インタビュー - Interviews -

ジェイソン・ブラウン選手
インタビュー

四大陸選手権の銀メダルに歓喜
羽生直後の滑走で「熊さんからパワーもらった」

文・野口美恵(スポーツライター)

2020年四大陸選手権で、素晴らしい演技を見せて銀メダルを獲得したジェイソン・ブラウン(米国)。世界選手権に向けての抱負を語った。

全米選手権から1週間後でも「ピークを維持」
自分のペースを理解した、最終滑走
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まずは四大陸選手権での銀メダル。大きな栄誉となりました。

はい、とにかく素晴らしい大会となりました。ショート、フリーともに会見の壇上に上がれたことも、公式練習での滑りも、本番の空気感も、すべての時間が心に刻まれました。特に公式練習では、4回転トウループも降りましたし、氷と一体になった気持ち良い練習ができていたので、とても自信がついてそのまま試合に臨みました。

全米選手権からわずか1週間でソウル入りというスケジュールでした。

短期間で2度のピークを作るというのはとても難しいことです。全米選手権のあとは、5日間だけトロントで練習してから来ました。忙しいスケジュールでしたが、クリケットクラブのチームが力を一つにして試合に臨むということで、とても心強い気分でした。全米選手権に向けては、とにかく練習し、今季の最高の状態をもってきていました。全米選手権で最高の演技ができたからこそ、ピークをいかに2月の四大陸選手権と3月の世界選手権に向けて維持するかが重要で、コーチとは話し合いました。

ピークの維持というのは重要な課題ですね。

今回は上手くいったので、次は世界選手権に向けて調子の波をどう持っていくかです。例えば毎日の練習でも、ちょっと疲れているけど、まだ少しは元気も残ってるな、くらいの調子を続けて行けるように練習量を調整します。1セッション滑って、疲れを感じたら休む勇気も大切です。ブライアンのところに来て2年目。ただ新しいことを学ぶだけでなく、自分の力を試合で発揮するための練習、という視点で取り組んでいます。

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四大陸選手権では、ショートプログラムはパーフェクトの演技で3位発進でした。

ショートは、初めて結弦の次の滑走順を経験しました。氷のあちこちにプーさんが飛んできて、自分まで応援されているような気持ちになって元気をもらいました。黄色い熊さんのパワーは凄いですね。このリンクのファン達が、こうやってたくさんのパワーを送ってくれるんだというのがわかって励みになり、暖かい気持ちになりました。

3位で迎えたフリーは、最終滑走でしたね。

誰もが最終滑走は大変な役だと感じると思います。でも僕は、世界選手権では二度、そしてオリンピックでも、さらに先週の全米選手権でも最終滑走だったんです。なんて最終滑走の多いこと! なので今回も最終滑走と言われても、6分間練習の後の1時間をどうやって過ごせばいいのかわかっていましたし、1時間で自分がどんな風に変化していくのかも知っています。身体が少し冷えるとやはり動きは重く感じるものなので、そこを理解した上でアップを維持し、氷に乗ってすぐに身体を温め直す、というのは意識しました。

フリーは、4回転以外はパーフェクトでした。

演技という面では、まるでオーケストラの指揮者になったような気分で、自分自身を操って音楽を奏でたという気分です。自分の力はすべて発揮できたと思います。次のモントリオールでの世界選手権に向けて、ここで得た課題をやり直していきたいです。

オーサーと2年目、目標を共有
「ストレスなく自然に滑れるようになった」
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ブライアン・オーサーコーチのもとで2年目。スケーティング技術が、より伸びやかになったように感じます。

トロントでは、ジャンプの技術を伸ばすこと以上に、スケーティング技術のレッスンが毎日のように行われます。この競技のあらゆる面をバランスよく身につけることを、とても重要視しています。もっと強く、美しく、スムースに、無駄を省いていく。単なるスケーティング練習のように感じますが、少しずつ進化し、ふと気づくと新しい感覚の境地を得られるのです。スケーティングがいかに大事かというのは、自分がやってみないとわからないことですね。

2年目になったことで、何か変化を感じますか?

昨季は、私が習ってきたスケートの癖を壊して、新しいスキルを上塗りしていくという段階で、色々なことがしっくりきていませんでした。今季は、変に意識しなくても、自然に基礎的な滑りの技術が表れるようになってきたと思います。今季は、どの大会でも高い演技構成点を頂けているのが、成長の証でしょう。自然に滑れるようになってきた一番の要因は、ブライアンたちが求めているゴールを、やっと共有し合えてきたことです。トロントに移ってからの18か月、スケート靴の問題、体力や身体づくり、何を食べるか、何時間練習して何時間休むかといった、すべての面で試行錯誤をしながら、僕にとってのベストを探してきました。ブライアンもトレーシーも、本当に大変だったと思います。変化を求めてチームを移ったのに、簡単には変化が身体に馴染まない。そういうストレスを抱えている僕を、ブライアンたちが励ましてくれました。今では、何をやればいいのか自分でも分かりますし、変なストレスがなくなりました。

今季の『シンドラーのリスト』は、新しいジェイソン・ブラウンを観た、という感じがしました。派手ではないのに気持ちが伝わってくる演技です。

派手な表現のほうが、やはり簡単です。『シンドラーのリスト』のテーマを表現しようとするには、技術的にも感情的にも成熟していないとできません。『シンドラーのリスト』はもう5年以上前から滑りたいと思い続けていたプログラムですが、自分自身が成熟してからという気持ちでした。振付師のデヴィット・ウィルソンに、自分が表現したいものをちゃんと話して、それを彼がうまく演技の形に落とし込んでくれて、納得いく作品になったと思っています。フィギュアスケートというのは、競技者として滑るのと同時に、芸術的な表現者にもなれます。僕としては、常にストーリーテラーでありたいと思っていて、一緒に歌を歌う、音楽を奏でる、感情表現をする、という部分を大事にしています。

4回転の成功に向けて必要なのは、
コントロールの技術と、結弦の本番強さ
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今大会は4回転トウループを練習で降りていましたし、試合での成功は間近ですね。

本当に、自分でも「あとちょっと」という気持ちです。トロントの練習では、毎日のように成功していますし、曲かけでパーフェクトの時もありました。ソウルでの公式練習でも成功しましたし、確実に以前に比べると技術は身についています。僕の担当であるカレン・プレストンや、ハーネスを使ってくれるジェフ・ディオニシオの協力もあって、確実に4回転の技術はつかんでいるんです。
でも今回のフリーでは、4回転回って転ぶほうがよっぽどマシなのに、2回転で着氷してしまうという、やってはいけないミスをしました。ブライアンとトレーシーやコーチ達全員に申し訳ない気持ちです。世界選手権では、絶対に降りるという気持ちでやり直します。

試合での成功のために、あとは何が必要でしょう?

試合では成功しない理由は2つあります。1つは精神的なもの。コーチたちを、そして自分を信じることが必要です。もちろんそうしているつもりですが、ふとした弱気や邪念というのは誰にでもありますから、いかにコントロールするか。これは解決できると思います。そして技術的にもあと一歩です。何かというと、4回転トウループの技術そのものは覚えたので、何本か跳べば1本は成功する。「こうやれば成功する」というパターンは手に入れています。でも試合の1回だけのチャンスで降りるには、「どんな時でもコントロールする技術」が必要です。ちょっと歪んでも降りられるというコントロールや、助走がちょっと違ってもコントロールしていつも通りに踏み切る、とか。そういったことです。本当に繊細な練習の段階に入ってきているので、次こそは成功すると信じています。

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トロントでの練習では、羽生結弦選手やエフゲニア・メドベデワ選手も一緒ですね。

チームの皆からパワーをもらっていますが、あの2人の情熱は本当に素晴らしいです。結弦はとにかく練習での集中力が凄いです。以前も「鬼軍曹」って結弦のことを例えたと思いますが、最近はすごく大人っぽいオーラを出しています。『SEIMEI』と『バラード一番』の練習を目の前で見ることができるのは本当に贅沢なことで、彼の滑りの良さを見て、自分のスケートもプッシュされます。エフゲニアは、本当に真面目で練習熱心。でもリンクから降りればとっても可愛い女の子です。とっても仲良しです。もうすでに、来季に向けて頑張っていますよ。

それでは今季のゴールは?

やはり世界選手権で、ショート、フリーとも完璧な演技をすること。もちろん4回転も含めて、です。技術も、表現したいことも、すべて進化している実感はあるので、これを試合で出せるかどうか。この本番強さを、結弦から学び取りながら練習したいです。

ありがとうございます。世界選手権、期待しています。

2020年2月、四大陸選手権にて取材

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