2000優秀賞
ARTIST STATEMENT
enlarged portrait
これらの画像はここ数年間の写真から一部分の人間を拡大したものです。撮影主体を超えたところで写真が発生していくような操作不能な感覚は、写真のある属性を新たに実感させられるものであり、結果的には、画像自体を物語に帰結させる短絡的な解釈の掏り替えといった限定要素を回避するものでもありました。具体的な意図の表明とその普遍化という構造や線形的認識とは程遠いものですが、最終的には、工程に対する意味の付加や主体の画像からの乖離という前提以上に、なお残る画像群が、ある現実性を持ち得ていればと思います。
写真に関して断定する事は出来ませんが、私個人にとっての魅力は一貫して、直接的に世界に対峙した上で、あくまでも(現実性という)リアリティーを不在の現実と断絶した形で体現するメディアであるということに尽きるのではないかと思っています。“世界の外観に関しては万人が既に知りすぎるほど知ってしまった”という発言後、Lewis Baltzが示唆するように。
審査評 選:倉石 信乃
自分が過去に撮った写真に小さく写っていた人物を大きく引き伸ばした作品で、ほとんどの被写体は撮影をたぶん意識していません。他の公募作品では、恋人や配偶者や友人を撮った日常のポートレイトが多く散見されましたが、大半が撮る側と撮られる側の、事前の了解や視線の妥協によって成立しており、予定調和を感じさせます。鈴木作品では、撮影者と被写体双方の人間的関心が希薄で、最初のプリント段階でも被写体はいったん背景に退いていた。幾重にも無関心な、忘れられた存在である「他者」の異質性が、事後の発見によってひき出される。背景が前景になり「脇役」が拡大されることは、写真のヒエラルキーの強引な転倒として、単純すぎるだけ効果的です。この程度の作為は、「写真」の「新世紀」には必要でしょう。この作品は公共空間内での「他者」を捉え直す90年代的な写真の動向に合致していて、類例も指摘できますが、日本では貴重な試みです。
PROFILE