2000グランプリ
ARTIST STATEMENT
海からの贈り物
買い物の帰りに見上げていた夕空。雲がゆっくり動いて形を変える。それはまるで、子宮の中を見ているよう。満月の日は出産率が高いという。満月が赤ん坊を引っ張ってくれるのだろうか。そういえば羊水と海水は同じような成分で出来ているという。そうか、私の体の中に海があるんだ。出産が近づくにつれて、自分も自然の一部なのだと今まで以上に感じるようになりました。そんな自らの妊娠、出産の体験から生まれたひとつのイメージを表現してみました。自分の身体から新しい生命が誕生する瞬間はぜひ撮りたかったので、胸の上に一眼レフを置いて出産に臨みました。が、撮影することに気をとられているせいか、いきんでもいきんでも赤ん坊はなかなか出てこない。赤ちゃんの命が何よりも大切!と、写真のことは忘れ生むことに全てをかけることにする。さて、いよいよ「出てくるよ。」と先生。それまで体の中をオノで叩かれている様な激痛に苦悶していた私はカメラをつかみ股間にピントを合わせると、にょろんと出てきた赤ん坊をカシャ。体が出たところでフィルムが終ってしまい、夫に「フィルム交換!」医師に「そのまま動かないで下さい!」と叫んでいる私がいたのでした。
審査評 選:荒木 経惟
「海からの贈り物」というタイトルからしても、すごく上品な素晴らしい作品ですね。品がありますよ。ストーン、ストーンって、潔くカメラを撮っている感じがこちら側にも伝わってくるでしょう。そのシャッター音が、尾を引きながら作り上げていったドラマチックな世界が作品から溢れ出てきます。色もモノクロームとカラーの間を行ったり来たりしていて、こいつは出来る奴だなっという感じを受けます。品と写真を撮る技術、そしてこのシチュエーションに周囲を巻き込んでいった人間性という意味でも別格です。これからは、おじいちゃん、おばあちゃんの時代から、赤ちゃんの時代かな。この中では、お腹が大きい作品が、一番好きですよ。俺の場合は、お腹大きいのを縛っちゃうんだよ。それが悪いんだね(笑)。
PROFILE
中村 ハルコHaruko Nakamura
写真家:1962~2005年
中学時代に好きな人の魅力的な一瞬、表情をとらえたいと写真を始める。
1984年 | 日本大学芸術学部写真学科卒業後フリーとなり、 東アフリカのタンザニアに半年滞在して、現地の子どもたちを取材する。 |
1993年 | イタリアトスカーナ地方の風景に魅せられ撮影開始(『光の音』制作スタ-ト) |
2000年 | 写真新世紀[第21回公募]優秀賞受賞(選:荒木経惟) 「写真新世紀展2000」年間グランプリ受賞 |
2001年 | 宮城県芸術選奨芸術選奨新人賞受賞 |
書籍
- 『タンザニア―サバンナの小さな王様ラジャブ (世界の子どもたち)』(1989年、偕成社)
- 『光の音』(2008年、フォルマーレ・ラ・ルーチェ)
個展
- 「海からの贈り物/The Gift from the Sea」(2013年、ギャラリー古民家嶋屋、直島)
- 「海からの贈り物」(2014年、あべのま、大阪)
- 「光の音」(2022年、GOOD NATURE STATION、京都)
- 「光の音Part2-echo」(2022年7月 カスヤの森現代美術館、横須賀)
グループ展
- 「日本の新進作家展vol.9 [かがやきの瞬間] ニュー・スナップショット」(2010~2011年、東京都写真美術館)
- 「総合開館20周年記念 TOPコレクション[コミュニケーションと孤独]平成をスクロールする 夏期」(2017年、東京都写真美術館)