2000特別賞
ARTIST STATEMENT
卑劣に、政治的に
「制作」に苦労したことはありません。僕の職場の人たちは、皆パチンコやらマージャンやら風俗やら競馬やらが好きです。僕はどれも好きではありません。彼らがパチンコに必死になっている時間に、写真をいじったり、ホームページをいじったりします。彼らにとって「風俗」へ行くのが愉しみであるように、僕にとって「制作」することは愉しみです。だから苦労とは無縁です。とにかく辛いのは、「制作」が出来ない時間です。「生き抜く」ためには「金を稼ぐ」ことが不可欠です。この「金を稼ぐ」時間が苦痛以外のなにものでもありません。そして、その「苦痛」をやり過ごすために「制作」へ向かいます。僕にとって写真とは『防護スーツ』のようなものです。
「ここにヌメヌメとグロテスクな怪物がいる。地球の環境は怪物の生存に適さない。怪物を地球で飼育するためには、特殊な『防護スーツ』が必要だ。その『防護スーツ』さえ着せておけば生き続ける。しかし、そのスーツなしではジュージューと煙をたて、ドロドロと外皮を溶かして死んでしまう。『防護スーツ』があればなんとか生き続ける。」
僕にとって写真とは、この「防護スーツ」のようなものです。外形を保っておくために不可欠な装備です。なしでは、人間として形を保っていられなくなるでしょう。パーになるか、衝動的な暴行に走るか、自殺するか・・・。人間として形を保ち、いやいやながらも生き抜くための装備です。
審査評 選:南條 史生
これまでにないインテレクチュアルなアプローチです。アート史上にはすでに、この手のコンセプチュアル・アートは60年代からあるとはいえ、写真の世界には少ない。それから、タイトルも悪くない。これはヴィリリオの「速度と政治」あたりとの関係を想起させる。中の引用は、全体を見るとバランスがいいとは言えないけど、なかなか渋い。ジャン・ジュネの「花のノートルダム」、永井陽之介、ウエーバーなどなど。最初のページが菅木志雄の言葉というのも泣かせる。で、イメージはというと、それと関連があるのかないのかわからない。あるといえばある。なんか、政治の暴力性が見える、ブリュタールなものも多い。鳥の死体、むごたらしく中身が破れ出している。それから、牛丼、スパゲッティ、卵焼きのアップ。卵焼きはとても食べ物には見えない。敢えて言わせてもらえば、鳥の死体とつながって見える。それから電柱にかかれた落書き「死ね、学校くるな」という文字、その次がマネキンの首、それから、エロ漫画、そして青空、それからトロッキーの引用、そして本のページのアップ。最後は、たぶんレーニンのデスマスクの上に、「夢見ることが、肝要である」という文字。これが最終ページ。これはやっぱり琴線に触れます。たとえ、これが立派な戦略の上に築かれた罠だとしても、その罠に落ちてみましょう、という気になる。まぁ、こういうのは、アラーキーは作りすぎ、文字なんか入ってるのは認めないっていうだろうけど、でもこういうのもないとね。荒木さんだって、若い頃相当、現代美術のボキャブラリーを試してる。その結果今があるわけだから。山田さんも、いつかコンセプチュアルなアプローチは通り抜けてエロスにいきつくはず、なんて言う気はないけれど。これはこれで立派に、最後まで、死ぬまでこの路線で押していってほしい。
PROFILE