インタビュー - Interviews -

松生 理乃選手
インタビュー

「練習への姿勢や人間像を学んできた」
浅田、宇野の後輩として、4年後の五輪へ

文・野口美恵(スポーツライター)

山田満知子チームの“秘蔵っ子”としてシニアデビューした今季、北京五輪代表候補にも名を連ね、トリプルアクセルにも挑戦した松生理乃。4年後の大舞台に向け、たくさんの刺激を受けながらシーズンを駆け抜けた17歳が、思いを語った。

宇野の練習量に驚き「人の何倍も練習しよう」
ダブルアクセル習得をきっかけに飛躍
写真 (この画像は、PowerShot PICKで自動撮影しました)

松生選手は名古屋出身、小さいころから山田満知子先生の門下生として歩んできましたね。

幼稚園の時に浅田真央さんの演技を見たのがきっかけで、小学1年生からスケート教室に、3年生から山田満知子先生と樋口美穂子先生のチームで本格的に練習を始めました。グランプリ東海クラブは伊藤みどりさんや浅田真央さんが育ったクラブで、当時も宇野昌磨選手、村上佳菜子さん、山下真瑚選手など、上手な選手がたくさんいました。「こうなりたいな」という目標がいつも身近にいることはすごく恵まれていたと思います。

宇野選手はすでに国際大会で活躍していた時期ですね。どんなお兄さんでしたか。

まだ私が小さい頃だったので、一緒に練習するというよりは、ステップやフットワークに圧倒されて、少しでも真似できるようにと思っていました。宇野選手がトリプルアクセルを習得するまでに時間がかかったという話を聞かされていたので、自分もダブルアクセルを跳べるまでがすごく時間がかかり大変だったのですが、「人の何倍も練習しないとできないものなんだ」と思うことができました。宇野選手は本当にたくさん練習するので「こんな練習量をしないといけないのか」と驚く時もありましたが、自分も頑張ると試合で結果が出るようになり、「やっぱり練習は大切なんだな、頑張ろう」と考えられるようになりました。

松生選手はジュニア時代からスピード感があり、ジャンプもダイナミックです。どなたの教えがあったのでしょうか。

先生方にアドバイスをいただいてきました。私は滑ると猫背になりやすかったのですが、それだとスピードも出ませんし、滑っている姿も綺麗に見えません。「肩の力を抜いて猫背にならない」と何度も言われて、日常から意識するようにして直したことでスケーティングは良くなったと思います。あとジャンプを跳ぶ前のスピードは、私は怖がりなので最初のうちは怖いと思っていた時もありました。でも宇野選手や村上佳菜子さん、山下選手といった、スピードを出して跳んでいく先輩方が目の前にいたので、「私もこのままじゃダメだ」と思い、スピードを出して跳ぶようになっていきました。

スピードのあるジャンプを生かして、「3回転+3回転」の連続ジャンプが持ち味になっていますね。

ダブルアクセルまでは苦労したのですが、空中での回転の締め方をつかんでからは、3回転ジャンプができるようになるのと同時に、「3回転トウループ+3回転トウループ」の連続ジャンプも跳べるようになっていきました。やはり周りの先輩方が飛距離のあるジャンプを跳ぶので、それを真似しているうちに、自然と着氷に流れがあるジャンプになっていったのだと思います。

チームの先輩方からとても良い影響を受けてきたのですね。

小さい頃から選手の方もお母さん方も、たくさん私に声をかけて下さいました。「ジャンプを跳ぶにはもうちょっとこうした方がいいよ」というようなアドバイスも、先輩方がいつも言ってくださったことで、今の私があります。私もいずれ、後輩たちにアドバイスしてあげられるようなお姉さんにならないと、と思ってきました。選手としてだけでなく、人間としてもお手本になる先輩たちだったと思います。

全日本ジュニア優勝、トリプルアクセルへ着手
基礎をしっかり固め、長所を伸ばす方針
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昨季の全日本ジュニアでは、吉田陽菜選手や島田麻央選手など、同世代のジャンパー達との対決のなか、優勝を決めました。

優勝を目指してはいましたが、吉田選手や島田選手など、高難度のジャンプを跳んでいる子たちにジャンプでは負けているという気持ちもありました。「私は高い点数のジャンプがなくても他の部分で勝てるんだ」と言い聞かせて、自分の長所を磨いていくようにしました。私は演技後半に連続ジャンプを入れていましたし、滑りも評価して点がもらえるように、そこに自信を持って伸ばしていきました。

山田先生の教えのもと、基礎をしっかり固め、演技構成点を伸ばしていく戦略が生きたと思います。

満知子先生の方針は「その子の上手なところを伸ばす」というものです。得点の高いジャンプを早期にやるというよりは、基礎をしっかり固めて、得意なジャンプを将来にたくさん練習するための土台を作ってくれていると思います。基礎をやってきたことで演技そのものも安定しますし、これからシニアで戦っていくなかで様々なジャンプに挑んでいけると思います。私にとっては山田先生の方針が合っているので、こうやって全日本ジュニアで優勝することもできたと思います。

全日本ジュニア優勝後はトリプルアクセルに着手。山田先生は、伊藤、浅田といった日本女子のトリプルアクセルジャンパーを育てた名コーチです。

トリプルアクセルに初挑戦したのは、(昨年12月の)愛知県の大会で、練習では回転不足で数本立てるようになっていたという時期でした。とりあえず一度は試合で挑戦するということをやってみたくて県内の大会でチャレンジしたのです。今季もげんさんサマーカップで挑戦し、そのあと10月のジャパンオープンでも入れることになり、やはり多くの方々に見て頂ける試合なので良いものを見せたいと思っていました。結果的にダウングレードではありましたが右足で立つことができたので、成長した姿を見せられたかなと思います。

ジャパンオープンは女子6人のうち4人がトリプルアクセルに挑戦するという試合でした。

みんながトリプルアクセルに挑戦していたことで、自分ももっと頑張ろうという気持ちになった試合でした。そして同い年の河辺(愛菜)選手がトリプルアクセルを着氷していたので、追い付きたいという気持ちも湧きました。やはり河辺選手とは子供の頃から勝ったり負けたりを繰り返してきたので、私にとって一番負けたくないと思う相手です。なので、すごく刺激になりました。

五輪代表候補にも「現実的に思えなかった」
全日本選手権後「気持ちが足りなかった」と痛感
写真 (この画像は、PowerShot PICKで自動撮影しました)

昨季の全日本ジュニア女王としてシニアへ参画。五輪の代表候補にも名前が挙がってのシーズンスタートでした。

正直なところ、自分自身では五輪という舞台に現実的に出ようとはまだ思えていませんでした。もちろん代表候補に名前を挙げてもらえるようになって嬉しいけれど、自分が五輪なんて恐れ多い、という気持ちだったんです。普段の練習や試合でもあまり五輪のことは意識せずに、自分のやるべきことをやるだけ、と思っていました。

全日本選手権ではショート6位となり、最終グループでフリーを滑りました。五輪代表の争いを身近に感じたのではないでしょうか。

一緒に最終グループを滑った方々はみなさん素晴らしい選手ばかりでした。坂本花織選手はダイナミックな滑りとジャンプがありますし、宮原知子選手のフットワークにはまったく敵わないと思いました。ただ自分の場合はスタミナが落ちずに「3回転+3回転」を後半に持っていけることが強みなので、そこを失敗しないで最後まで滑り切れば追い付いていけるかな、という思いもありました。それだけにフリーの冒頭でミスをしたのはショックで、演技直後は、すごく悔しかったです。

同じ歳の河辺選手はトリプルアクセルを決めて3位、北京五輪の代表となりました。

自分自身が五輪に行けないことは自分の演技に失敗があったので仕方ないことだと納得していました。でも同じ歳の河辺選手が五輪出場をつかみとり、悔しさが増しました。“愛菜ちゃん”が身近な存在だからこそ、本当の悔しさを感じたんです。試合が終わってから自分は「五輪は現実味がない」と思いこんで日々を過ごしていたけれど、みんなは本気で五輪を目指していたことを痛感しました。「ああ、4年に1度しかないすごいチャンスの年だったんだ」と後から感じて、全日本選手権という大舞台に対する決意が足りなかったからこそ4年後を目指す気持ちが変わりました。

四大陸選手権、五輪で感じたトップ選手のメンタル
刺激を受けたチャレンジカップで224点超え
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悔しさもありましたが、総合7位で四大陸選手権への出場を決めましたね。

四大陸選手権こそ良い演技をしようと思っていたのですが、ショートで失敗してしまって「またか」と自分に失望してしまいました。フリーまで1日空いたのですが、公式練習でもうまくいかずにどんどん自信がなくなっていって・・・・・・。その時、美穂子先生から「そんな気持ちのままじゃダメだよ。これまで練習してきたことを出すんだよ」と声をかけていただいて、クヨクヨしていた気持ちを切り替えました。お陰でフリーはパーフェクトの演技で、今季やっと力を出せたと思いました。

三原舞依選手は見事なパーフェクトの演技で優勝でした。

三原選手は五輪に出られず本当に悔しかったはずです。でも、悔しい思いをした後にどうするかが大事。そういった生き方のお手本を見せてくれたと思いました。自分に与えられたチャンスで精一杯の演技をして優勝できるなんて素晴らしいことで、それだけ気持ちを強く持っているんだというメンタルを学びました。

四大陸選手権のあとは、北京五輪はご覧になられましたか?

自宅のテレビで日本のみなさんを応援していました。団体戦は、出場した全員が素晴らしい演技をしていて、大舞台のここ一番で結果を出せるのはすごいなと思いました。

同じ門下生だった宇野選手の活躍も嬉しかったことでしょう。

宇野選手には勝手に親近感を感じているので、頑張ってほしいと思って見ていました。前回の五輪からの4年でプログラムもジャンプも進化して、4回転の本数も増やしていて、ただただ圧倒されました。宇野選手は、技術だけでなくて、練習への態度が本当にお手本のような存在なんです。先生がいない時でも、黙々と難しいジャンプの練習をし続けている姿をよく見かけていました。世界と戦える選手になるには、何事も自分でやる、という姿勢が大切なんだなと、いつも学んでいました。なので、宇野選手が力を発揮したことがとても嬉しかったです。

女子の試合を見て、どんな刺激を受けましたか?

ROC(ロシアオリンピック委員会)の選手が強いなかで、日本代表の3人全員が自分の力を発揮しようと頑張っていました。樋口選手はトリプルアクセルを決めましたし、坂本選手のダイナミックさを押し出す演技も凄かったです。五輪というものは、全員が本当に一生懸命に練習してきて挑む舞台なんだなと感じて、見ているだけで刺激を受けましたし、やはりここを目指したいという気持ちが今まで以上に大きくなりました。

五輪の直後に行われた2月末のチャレンジカップ(オランダ)で、ショート、フリーともパーフェクトの演技を見せました。

五輪と場所は違うけれど自分も頑張らないと、という気持ちで行きました。今季、私は良い試合がずっとなかったので、「自分は最後のチャンスでノーミスの演技をしないと後がないぞ」と強い気持ちで挑みました。現地入りしてから、試合前日の公式練習がオフになるなどいつもと違うスケジュールで緊張もありましたが、四大陸選手権の経験や、五輪を見た刺激もあって、うまく気持ちを落ち着かせることができました。

総合224.34点という、世界の表彰台を争えるような高得点でした。

ショートで70点を大きく超えることができたことは嬉しかったし、フリーで150点というのは最初は聞き間違えたのかと思いました。ショート、フリーを揃えることで、ここまで得点を伸ばせるんだという手応えをつかめましたし、多くのジャッジの方々が8点台以上を出してくださったのは、演技を磨いてきたことが評価されたと思い嬉しかったです。こういった高い得点を安定して出せるようになれば、色々な国際大会に派遣していただけるので、ちゃんと結果を出せるようメンタルの強化も図りたいと思いました。

写真 (この画像は、PowerShot PICKで自動撮影しました)

来季以降、トリプルアクセルへの挑戦は、どのように進めていきますか?

北京五輪で樋口選手は、ショート、フリーともにトリプルアクセルを降りましたが、2本とも揃えるというのは、本当に自分の型が安定していないとできないことです。しかも五輪という大舞台の緊張を考えると、何も考えなくても自分の身体に染みついているというレベルなのだと思いました。樋口選手がそこまで持っていった姿を見て、良い目標ができました。私も何も注意点などを気にせずに感覚だけで跳べるところまで持っていきたいと思います。
今はトリプルアクセルの練習を再開して、まだ回転不足ですが、右足で立てる回数は増えてきています。このまま回転(軸)を安定させて、来季は試合で入れていきたいと思っています。

ありがとうございました。さらなる飛躍を期待しています。

2022年4月、リモートにて取材

(今回はキヤノンの自動撮影カメラ 『PowerShot PICK』を使い、インタビュー中の何気ない瞬間を自動で撮影しました。その写真もこの記事に使っていますのでぜひご覧ください。)

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