1996優秀賞
ARTIST STATEMENT
The Wrong People
ドキュメンタリー写真家として最近一番気になるのは、被写体の声である。フォトジャーナリズム界では、複雑な問題や争点を説明するのに、ほんの2・3点の手短な画像で済ませてしまおうとする事が、あまりにも多い。それに大抵、記録者本人と言えども部外者にすぎず、被写体のことなど実際は何もしりやしない、という始末だ。僕がこの「The Wrong People」で貫いてきたのは、懇意になる、というやり方だ。三年以上の間、被写体にインタビューしたり、彼らの人生の一部となるように、あらゆる努力を重ね続けてきた。麻薬の売人と一緒にビーチをうろつくにせよ、お茶の間ドラマを観たり車の話をして晩を過ごすにせよ、そういったことは皆、被写体の苦境を伝えたい、という衝動を強く駆り立ててくれるのだ。結局、これは僕にとって、融合のプロジェクトだと思える。この内の何人かとは本当に親しくなり、或る意味では僕も彼らに同化していしまったといえる程だ。この作品を見る人達にも、写真という言語を通して、彼らの人生をもっと深くわかってもらえるように望む次第である。
審査評 選:荒木 経惟
ちゃんと肖像とれるのがいいですね。きちんと撮れています。いい加減風で、さらっと撮っているようだけれどもね、絶妙のフレーミングです。それと、相手との「時」を持っているでしょ。時間があります。今、パーっと通りすがりを撮るというのが、かっこいいじゃない。「束の間」というのが流行っているし。そういうのがあるし、束の間じゃなくて、もうちょっと時間が空いてるような時をもってるんですよ。それに呼応して、空間のフレーミングも「時」のフレーミングもいい。コメントを読まなくても、それぞれの持っている人生がここに写っている。
PROFILE