2000特別賞
ARTIST STATEMENT
ID400
私のデビュー作と呼ばれているシリーズで、大学の卒業制作の作品として「変わらないはずの内面と簡単に変わる外見」というコンセプトで作りました。神戸地下鉄沿線上にある立体駐車場の中にある自動証明写真機をスタジオ代わりに400回変装して撮影しています。まるで私の為に作られたかの様に、そのスタジオのななめ前には偶然にもトイレがありました。多い時には10人~20人分の変装道具を持っていき、終電ギリギリまで変装し続けました。トイレなので、当然他の方も使われます。作品はモノクロなのであまりわかりませんが、実際メイクした顔はとても正常な人には見えず、ある時は子供が入ってきて私を見るなり固まってしまったり、またある時は若い女性が入ってきたかと思うと見てはいけないものを見てしまったという顔ですぐ出て行ったりと、知らない人を恐怖に陥れてしましいました。駐車場の警備員の方にもかなり怪しまれていたようで、通報されるのではないかと心配でした。撮影中にお会いした皆様いろいろとごめんなさい。
この《ID400》の中に《SKIN HEAD》も含まれ、《SKIN HEAD》は400 枚の写真を撮り終えた後で髪を自分で剃り、ノーメイクで撮影しています。時間が経つほど《SKINHEAD》が自分の全てのシリーズにつながる重要な作品なのではと感じています。この頃から私の大きなテーマは変わっていません。外見と内面の関係について切り口(コンセプト)を変えて作品を作り続けています。学生の時、展覧会場に坊主頭の私がいても写真の400人が全て私だと気がつく人は全体の2割程度でした。このことが私にもっと外見と内面の関係に興味を抱かせました。
審査評 選:横尾 忠則
この作品は、多面的な自己というものがすごくあって、それが複雑化し増殖化していくという、単純にそういう驚きみたいなものがあります。僕は男性だから、男性として驚いているのかもしれないけれども、やっぱり女性の方が表現が豊かですね。絵画表現というか芸術表現というのは、内にこもったものを吐き出していくという部分があります。今回のこの作品が一番おもしろいと思ったのは、コンセプチュアルな方法を用いて撮りながら、直感的、感情的、生理的、そういったものを付け加えていて、そんなに堅苦しくなく見ることができる点が良かったと思います。この作品を、もし男性がやればこんな風にならないと思います。これを見るとやっぱり女性は圧倒的に元気ですよ。
PROFILE
澤田 知子Tomoko Sawada
1977年神戸市生まれ。成安造形大学写真クラス研究生を修了、現在は同大学客員教授であり関西学院大学の非常勤講師も勤める。キャノン写真新世紀の審査員、木村伊兵衛写真賞の選考委員をはじめ海外でも審査員として写真に関わっている。
学生の頃よりセルフポートレイトの手法を使い作品を通して内面と外見の関係性をテーマに作品を展開している。デビュー作「ID400」が2000年度キヤノン写真新世紀優秀賞、2004年に木村伊兵衛写真賞、NY国際写真センターThe Twentieth Annual ICP InfinityAward for Young Photographerなど受賞多数。国内だけでなくニューヨーク、ロサンジェルス、ベルギー、パリ、ウィーンなど世界中で展覧会を開催。出版物は、写真集の他に絵本もある
ID400 © Tomoko Sawada, courtesy MEM, Tokyo