1992優秀賞
ARTIST STATEMENT
私と『見ること』のあいだ
一匹の奇妙な生き物をわたしは飼い始めてしまったようです。見ることで、わたしとものが相対するのではなく、見ることが音楽のようになる瞬間、または、ものたちが堅く身にまとっていた衣服を脱いで、名前や役割や由来が消えていってしまう瞬間、そういう瞬間が現れるなら、これらの作品はウイルスのように増殖し続けて、100点にも1000点にもなるかもしれません。それとも、昆虫のように変態して、思いもよらぬ芋虫になってしまうかも…。いずれにしろ、大切に育てていきたいと思います。(サナギになったり、冬眠してしまったりするかもしれませんが)この作品を選んで頂いてありがとうございます。
審査評 選:南條 史生
異なった額に入った異なった大きさの作品が全体としてひとつの作品を構成している作品である。そこには、今美術界でもっとも重要な問題のひとつになっている「アートとそのプレゼンテーション」についての注釈が生じている。それは、作品の内容や価値は、作品が置かれる場所や、提示の仕方で揺れ動くというアートの定義にかかわる問題だ。その意味では、この作品は写真の枠を越えた問題提起をはらんでいる。写っている主題が、全体としてもう少しまとまりのあるメッセージを生み出すべきではないかという思いと、むしろ作者の意図どおり無秩序で何気ない視線の集積である方がいいのだという思いと、私の気持ちは二者の間で宙吊りになっている。色調は独特の揺れと陰りを持っていて、それは、この作品の全体をまとめ、貫く、重要な要素になっている。このプレゼンテーションの方法と色調を用いて、さまざまな展開が可能な気がする。この方法の中で、いかにより深いものを追求し得るか考えて欲しい。
PROFILE