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インタビュー|Trond Ansten & Benjamin Breitkopf「Another man's floor」

インタビュー|Trond Ansten & Benjamin Breitkopf「Another man's floor」 インタビュー|Trond Ansten & Benjamin Breitkopf「Another man's floor」

写真新世紀2017年[第40回公募]グランプリを受賞したトロン・アンステン&ベンヤミン・ブライトコプフのお二人は、ノルウェー、ドイツと遠距離で制作を展開しています。異国の者どうしによる制作は、どのように拓かれているのか?新作個展「Another man's floor」の開催に際し、ユニット誕生から、目指すアーティスト像についてお話をうかがいました。

対話するアーティスト

— 2人のバックグラウンドが非常に個性的で興味深いです。
トロンさんは自然保護活動家、ベンヤミンさんはカメラマンとして普段は活動されていますよね。
お互いのどういうところに惹かれて、一緒にユニットを組むことになったのか、聞かせていただけますでしょうか。

トロン:ベンヤミンも私もドイツのカールスルーエにいたのですが、それぞれ通っている学校は違いました。私は公立美術大学に、彼はカールスルーエ・アート&メディア・センターに通っていました。当時、私はパートナーを組んだりコラボレーションをして制作することに関心を持っていて、特に動画で自分のアイデアを表現したいと考えていました。

ベンヤミン:一方私は動画の撮影をずっとやっていました。ある日、トロンの実験的でストレートな過去作をいくつか見たんですね。それが面白いと思って、それから組もうと思いました。

トロン:私の展覧会にベンヤミンが来たときに「君の作品のこれとこれを見たよ」と言ってくれて、そこから2人のやり取りが始まりました。

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— トロンが2017年に行った、海藻でビールをつくる「悪魔のエプロン(Devils Apron)」プロジェクトは、自然保護活動家としての視点とユーモアが、表現にうまく組み合わさっていますよね。トロンさんにとってアートとはどういう存在なのでしょうか。

トロン:そうですね、ライフスタイルのようなものだと思っています。漁師のアルバイトをしたときにアザラシの皮や足などを集めたりして、それが写真新世紀で受賞した「17 toner hvitt」につながっている。普段の生活でやっていることも休日でやっていることも、アートの表現とは切り離せないです。

ベンヤミン:たしかにまったく関係のない休日というのはないですね。次の作品に取り掛かっているときが、いちばん楽しい。作品のトピックやテーマを選ぶときに、自分が心の底から面白いと思えるものを選ぶべきだと思うんですね。あと、作品から鑑賞する人に対して問いかけができるか、という点を重視しています。写真は、自分のメッセージを一方的に伝えるだけでは決してなくて、それを見た人の内に疑問をわき起こさせることができます。

日本の写真家は、プリントの質は高いのですがコンセプトの弱い人が多い印象です。どうやって制作したか、という技法のところは細かく説明できても、なぜこの作品をつくったのか、という製作意図があまり語れていない。

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© TROND ANSTEN & BENJAMIN BREITKOPF

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© TROND ANSTEN & BENJAMIN BREITKOPF

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— コンセプトがあったとしても内側にある。自分の内面を向いている人が多く、「問いかけ」というかたちではないかもしれませんね。

トロン:そうなんですよ!現代に起きている社会的なことを扱うことも大事だと思います。自分の外側に注目して、「これはなんだろう」と分からないことを調べてみる、取り組むべきだと思います。

私たちは、2人で作品をつくるなかで対話を非常に重要視しているので、自然と外を向くし、コンセプトを強くしようとします。多くの点で考え方が違うので、お互いに話し合って、歩み寄って理解することによって、成長している。(生まれ故郷である)ノルウェーの大学では、様々なアーティストや科学者、専門家を呼んで講義をしてもらうので、非常に多文化的です。

島国の日本は、移民がヨーロッパより少ないので、多文化的になりにくい。日本のイタリアン・レストランだって、オーナーはほとんどが日本人。ドイツだったら、だいたいイタリア人ですよ(笑)。

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© TROND ANSTEN & BENJAMIN BREITKOPF

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© TROND ANSTEN & BENJAMIN BREITKOPF

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拡張するアーティスト像

— トロンもベンヤミンも30代で、これからアート界を盛り上げていくような立場だと思います。そうしたときに、5年後10年後にどのようなアーティスト像を目指しているのでしょうか。

トロン:おそらく、その方向性というのは今後10年間のあいだに自分でも考えながら、どんどん発展していくものだと思いますが、いまとは違う方向性を色々と模索したいとは考えています。長いあいだフィルム・メイキングという動画表現に注目してきましたが、私はほかにもパフォーマンス・アートとにも関心を持っているんですね。

今週はメキシコでアート&サイエンスに関する会合があるので、そこでパフォーマンスをする予定です。また、先ほど話に出た海藻を使ったプロジェクトのような、微生物などを扱うバイオ・アートにも私は取り組んでいます。これらはつながっているカテゴリだと思うので、社会との出会いを、インスタレーションや動画、彫刻などを駆使しながら表現していきたいです。

ベンヤミン:私はフィルム・メイキングの方に集中したいと思っています。「anAtlas.net」というフォト・アーカイブのプロジェクトを計画しています。いままでの15年間ずっと撮ってきた写真のアーカイブを再編集して、実験的なかたちで組み直せないかな、と考えてやっているものです。色々と試行錯誤しているそのプロセスも、公開したいと思っています。楽しみにしていてください。

— 今後、新しい試みに挑んでいくお二人の活躍を楽しみにしています。ありがとうございました。

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© TROND ANSTEN & BENJAMIN BREITKOPF

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© TROND ANSTEN & BENJAMIN BREITKOPF

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『Another man's floor』

トロン・アンステン & ベンヤミン・ブライトコプフ

この作品は視覚的な対話で、「動く写真」で構成されています。野外で展開される映像のストーリーです。この作品をどう解釈するかは、作り手の私たちと視聴者がこの作品を通じてどのように交流するか、そして視聴者がどのように感じるかによるでしょう。この作品も、昨年の受賞作品である『17 toner hvitt』と同様に視覚的な詩集であり、風景の中での遂行的な行為が記録されていますが、オープニングとエンディングに相当するものはありません。今回はインスタレーション的な作品として、映像が循環する形式に仕上げ、どの部分からでも視聴者が対話に入り込んでいけるようにしています。

私たちは1年ほど前に東京のバーで作品のコンセプトを決めました。遊び心のあるゲームのようなコミュニケーションであり、視覚的な対話であり、映像としてそれぞれが説明のないままに交錯していく。ある人物の天井が別の誰かの床(another man's floor)になる感じです。互いに思惑やアイデアを知らず、映像だけを頼りに解釈してそれに反応しようとする作業。『Another man's floor』は「写真を通じた議論」という新たな試みです。

この作品の「天井」にあたる部分はグリーンランド海の流氷の映像で、この春、トロンが罠猟師の仕事をした様子が描かれています。ベンヤミンは果てしなく広がる流氷の映像を受け取って、はじめてトロンが無事に生還したことを知りました。それに対するベンヤミンからの返事が、人新世のはじまりにシュヴァルツヴァルトにできた湖で魚と泳ぐ女性の映像。ありのままの自然と人間がなじんだ自然、この対比が描かれています。次の映像では水という要素の存在感がさらに強くなり、北極海の海藻の森へと対話の舞台が移ります。そこからミュージシャンがいる都市部の川、そして山岳地帯へと上がり、地下を流れる岩だらけの小川へと続きます。水がある場面から今度は空港跡地へ、さらに積み重ねられた石の列が並ぶ場所へと移り、ベルリンの連邦首相府へと切り替わります。

これらの映像はいずれも、人間が行為遂行的な彫刻として、取り上げた風景の中に存在しているという構成になっています。そこで、神秘主義的で非現実的な行動によって対話が促されています。出演しているのは、マリア・イソベル・ソルベルグ、ハンナ・ハイト、ダーヴィト・ロッシャー、レナ・ドメス、パウロ・ソラリ、クレメンス・ヴィルヘルムです。またこの作品では、2つの映像(エピソード)を1つの画面に並べて表示させた映像インスタレーションという形式を採用しています。部屋の片隅から飛び出してくる順番に対話が起こるようになっていますが、このコンセプトに基づいたものです。対話のトピックは、資源、激しい感情、そして人間と自然との関係です。

PROFILE

トロン・アンステンTROND ANSTEN

1984年 ノルウェー バンブル生まれ。
ビジュアルアーティスト兼自然保護活動家。
ドイツのカールスルーエ公立美術大学で芸術を学ぶ。
人間と自然の関係に注目して作品を制作している。
トロムソを拠点に活動中。

ベンヤミン・ブライトコプフBENJAMIN BREITKOPF

1986年 ドイツ ドナウエッシンゲン生まれ。
カールスルーエ・アート & メディア・センター(ZKM)でメディア芸術を学ぶ。
たたき上げのメディア技術者として公共テレビに勤務。「anAtlas.net」というプロジェクトに参加。受け手との関係における、画像、ニュース、メディアの真実を探求している。

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