バードウォッチングに行こう vol.3

秋のバードウォッチング

渡りの秋、なぜ鳥は渡るのか?

鳥たちにとって、秋は渡りの季節です。
ツバメやヒタキ、カッコウの仲間などの夏鳥は、冬を越す東南アジア方面へ渡って行きます。一方、ガン・カモ・ハクチョウやカモメの仲間の多くは、ロシアのツンドラなどで子育てを終え、日本に渡ってきて冬を越します。
冬のツンドラをイメージしてみましょう。氷点下数十度の強烈な寒さによって湖面が凍り、そこにいる水鳥たちが採餌できなくて困っている姿が想像できます。厳しい冬を迎えるにあたって、より暖かく、よりたくさんの食べ物がある土地に移動するのは、野生の命が生き延びるためにやむを得ないことなのです。

しかし、渡りはとても過酷なものです。その移動途中に、力果てるもの、ワシやタカなどの猛禽類に狙われて命を落とすものが出てきます。その年の春に生まれた若者(鳥)は、冬を越せないことも多いといいます。移動することでさらされる危険を考えると、その地に残っても、渡っても、どちらにせよ、冬は厳しい季節だといえます。
ちなみに、定期的に繁殖地と越冬地など長距離を往復する移動を「渡り」と呼びます。どの鳥がどこからどこまで移動するのかを調べるのは大変です。ヒヨドリのように全国で渡りが見られる鳥もいますし、シジュウカラのように一年中見られる種などは、移動についてよくわかっていません。またスズメのように、若い個体が秋に移動することは「分散」として、渡りとは区別されています。

カモ類は秋に日本に渡ってくるものが多い
シジュウカラは日本で一年中みられるが、移動についてはよく分かっていない

バードウォッチング体験レポート

水辺で“秋の渡り鳥”を観察

文・写真/キヤノンバードブランチプロジェクトメンバー

講師の安西英明さん(日本野鳥の会 参与)

10月半ばの秋晴れの日、朝9時半に都立東京港野鳥公園に集合したキヤノンバードブランチプロジェクトメンバー。講師は、春のバードウォッチングに続き、日本野鳥の会 安西英明参与。
バスを降りてすぐ、道なりにあった公園の見取り図を見ながら、創設当時の様子や、どんな木を植えたのかなどについて、熱く語ってくれます。安西さんは30年ほど前の公園の創設に関わっていて、とても思い入れがあるようです。

1秋の渡り鳥に注目しよう!

バス停から数分で、公園の正面入口に到着!
と、ふいに話をさえぎって、上空を飛ぶ小鳥を気にする安西さん。
この日のテーマは「秋の渡りと水鳥」なのですが、いままさに、渡ろうとしているものの、道(方向)に迷っているヒヨドリの群れがいるというのです。安西さんには、どうして、この鳥たちが迷っていることがわかるのでしょうか?

鳥の多くは、秋には群れでより温暖な南や西に渡るそうで、ヒヨドリも同様です。しかし、このヒヨドリの群れは、北の方角をめざしていました。

安西さんのお話では、
「長距離の渡りは夜、星を頼りに方角を知るようです。一方、ヒヨドリのように明るくなってから渡る鳥は、太陽の位置と体内時計で方角を知ると考えられています。今朝は天候が不安定で、渡る時間帯を過ぎてから陽が出たことで(このとき午前10時くらい)、方角を見失い、右往左往しているようにみえます」 とのこと。

なるほど! 鳥が正確に目的地に向かうことができるのは、彼らの星や太陽を読む能力のおかげだったのですね。
とても納得できました。ただ、今日のような条件では方向音痴になってしまうのですね。

30~40羽のヒヨドリの群れ。
ようやく方角を定めることができたようで、迷いなく(?)西の方角へ飛んで行った。

2鳥は夜のうちに渡る

「多くの種が渡っているのに、私たち人間にそれほど感づかれていないのは、なぜでしょう?」と安西さん。 そういえば、あまり気付けていません。

それは、長距離の渡りは「夜」に多いからだそうです。太陽の光を背に受けて飛び続けるのは大変でしょうし(体力の消耗が激しい)、暗い時間帯なら涼しく、タカやハヤブサなどの猛禽類に襲われにくいという利点もあります。

また、夜間よりもエネルギー消費量が大きい昼間の渡りには、食料の補給の機会も必要となります。小休止を繰り返すことは、より危険を多く呼び込むことにもなりかねません。夜のうちに、天敵に気づかれず、一気に長距離を渡ってしまうことが、より安全なのです。

昼間に渡る鳥もいます。ツバメのように飛びながら食べることのできる鳥や、天敵の少ないタカやハヤブサなどの猛禽類、気流を利用する大型のハクチョウやツルなどです。ヒヨドリなどの朝のうちに渡る鳥は、朝に旅立ち、陽が高くなる前には移動を止めるようです。

ヒヨドリは日本近辺にしか分布しないので、長距離の移動はしていないものと思われるが、どこのヒヨドリがどこまで移動するのかは、くわしくわかっていない。

3ちょっと寄り道をして自然生態園へ

今日のテーマである水鳥を見に行く前に、最初に設置された公園の一部を含む、自然生態園に向かいます。
3号観察小屋に着いて、観察窓にずらりと座って池を眺めていると、安西さんが、「カワセミがいますよ!」と教えてくれました。メンバーは一気に色めき立ちます。

バードウォッチャーならずとも、その美しさで人気の高いカワセミ。ここ、野鳥公園では、一年中観察することができます。

「カワセミは、きっとみなさんが思うよりも小さい鳥なんですが、どれくらいだと思いますか?」
「スズメくらいですか?」
「その通り。とても小さいですが、鳴き声は『チーッ』と細く伸ばす声ですし、色が目立つので気づきやすいですよ」
たしかに、小さいわりには、目につきやすいようで、すぐに全員が見つけることができました。

しかも、1羽ではなく、2羽もいるようです。お腹が空いているのか、枝の上にじっととまっていたかと思うと、いきなり水面に飛び込んで魚を捕ろうとします。狩りに夢中になっているようで、まったく逃げません。小さな体なのに飛び込みを果敢に繰り返す姿は、かわいいというよりも、カッコいい!くちばしに魚をくわえ、枝に打ちつけたりもしています。時々、枝の陰に隠れてしまったり、場所を移動したりはしていますが、かなり長時間観察できたので、本当にラッキー。今日のバードウォッチングは開始早々から大満足です。

魚を捕まえたカワセミ

カワセミを堪能したところで、本題のカモのいる東淡水池のほうへ移動します。
その道すがら、突然現れたのが、キツツキの仲間の中では一番小さな「コゲラ」。こちらもスズメサイズと小さくて、とてもかわいいです。2、3メートル先の近距離なのに、一向に逃げる様子がありません。

「コゲラは警戒心が薄いので、かなり近くに人がいても逃げません。手でつまめそうなほどです」
まさかキツツキに会えると思っていなかったのですが、安西さんによると、その辺の都市公園にもいるので、めずらしくないそうです。しかも、「留鳥」なので、一年中観察できるのだとか。
安西さんが小さいころは、コゲラは森の中にしかおらず、頻繁に観察できる鳥ではなかったそうです。それがなぜ、都市でも見られるようになったのでしょうか?

「公園の木々も数十年経つと成熟し、中には歳をとったり、病気になったりすることが原因で朽ちる木が多くなったからではないでしょうか。そういった木は、キツツキのお食事処です。キツツキを観察したければ、元気のない木を見つけることです」
と言って、安西さんは、葉っぱが1枚もない枯れ木をこんこんと叩きます。軽い音がします。
「このように朽ち果てた木には、たくさんの虫がいます。弱っている木だからこそ、虫にやられるわけです」
その後、その木には、すぐにコゲラがやってきました。

なるほど、目的の鳥が好きそうな環境や木を見つけて、そこで待っていれば、出会えるチャンスが増えそうです。
コゲラも1羽ではなく、2羽いたようで、初めてのキツツキをじっくりと、近距離で観察することができました。

コゲラは警戒心が比較的弱く、時々人に近くにも来てくれる
キツツキが好みそうな枯れ木

さらに歩いていると、安西さんがいきなり、
「みなさん、お醤油の匂いがしてきませんか?」
と、地面に落ちている葉っぱを何枚も拾いはじめました。そばにある木は、「カツラ」の木だそうです。そういえば、名前は聞いたことがあります。カツラは水分の多い肥沃な土地を好み、材は柔らかくて加工しやすいので、看板などに使われるそうです。
「香りが出る=香出(かづ)る」が名前の由来とも言われているとのこと。
残念ながら、たくさんの鳥が訪れるというわけではないそうですが、秋が深まると、葉が緑色から黄色に変化するそうです。みなさん、散歩をしているときにお醤油の匂いがしたら、カツラの木を探してみてください。

カツラの木。葉っぱは円く、ハートのような形をしている。
カツラの落葉の匂いをかぐメンバー。たしかに、お醤油のような香ばしい匂い。

4秋冬は水鳥観察が旬!

東京港野鳥公園は、埋立地に蘇った自然を活かしてほしいという市民の要望から生まれました。淡水池・海水が入った潮入りの池・干潟など、バリエーションに富んだ池がコンパクトに配置されており、それぞれの環境を好む、さまざまな種の野鳥を観察できます。都心からほど近いアクセスでありながら、秋冬は、カモの仲間やサギの仲間、カワウなど(春と秋はシギ・チドリの仲間も)が観察できるため、一年を通してたくさんのバードウォッチャーが訪れるというのも納得です。

この日も、サギの仲間や、東京港野鳥公園にはいつもいるカワウ、そして、目的のたくさんのカモが池一面に群れています。
カワウは見分けやすいし、サギも簡単にわかります。しかし、カモは何種類いるのでしょうか?

ここ、東京港野鳥公園で一年を通して見られるのは、「留鳥」のカルガモだけだそうです。
たくさんのカモがいるのは10月~3月くらいのあいだで、その時期は、カモの仲間だけでも十数種類、そのほかの水鳥も合わせると、30種~40種が観察できるそうです。
「みなさんがよくカモだと思っているものには、カモでないものもいます。たとえば、あの黒い鳥は、カモの仲間ではありません」
と安西さん。

サギ、ウ、シギやチドリがカモの仲間ではないのは、見た目でわかります。でも、あの黒い鳥は、ゆったりと水面を移動し、時々、水にも潜ります。カモでないとは?
「あれは、ツル目クイナ科に分類されるオオバンで、白い額が特徴です。カモの仲間なら横に平たいくちばしをしていますが、オオバンのくちばしは尖っています。」
なるほど、水面に浮かんでいるのがすべてカモだと思ったらいけないということですね。勉強になりました。

コサギ、ダイサギとカワウ。潜水して魚を捕るカワウの羽は油分が少なく、水が染み込みやすい。そのため、羽干ししている様子がよく見られる。
コサギ。他のシラサギ(ダイサギ、チュウサギ)と見分けるポイントは、くちばしが黒くて、足が黄色いこと。
オオバン。カモではないので、ご注意を!

潮が引いたときには、シギやチドリが干潟の上をちょこまかと歩いて、カニや貝などを採餌しています。採餌に夢中になっているので、比較的、ゆっくりと観察できるのが魅力です。
シギ・チドリの渡りの時期は、東京港野鳥公園のホームページで、干潮・満潮の時間が確認できます。(秋は7~9月)

また、公園内のネイチャーセンターには、ネットワークカメラが設置されており、センター内のモニターやインターネットでも野鳥観察が可能です。

東京港野鳥公園ライブカメラ
http://www.wildbirdpark.jp/livecam.html

ネイチャーセンターに設置されているネットワークカメラは、24時間稼働している。

5お尻をチェック! よく潜るカモ と あまり潜らないカモを見分ける

本日の目的は、カモや他の水鳥です。ということで、ネイチャーセンターのある「潮入の池」へ移動しました。目の前の広い池には、たくさんのカモがいます。

ここで安西さんが、
「カモのお尻を見てください!」
と一声。

不思議に思うメンバーをよそに、
「カモたちのオスがまだ派手になっておらず、種まではわかりにくいこの季節は、よく水に潜るカモと、あまり潜らないカモを見分けましょう」
と続けます。

カモはみな、水に潜ると思っていたのですが……。
「お尻が沈んでいて、重心が低いカモは水に潜ります。お尻が上がっているカモは潜りません」
なるほど、潜るのが得意な体の形と、不得意な体の形があるということですね。たしかに、よく水に潜るカモは、尾が下がって見えます。

あまり潜らないヒドリガモのお尻は上がって見える

安西さんは続けます。

「よく水に潜るカモは、水中の藻や底生動物など採餌します。あまり潜らないカモは、水面に浮いている水草などをくちばしですくいとるようにして、採餌します」

よく水に潜るカモは、足も後ろのほうについていて、飛び立つには助走が必要。陸上にいるよりも水上にいるほうが敵からも逃げやすいので、水上生活が中心で、休むのも寝るのも水の上なのだそうです。 一方、あまり潜らないカモは、飛び立つのに助走は必要なく、羽の手入れや休息、眠る時も浅瀬に上がります。

体のつくりと、食べ物、生態や生活様式はつながっているということが、よくわかりました。 われわれのようなバードウォッチング初心者には、個々の識別はなかなか難しかったのですが、常駐しているレンジャーさんが教えてくれて、助かりました。

よく潜るホシハジロのお尻は沈んで見える
ゆったりと白線を引きながら泳ぐ、あまり潜らないカルガモ
潜るカモ:キンクロハジロ、シノリガモ、スズガモ、ホシハジロ、カワアイサなど
潜らないカモ:カルガモ、マガモ、コガモ、オナガガモ、オシドリ、ヒドリガモなど

6弱肉強食のドラマが始まる

東観察広場に移動すると、陸地にハシブトガラスやキジバト、モズやハクセキレイなど、陸の鳥がたくさんいます。モズは「キーキー」と、高い声でけたたましく鳴いているため、見つけやすいのがありがたいです。
モズの高鳴きとはよく言いますが、繁殖期ではない秋や冬に、なぜ鳴いているのでしょうか? 

「いい質問ですね」
と安西さん。

「たいていの小鳥は、エサを見つけやすかったり、天敵の存在に気づきやすいという利点があるため、エサの少ない冬は群れを作って過ごします。でも、モズは肉食のハンターで、個々で厳しい冬を乗り越えます。そのため、エサ資源がある自分の領地を守るために、縄張り宣言をしているのです。同じ木に違う種の鳥がとまっていても構いません。習性や食性が違えば競合しないので、あくまでも縄張り宣言は、同じ種(モズ)に対してのみです」

モズ。高鳴きをしてなわばり宣言をしていた。

と、突然、ハシブトガラスたちが騒ぎ出しました。周囲の木々に散り散りに飛んでいきます。
「ん!これは、猛禽がいる騒ぎ方ですね」と安西さん。
上空にはトビがいます。
「安西さん、トビを警戒しているのでしょうか?」
「いえいえ。ハシブトガラスは、トビごときではビビりませんよ~」
とニヤニヤしています。

タカの仲間なのに、ほかのタカにくらべて軽く見られがちなトビ。下からみると、翼に白い斑がある。

さらに見上げると、トビよりもはるか上空に別の猛禽がいます。
「ノスリです! ハシブトガラスが警戒していたのは、これですね」
カモがたくさん集まる水辺には、オオタカやノスリなどの猛禽類も寄ってきて、逃げ足が遅いカモや、けがや病気で逃げられないカモなどの水鳥を狙うそうです。
ハシブトガラスだけでなく、カモたちも警戒している様子が感じられたら、憧れの猛禽類を観察できるチャンスかもしれません!

かなり上空を飛ぶノスリ。このあと、急降下した。
ハシブトガラスは猛禽の接近に、かなり敏感だ

今日は、秋のバードウォッチングということで、カモを中心に、カモを狙うタカの仲間まで観察できました。カモたちはエサがある日本に渡ってきて、そのカモをエサにする猛禽類が池の周りをウロウロとする。まさに食物連鎖です。コゲラも、エサがとれる枯れ木があるから、森の奥から都市公園まで出てきたということ。そういったエサが豊かな自然環境が、生きものが豊かな環境を作るのだということが、よくわかりました。
みなさんもからりと晴れた気持ちのよい日には、池があるような近所の公園に出かけてみてくださいね。

この日観察できた鳥

キジバト、 ムクドリ、 ヒヨドリ、 ハクセキレイ、 スズメ、 オナガ、 ハシブトガラス、 モズ、 トビ、 ノスリ、 カルガモ、 マガモ、 コガモ、 オナガガモ、 オカヨシガモ、 ホシハジロ、 キンクロハジロ、 ヒドリガモ、 ヨシガモ、 カイツブリ、 ダイサギ、 コサギ、 アオサギ、 カワウ、 オオバン、 カワセミ、 コゲラ

メジロ、 シジュウカラ、 カワラヒワ

鳴き声のみ/ メジロ、 シジュウカラ、 カワラヒワ

バードコラム