1999優秀賞
ARTIST STATEMENT
眠れる部屋
私にとってカメラは、物の表面をきれいに剥ぎ取る装置です。私達人間も、植物も、高くそびえ立つ建物も、みな同じように写します。そこに写し出された世界は、何の差もなく、すべて等価で、無機質なつくりもの=殻のように見えます。私達の生きている世界は、もしかすると、ただただ薄い膜のようなものなのかとさえ思います。この「眠れる部屋」では、身体の殻化を行います。かつて、私達の形が切り取られ、身体の形は、衣服へ、座る形は椅子へ、眠る形はベッドへと変換されたように、今度は、殻として定着させ、身体へと戻します。真っ白な部屋の中には、身体の表皮がプリントされた、衣服のようなもの、クッションのようなもの、ソファのようなもが並びます。殻になった身体は、幸せそうに、スヤスヤと眠ります。しかし、「眠れる部屋」の身体は、このままずっと目を閉じたまま、動くことも、話すこともないのかもしれません。
審査評 選:南條 史生
写真の公募で、インスタレーションが勝っている作品を強く推すのは、いつも不安がある。写真として意味があるのかという疑問がつきまとうからだ。しかし、今回の作品には、今、ここで評価する必然性がある。それは、人体というナマナマしくグロテスクで重い主体を、透明で軽く、実物大の空気の上のイメージとして提示するということが、時代感覚と呼応しているからだ。建築も、ファッションも、コンピューターも透明で軽くなっていく。このインスタレーションは大阪で発表した作品の発展したものだが、出品された模型(モデル)は、アクリルケースと作品のミニチュアから構成されて、空間全体が透明感で貫かれている。イメージが氾濫する時代に、イメージはあらゆるものの上に投写されていく。
PROFILE