1997優秀賞
ARTIST STATEMENT
茶の間にアート(Living Room Art)
普段は美術館やギャラリーで目にする現代美術の作品を、「私の家=ありふれた日常生活の場」で鑑賞した。一日だけ我が家に設置して作家と共に楽しみながら撮影をするなんて、ずいぶん贅沢な行為だと思う。作品を置いただけで、子供達が勝手に遊び道具にしたり、私の強い指示に基づいてすすめたもの、時間が無くてやっと撮影だけ出来たもの、いくつかのパターンがあるが、すべて楽しかった。一番の困難はイメージにあう作品&作家になかなか出会えないことで、5人の作家と6回のコラボレーション実現に5年かかってしまった。それ故に子供は育ち、部屋も変化し、当初目指した「面白くて迫力ある画像」以外の別の意味も帯びる結果になった。また、5人の作家もそれぞれ活躍中である。私はここ数年モノクロームのファインプリントを追及してきたが、その反動か「茶の間にアート」は「大きな画像作り」がテーマだった。写真のプリントは幅1mが限界で、せっかくの美しいプリントを貼り合わせる事には抵抗を感じた。結局Macintosh+カラープリンタでA4のプリントを沢山貼り合わせる試みをした。拡大するにしたがって粒子が荒れる写真に対し、1インチ当りのドット数が常に同じのカラープリンタは、拡大した場合の画像の荒れが予想以上に少ない事が発見だった。さらに枚数を増やせば実物大も可能だし、違うタイプのプリンタを使用する事で写真に近い表現もできるだろう。
審査評 選:南條 史生
アーティストを撮った写真は他にもあったが、この作品は、アートとアーティストを日常的な状況の中に置くことによってユニークな世界を開いている。写っているアーティストの人柄が面白い。中に置かれた作品もギャラリーの中に置かれたのとは違う味や意味を帯びているように見える。応募作品の大きさも評価にはプラスになった。小さな家の中以上に大きな作品が、感覚的に良く伝わってくる。全体的に遊びの感覚と、こともなげな日常性が、シュールな情景として表出されている。暗い雰囲気の作品が多い中でそのポジティブな感じが印象に残った。アーティストも、現代美術界で名の知れ始めた人達で、それを知っている人から見ると“今”を感じさせる。但し、カラーコピーなので色がくすんでいる。印画紙で焼いたらまた違って見えるのではないか。それを見てみたいという気持ちはある。また、連作のうち一点だけモノクロであることの必然性が感じられなかった。この路線でもっと沢山撮って一冊の写真集にしたらどうかと思う。
PROFILE