1995優秀賞
ARTIST STATEMENT
ははのひきだし
母の引き出しの中でへんなものを見つけた。私と弟のヘソの緒だった。母親ってこういうものを大切にとっておくんだ。もっとへんなものが出てくるかもしれないぞ、と思ったのが、母のひきだしを撮り始めたきっかけ。こんなもの捨てちゃえばっていうもの、懐かしいもの、泣けてきちゃうもの、いろいろ出てきた。きっとどんな母親も同じようなものを引き出しの中に持っているのだろう。今回の写真から一般的な“母親”の姿が見えてくればいいなと思った。私の写真に協力してくれた母に大感謝、ありがとうございました。
審査評 選:荒木 経惟
明快なコンセプトがあり、集中力があり、全体のまとまりがある。写っているひとつひとつの細かな事物が、それぞれ“母”の長い人生を物語っている。そこには誕生や死や希望や愛情のさまざまな痕跡が認められ、あたかも小説を読むかのようである。しかし、その人生は決して英雄の偉大な生涯ではなく、一意の個人のつつましく、切実なそれである。そこに現実に根ざしたこの作品の重さがある。さらに言えば、そのような密度をもっているにも関わらず、この作品には演歌的な暗さがなく、むしろ戦後の日本を力強く生きた日本人女性の豊かな生を感じさせるところがあることを高く評価したい。
PROFILE