2001優秀賞
ARTIST STATEMENT
CONTACT ME
遥か宇宙の彼方から、ずっと我々を魅了し続け、遂には愛する地球から遠く導いたあの月の輝きのことを、新世紀を迎えた今、改めて想う。
我々は、人類がかつて直面したことのない大変革期の只中にあり、その急激な科学の進歩に未だ精神面は追い付いていない。選ばれたものだけでなく、誰もが宇宙に旅立つことが可能になると予感させる新世紀。そして、宇宙には我々の想像を遥かに超えるものが待ち受けているであろう。もはや予測不可能であり、そのような高度な文明に見合う強靭な精神力を各々が育てあげなければならない。そして、現在、その鋭敏な感性で時代を捕らえる若い世代を中心に、自己表現の一つとして、写真を撮るという行為が日常的に多くなされていることは、非常に興味深い現象であると思う。
ある意志を強く持って、写真を撮り続けていると、どんなことも、偶然としか思えないようなことまでもが、実は自分が呼び起こした必然なのではないかと思えるようになってくる。私は、船の仕事を辞めてから、ジョルダンという国にあるワディラムという砂漠(別名を「月の砂漠」ともいう)に強く魅せられ、単独でベトウィン(遊牧民)のテントに滞在し写真を撮っていたが、その時から、痛切にそれを感じるようになった。そして、今回、突如自分の内に沸き起こった、春の募集に応募するのだ(夏に応募することを予定していた)という強い衝動に従い制作した私の初作品となる「CONTACT ME」が、このような素晴らしい賞を頂けたことにより、私の考えは確信に変わった。
私はこの作品で、新世紀こそ写真新世紀の真の幕開けであることを示唆したい。写真には月の輝きにも似た心の強さが顕れると信じているからだ。
審査評 選:南條 史生
これは他の作品と全然違って空気が違いますね。写真新世紀のほとんどの応募作品は、どちらかというと私生活的なものや日常、エブリディなど普通の人々や身の回りを撮っているんだけれども、これは全然違います。かといってインドなどいろんなところを旅して撮ると観光写真的なカラフルな市場の写真とかそういうものになりがちになる。でもこれはものすごく広大な空間、広がり、長い時間の流れとか、それから変化していく天空の光を感じさせます。また一方では、湾岸戦争の歴史とか、古いアラブの街とかそういうものがない交ぜになって我々の知らない世界を垣間見させてくれる。世界の多様性を見させてくれる。で、そこと我々が繋がっている感じがある。写真新世紀がそこと繋がっているんだ。というような効果、これを感じさせてくれた点で非常にユニークだという風に思っています。
PROFILE