インタビュー - Interviews -

紀平 梨花選手
インタビュー

「自分に厳しいオフシーズンを過ごすことで
五輪の舞台で自分を信じられる」

文・野口美恵(スポーツライター)

今季は4回転サルコウを全日本選手権で初成功。世界選手権では、ショート2位発進で強さを示しながら、7位となった紀平梨花(18)。悔しい思いをさらなる飛躍へのモチベーションに変え、進み始めている。

大学に入学、自分を実験台にしたデータで
「スケートに生かせる研究を」
写真

この4月から早稲田大学の人間科学部に入学されました。大学生として関心がある研究分野や目標はありますか。

やはりどんな研究も、スケートに生かせるようにという思いが強いです。研究したことがスケートに繋げられるようにという気持ちで、専門分野を選びました。入学式は世界選手権からの帰国直後だったので参加できませんでしたが、さっそく4月から授業が始まりました。子供の健康や生育環境が運動能力に関わることなどの授業が面白いです。子供の場合は大人と違ってまだ思考が働かない部分があるので、どういう行動をし、どうやって運動能力が上がっていくのか、などを分析していく分野です。

子供の運動環境という点では、紀平選手自身は幼少期からさまざまなスポーツに挑戦していたことも、研究に応用できそうですか。

自分の小さい頃の経験を生かすということはまだ考えていなかったのですが、自分の身体で実験して、それが毎日の研究に繋がっている感じです。疲労とか、色々な動き方とか、ジャンプの成功率とか、データとして残っているものを比較して「なるほど」と思うことが多いです。これからのスケートに生かせる研究をしていきたいです。

自分の身体が実験台とは、やはりトップアスリートならではですね。どんな研究をスケートに生かしたいですか。

やはり自分のジャンプを理論的に考えてみたいと思っています。数値化できるものをグラフ化して分析することなどをやってみたいと考えていて、プログラムを滑っている間の心拍数の変化とか、疲れている日と元気な日の違いをどうやったら数値化できるかとか、睡眠の質は自分の演技にどう影響しているのか、とか。今まで試合で体験として身体で実感してきたことを、ちゃんとデータ化して蓄積することで客観的に見ることができて、成功やミスの理由や意味が分かると思います。まだ大学のシステムを把握しきれていないので、どうやったら自分の身体を使った勉強をうまくできるか機会を伺っていきたいです。

スイスは「自然と感謝の気持ちを感じられる環境」
恩返しの気持ちで跳んだトリプルアクセル
写真

今季は、コロナ禍のなかスイスを拠点に練習するという異例のシーズンとなりました。

昨年12月までは予定していた試合がキャンセルになり、練習してきたことを披露する場がなかったり、追いこんだ練習ができなかったりすることが続き、モチベーションの保ち方に苦労した時もありました。達成感を得られることがないので練習を楽しめなくなる時期もあったのですが、スイスでの練習環境がとても良く、自然と感謝の気持ちを持つことができるので、その気持ちを大切に何とかやってきました。

スイスでの生活は、紀平さんにとても良い影響を与えているようですね。

これまでは試合前になると、常に試合のことを思い出してストレスを感じたり、ちょっとしたことで「あ、これは試合もダメかも」という感情になりやすかったのですが、スイスの環境は今までよりもプラス思考になりやすいと感じています。特にオフの時期はトレーニングがとてもハードだったので、「自分は頑張れていないんじゃないか」と不安になることがなく、毎日身体がパンパンになって疲れがたまっていき、それが自分のなかで達成感に変わっていくという日々でした。それに、すごくしんどい練習メニューなのですが、スイスの自然と和やかなメンバーの空気のなか、ついつい頑張ってしまうような雰囲気がありました。

昨年12月の全日本選手権で4回転サルコウを初成功させました。4回転サルコウを成功させたことで、世界選手権に臨む心境に変化はありましたか。

自分の中では、4回転を一度成功したからといって簡単に自信が得られたわけではありませんでした。世界選手権が楽しみという気持ちには、なかなかなれなかったんです。でもストックホルムに着いて世界選手権の会場に入ったら「やれることはやってきたんだし、今まで練習してきた事を皆さんの前で出したい」と自然に思えました。

世界選手権のショートでは、トリプルアクセルを降りて2位と好発進でした。

沢山の方々のお陰でここに来られたのだから感謝して演技をやろうと決めていました。先生方やファンの方、家族みんなが応援してくれているので、この場で恩返しするしかない、という気持ちでジャンプしに行きました。そして試合でちゃんと成功することで、自分自身もフィギュアスケートが好きだったんだな、というのを確認したいと思っていました。

トリプルアクセルと4回転を両立
女子にはほとんどいない、感覚の難しさ
写真

トリプルアクセルと4回転を両立させている女子選手はほとんどいません。独特の難しさを感じることはありますか?

実はトリプルアクセルのほうが氷の影響をすごく受けやすく、靴のブレードの位置や氷の柔らかさとかで跳びあがるタイミングが変わるので、本当に安定させにくいジャンプです。4回転サルコウは、リンクが変わっても割と感触が安定してるなと感じることはあります。なのでトリプルアクセルだけがちょっと特殊なジャンプなのかな、とは思います。

大技2種類を両立させていく難しさはありますか?

4回転サルコウを降りたからトリプルアクセルが難しくなる、と単純には思わないのですが、確かに練習を積み重ねてみると、それぞれ単独で跳ぶ時に比べて、一つのプログラムのなかで続けて4回転サルコウのあとにトリプルアクセルを跳ぶことの難しさはあると感じています。なかなか両立している女子選手がいないということは、それぞれのジャンプでの身体の使い方がごっちゃになりやすい面もあるのだろうと思います。私としては、曲かけ練習のなかで毎日ノーミスでできるように練習を続けていけば、その両立の難しさが解消されるかな、と思っています。

世界選手権では、フリーで4回転サルコウとトリプルアクセルの2つの挑戦が期待されていました。

フリーの朝の公式練習では4回転サルコウを練習したのですが、このあとサブリンクからメインリンクに変わって、6分間練習しか氷に感覚を合わせる時間がないので、今回は間に合わないだろうと思いました。それで4回転サルコウはやめて、トリプルアクセル2本で行こうと決めました。やはり6分間だけで合わせるのは大変なことですが、五輪でもそういう状況があると思います。4回転サルコウとトリプルアクセルを試合で入れるためには、今後は6分間だけですぐに合わせるという練習がすごく大事だと感じました。

6分間だけで4回転もトリプルアクセルも合わせるためには、どんな練習をしていきたいですか。

今までは3回転から順に確認していましたが、世界選手権ではトリプルアクセルを二度練習しただけで6分間が終わってしまいました。4回転をこれから組み込んでいくにあたって、6分間練習では他の3回転は調整しなくても本番だけ跳べるくらいの状態に仕上げていかなくてはならないと思いました。普段の練習から3回転の練習での確率を上げることをやっていきたいです。

「バクバクを爆笑に変える」
メンタルの持ち方に手応え
写真

今回の世界選手権は、メンタル面はうまくいったと話していましたね。

はい。緊張感というよりはリラックスしてできたと思います。自分は緊張すると良い演技ができない傾向があると経験で分かってきているので、集中するところとリラックスするところをしっかり区別して、自分に合うやり方をつかんできたな、と感じています。

今までの集中の仕方とはかなり違うのですか?

たとえば待ち時間に、ジャンプをイメージしても跳べるか分からないなと緊張してきたら、大きく顔を動かして「あ・い・う・え・お」と声に出すことで顔をほぐすような体操をして、それで自分で自分のことを笑ったりします。不安からくるドキドキをワクワクに変える、緊張からくるバクバクを爆笑に変える、というようなことです。あとは公式練習の時から「試合だったらどういう雰囲気になるかな」と、ジャッジのいる試合の雰囲気をイメージしながら滑っておくことで、本番で急に緊張しないようにしておくということなどもやっています。

世界選手権後は、とても前向きな発言が多かったですね。

「何もかも私はダメだ」と思って落ちこんだりするのは絶対にしないほうがいいと思っています。試合に向けて4回転の成功確率を上げるために練習を頑張ってきたのは間違いなかった、と思っています。フリーの日の朝練では、ショートよりも身体が動いていて良い演技ができていました。そして試合の2日後には再び調子が上がってきて、合わせることができていました。ですから結果を出せなかった悔しさはもちろんありますが、今は悪かったところと良かったところとをしっかりと分けて考えるようにして、反省しつつ前向きに取り組んでいきたいです。

毎日五輪のことを考えて
追いこみ練習を徹底したい
写真

今後のプログラムについてもお聞かせください。今季はショートでは片手側転に注目が集まりました。来季の予定は?

今のところ、ショートの『The Fire Within』は継続で、フリーの『Baby, God Bless You』は変える予定です。今季のフリーは本当に大好きな曲で、生命の誕生がテーマでした。美しく、流れが良すぎるぐらいのプログラムで、滑りのスピード感で音楽の綺麗さを表現しようと思っていました。五輪に向けては、スピードのあるところとしっかりと休憩するところと、緩急のあるプログラムを作りたいと考えています。表情をつけて気持ちを表現するなど、物語みたく最初から最後までが変化しながら繋がっていくように、また、見ている方々にもそれが伝わるよう、表現面をしっかりと取り組んでいきたいと思っています。また大技を入れてもミスのないようにすることが大事なので、プログラムに強弱をつけることで曲の途中でしっかりと落ち着いて後半に向けてリセットできるような場所も作りたいと思います。

これからのオフシーズン、どんな練習をしていきたいですか。

まずは春から夏にかけてのアイスショーの期間中もショー用の曲だけを練習するのではなく、ショートやフリーの練習をして、身体をトレーニングで追いこんでいくことを考えています。北京五輪までの時間を無駄にしないためには、毎日五輪のことを考えて、少しでも身体の調子が良い時は必ず追いこみ練習をすることを徹底していきたいです。そうやって自分に厳しく過ごすことで、五輪の本番の瞬間に『あれだけ五輪のために頑張ってきたんだから』と考えて、自分を信じられると思います。自分に厳しいオフシーズンを過ごしたいと思っています。

五輪に向けては、ロシア勢との対決に注目が集まります。

今回の世界選手権で、ロシアの選手は本番に強いなと思いました。ただ今は相手と比較する必要はなく、今回は自分が普段できることができなかったことでの成績です。人と比べてどこを伸ばすかではなく、自分の課題が多く見つかったので、それを克服して五輪に臨みたいと思います。ロシアの選手と差が開いているからといって、無理に挑戦すればするほど、大失敗することもあります。誰かが5回転を跳んだら、私も5回転をやるのかといったら、そういうわけにはいかない。いま自分ができることをコツコツ続けていけば、ちゃんと点数も出ると思います。ロシアの女子選手は強いなとは思いましたが、冷静に自分の状況を理解して、もちろん毎日全力で頑張っていきたいと思います。

2021年4月、帰国後の隔離期間にリモートにて取材

インタビュー一覧へ
PAGE TOP