1993優秀賞
ARTIST STATEMENT
無題
一度も視覚体験をしたことのない生まれながらの人にとって、あの水平線や青い天空の広がりを言葉だけからどうやってイメージする事ができるのであろうか…。
その人は、視覚を持たないために、外界認識の過ちを犯してしまう。しかし、逆に視聴覚的人間は、視覚に頼りすぎるため、誤解をしてしまう。失われた目…。現代の映像の政治、経済、社会の場の中で、果たしている役割を問い返す時、その問題の深さが見えてくる。思い描かれたイメージが実は作り出されたものであるということを忘れてはならない。
審査評 選:飯沢 耕太郎
コンセプトをきちんと定め、時間をかけた力作。額や並べ方も含めて、計算がきちっと行き届いていて気持ちが良い。地下鉄の乗客というテーマはそれほど新しいものではない(ウォーカー・エヴァンスがすでに1930年代に試みている)が、東京の乗客はまた違った意味での面白さがある。眠りに落ちた人の顔を眺めていると、死者のイメージが二重写しになってくる。東京の世紀末の風景として、非常に象徴的な写真シリーズといえるだろう。人間の存在の意味をこれからも問い続けていってほしい。
PROFILE