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インタビュー|迫 鉄平「剣とサンダル」

迫鉄平「剣とサンダル」 迫鉄平「剣とサンダル」

ここがスタート地点だ、出発します。と、
思いを込めた「剣とサンダル」

2015年、第39回公募で動画作品『Made of Stone』を応募し、
審査員満場一致でグランプリを獲得した迫鉄平氏。
受賞から約1年、その間のご自身の変化と新たに取り組まれた
新作個展『剣とサンダル』の制作についてお話をうかがいました。

野球に例えて言うならば、
自分のスイングポイントが見つかった。

— グランプリ受賞後、ご自身の中で何か変化はありましたか?

優秀賞受賞から写真新世紀展の出展へという流れの中で、アーティスト・トークやグランプリ選出公開審査会がありました。その中で制作や作品を見る態度に変化がありました。これまで、自分の作品を語る機会はあまりなかったのですが、写真新世紀は、人前で話さなければならない。その必要に迫られたときに「ちゃんと考えないとヤバイな」と思いました。
会場に来られるのは写真・美術関係者だけでなく、一般のお客さんもいらっしゃいます。その方たちを前にして作品を見せ、プレゼンテーションするので、わかりやすく説明をしなくてならない。自分の作品を説明することについて考える機会が増えました。

それから、自分の作品に対する考えができてくると、難しい本が理解できるようになりました。野球に例えるならば、バッターが自分の一番いいスイングポイントを見つけて、それによってどんな球が来ても対応できるようになるというようなことでしょうか。「この本に書いてあったことはこういうことだったのか」というように。少しずつ分かるようになっていきました。

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— 新作『剣とサンダル』の撮影場所をヴェネツィアに選ばれた理由はなにかありますか?

感覚的なことになるので伝えるのが難しいのですが、ヴェネツィアはガラスが有名な潟(ラグーナ)であり、波と光がある場所という、まさにそれらは写真が結び合える場所ではないかと思ったんです。妄想かも知れませんが(笑)。そして、制作するにあたって、単純に自分に揺さぶりをかけるには、海外へバンと行ったほうが早いという思いもありました。

大学三回生の時に交換留学でイギリスに行った経験からもその感覚は正しい気がしています。一気に遠くへ行こうと。実際に行ってみて思ったのは本当に光がとても近く感じられことです。

— タイトルはどのようにつけられましたか?

タイトルを決めるのは実は苦手です。ですが、『Untitled』のようにしてしまうのは格好つけている感じがするし、ジレンマがあります。映像作品を作ろうと思ったきっかけは、映画を作りたいと思ったことから始まりました。前回の『Made of Stone』も映画から引用したので、今回もそれにまつわるタイトルを付けたいと思っていました。 ヴェネツィアが舞台になっている映画はたくさんありますが、自分は全然知らなくて、イタリアといえばマカロニ・ウエスタンくらいしか思い浮かばない(笑)。レオーネやコルブッチ、そんな感じで映画のことを考えているときに、8月に大阪で参加した展覧会に、コルブッチの『殺しが静かにやってくる』の原題『The Great Silence』を引用した作品を出品しました。

その流れで今回の作品はコルブッチにまつわるタイトルにしようと考えました。そして彼の経歴を調べていると、昔のイタリアの映画ジャンルに『剣とサンダル』というものがあることを知りました。グラディエーターが出てくる歴史劇のジャンルでそう名付けられたと思うのですが、『剣とサンダル』は当時低予算でつくる若手の登竜門のことで、コルブッチがその出身だったんです。自分もデビューしたばかりで「ここがスタート地点だ、出発します。」という思いを込めて『剣とサンダル』と名付けました。

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— 『剣とサンダル』では、写真も映像と組み合わせて発表されました。
写真のおもしろさと映像のおもしろさ、迫さんの中で何か気づきがあれば教えてください。

写真は昔からずっと撮っていました。それがなかなか作品にはならなかったんです。写真は依然として1枚で見せるという価値観があって、そうなると何百枚から1枚を選ばなければならないというようなことが起こります。それができなかったんです。『Made of Stone』みたいな作品だと写真を27枚入れても誰にも怒られない(笑)。そういってしまうと変ですが、ちょっと違うものとして提出できます。写真新世紀に応募するときにブックという形式ももちろん有効ですが、いざ展示となった時に、ブックに入っていた写真を全部展示はできないじゃないですか。そうなったら結局は選ぶという行為が出てきます。僕の写真はまだ一定の水準を超えていないと思っていて、そこはもうちょっとがんばらなくてはと思っているんです。1枚の写真というものにある種逆行していくというか、1枚の写真に複数の写真を入れるみたいな、そういったチャレンジをしています。

『Made of Stone』以降の映像作品は、写真を撮ろうとする「あ」という決定的瞬間、シャッターチャンスを「あーーー」と引き伸ばし時間を挿入するものでした。一方で、『剣とサンダル』の写真作品は、カメラを向ける対象に同時多発的に複数の「あ」があって「あ、あ、あ、あ」と細切れの決定的瞬間を挿入するものです。今は、そういう風に映像作品と写真作品とに絞ってやっていったほうがいいのではないかと思っているんです。

— 2017年度の予定を教えていただけますか?

展覧会やアートフェアなどの予定もありますが、今年も昨年同様いろいろな場所へ撮影に行こうと思います。昨年から『Chill Town』という小規模な写真集をポツポツと自費出版していて、訪れた場所ごとに一冊ずつにまとめるということをしています。今年もそれを継続して続けたいなと思っています。

— ありがとうございました。

迫 鉄平

新作個展「剣とサンダル -Sword & Sandal」

2016年10月29日~11月20日 
東京都写真美術館

  • 『剣とサンダル』 映像作品/15分28秒
  • 『A truth told not in words, but in light』 映像作品/16分02秒

CONCEPT

スナップショットとは、「あっ」とふいに出会った決定瞬間に向けてシャッターを切ることである。私は映像を用いて「あっ」を「あーーー」と引き伸ばすことで、“被写体の自然さがより引き出された決定的瞬間”を正確に捉えようと試みている。
個展『剣とサンダル』では、2016年7月にヴェネツィアで撮影した素材をもとに映像作品と、決定的瞬間からは程遠い細切れの「あっ」を「あ、あ、あ、あ」と一つの画面へと挿入する写真作品とを発表する。

PROFILE

迫 鉄平TEPPEI SAKO
1988 大阪生まれ
2010 グラスゴー芸術大学(イギリス)交換留学
現在 京都精華大学大学院芸術研究科博士後期課程在籍
 
個展
2016 『硝子の塔』(Ponto 15 / Finch Arts Gallery、京都)
『Carbon, Copy, Analog, Delay,』(YEBISU ART LABO、愛知)
『Sliver』(space_inframince、大阪)
 
グループ展
2016 『Art Court Frontier 2016 #14』(ArtCourt Gallery、大阪)
『showcase #5 “偶然を拾う - Serendipity”』(eN arts、京都)
『京都精華大学卒業生ファイル2016 ー未来の問い』(京都精華大学ギャラリーフロール、京都)
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