大切にしてくれていましたが、何となく落ち着かない気分でした。でも今は、もうそんな違和感は全くありません。一つのファミリーになった感じです。私たちは「クリケットクラブの家族」と呼んでいますが、この世界選手権で演技を終えて後ろを振り返った時に、ずっと見たかった人たちの顔を見ることができたと思えたのが嬉しかったです。クリケットクラブの家族は、最良のコーチであり友人であり振付師のような存在。大切な仲間に支えられて試合に挑めたことが、本当に大きかったです。

クリケットクラブの家族はどんな風に支えになりましたか?

メンバー全員が一つの大きな家族のようになり、私の心を支えてくれました。メンバーは皆が個性的で、ジェイソンは陽気でポジティブですし、いつもテンションが高いガブリエル・デールマンも元気をくれます。華奢なのに中身は大人なエカテリーナ・クラコワも面白い子ですよ。あとモルドバ唯一のフィギュアスケート選手というリリアン・ビンザリという男の子とも仲良くなりました。もちろんユヅルは素晴らしい演技でいつも私たちを刺激してくれます。本当にクリケットクラブには多種多様な人がいて、それが不思議な一体感で繋がっているんです。一緒に出かけることも多いですし、お互いに支え合っています。とても温かい場所ですね。

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シーズン中にショートを変更し、ミーシャ・ジーに振付を依頼しましたね。

コーチや振付師にミーシャが加わったことで精神的に助けられました。私たちが昔から仲良くしていることを知っている人は多いと思いますが、彼がそばにいてくれることで、リラックスして演技ができるんです。スケート以外の色んな話をしてくれますしね。

フリーのタンゴは新しい挑戦だったと思います。

タンゴの音楽は私に情熱やエネルギーを与えてくれます。ショートはどうしても自分に合わなくてシーズン中に変えましたが、タンゴは自分に合っているという感覚でした。不可能を可能にするようなパワーがタンゴの中にはあると思います。ただ、今季はタンゴの練習といっても氷上での練習が大半で、フロアダンスから徹底して練習する時間はあまりありませんでした。来季はプログラムに合わせて、リンク外での新しい練習も取り入れようと思っています。

タンゴでは、ちょっと褐色の肌のヌーディーなメイクにしていましたね。

衣装が黒くて顔が白いというのは違和感があったので、暗い肌の色にしました。もう一段階暗い肌の色にチャレンジしてみたい気持ちもあったのですが、ほどほどにしておきました。

ヴィーガンに切り替え、心もポジティブに
メイクなしで「ありのままの自分を好きになれた」
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カナダに渡り、考え方も今まで以上にポジティブになった印象です。

自分では気づきませんが、だとしたら嬉しいですね。ただ、カナダという国からの影響ではなく、個人的なことだと思います。私はロシア人であることに誇りを持っています。なので、自分自身の人間的な部分が成長したのだと思いますし、正しい方向に進んでいると思います。

カナダに移ってから、健康管理を変えたと伺いました。

そうですね、肉食を辞めるという選択をしました。もう2ヶ月以上は肉類や乳製品を食べていません。厳しい規則を自分に課しているというわけではなくて、穀物やナッツ類やオリーブ油をたっぷり、色々と食べています。そのおかげでとても調子が良くなりました。植物性食品をベースにした食生活にしてから、より幸福になったと感じます。自分を大事にすること、自分の理性、体、スポーツ、取り巻く環境を大事にすることを意識できるようになりました。

ヴィーガンになった、ということですか?以前はヨーグルトやチョコレートが大好きでしたね。

そうですね、乳製品に関してはまだ完全に断ち切れていないですし、甘いものがほしくなるときもあります。自分のことをヴィーガンと呼ぶのがふさわしいのかはわかりませんが、カナダにいると、植物性油脂のマヨネーズなどヴィーガンのための専門スーパーもありますし、そういった生活をより簡単に送ることができます。急に無理をしてすべてを変えたわけではなく、単に食生活を変えてみたら自分に合っていたというだけです。この食生活が良くない方向にいきはじめたら、今までの食生活に戻しますし、意固地になってはいません。

ヴィーガンを選択することで精神的な影響は?

心の面でも楽なのは確かですね。体重のコントロールはかなり楽になりました。筋肉量や体脂肪率の管理は重要ですが、単に食べないダイエットではなく、正しい管理ができていると思えて、心の安定にもなります。

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以前はバッチリメイクが多かったのが、今は自然体になった印象です。

そうです。メイクもマニキュアも、昔とは考え方が変わりました。今は、メイクアップなしの自分の方が好きです。「メイクなしでも綺麗だね」と言ってくれる人が周りに出てくるようになって、自信が持てるようになりましたね。そのことでより幸せを感じやすくなったような気がします。以前は朝起きて鏡を見たときに「ファンデーションはどこ?」と探していました。今では単純に洗面台のところへ行って顔を洗って髪をとかしてこう言えるようになったんです。「今日はメイクしなくて良いわ、昨日のお休みのおかげでしっかりとリフレッシュして綺麗な顔になっているもの」って。そうしたら何だかコンプレックスだった指まで、長く細くなったような気がして。周りの人たちが嬉しい言葉をかけてくるとコンプレックスが消し飛んでいくんですね。優しさと少しばかりの褒め言葉があれば、人は頑張れるんだなって思いました。

本当にカナダの生活に親しんできたようですね。一方で親日家でもありますが、日本のどういったところが面白いと思いますか?

穏やかなところですね。秩序があってまとまりが取れているところだと思います。何もかもが徹底していて、細かいことでも整然と正確に行われるところです。

世界選手権後の予定は?

日本でいくつかのアイスショーに出るので、3週間ほど日本に滞在します。もし時間があれば長野にもう一度行ってみたいですね、心に残る場所でした。あと富士山も行ったことがないので、興味があります。登ってみたい気持ちはありますが、誰かに連れて行かれない限り登らないでしょうね(笑)。本当に日本は素敵な国で、来日するたびに素晴らしい経験をさせていただいています。これからも頑張ります。

2019年3月、世界選手権にて取材

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