1996優秀賞
ARTIST STATEMENT
Happiness Self Portrait 1996
まず、お仕事ではないので、撮りたくない日は絶対に撮りません。
撮るときは特にテーマを決めずに撮りたいだけ撮ります。
一番気を使うのはできあがってきたモノの中で何を選ぶか、そしてどのような順番でどのように組み合わせるかということです。
ある程度できあがったものをいかによく見せるか、私の場合そちらのほうにかける時間や手間が実際に撮る時よりも多いようです。
おなかがすいたらこはんを食べるように、眠くなったらベットに入るように、好きな人ができたらずっとその人と一緒にいたくなるように、私にとってセルフポートレートを撮るということは、人が自然に要求するそういった欲望と同一線上にあります。
密閉された空間でカメラと私だけで写真を撮っていると、私はまるで自分のなかを旅しているような気分になったりします。
カメラは私を四畳半のそこらじゅうに、脱ぎ捨てた服があるような部屋から、とてつもない広がりをみせる非日常の世界へと簡単に誘ってくれるのです。
お天気のいい日に、ひとりで三脚をたててぼ一っと写真を撮る。
こんなにゆったりとした贅沢な時間をもて、そして私のそういった日常を今回評価していただいて、私は今ほんとにHappinessです。
審査評 選:飯沢 耕太郎
蜷川実花さんの作品は最近いろいろな審査の機会に見ることが多いのだが、モノクロからカラーコピーを使った作品に変わったことで、その才能が完全に開花したように感じる。グラフィック的に処理された色彩とフォルムが、写真特有のなまなましい現実感と衝突して、画面全体にハレーションがかったようなトリップ状態を生み出している。それに加えて今回の作品では、自分自身と身の回りのモノを、軽やかに拾い集めて再構成していく彼女のイメージ編集の能力がよく発揮されていた。写真の中でのパフォーマンスにまったく無理がない。その天性の演劇的才能が、より緻密な人間観察と結びついていけば、これまでになかった新しいタイプの写真家として伸びていく可能性がある。
PROFILE
蜷川 実花Mika Ninagawa
写真家、映画監督
1996年写真新世紀[第13回公募]優秀賞(飯沢 耕太郎 選)をはじめ、木村伊兵衛写真賞(2000年)ほか数々受賞。
映画『さくらん』(2007)、『ヘルタースケルター』(2012)監督。映像作品も多く手がける。2008年、「蜷川実花展」が全国の美術館を巡回。2010年、Rizzoli N.Y.から写真集を出版、世界各国で話題に。2016年、台湾の現代美術館(MOCA Taipei)にて大規模な個展を開催し、同館の動員記録を大きく更新した。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事就任。
http://www.ninamika.com/