2007準グランプリ
ARTIST STATEMENT
喪 失 メ ト ロ ノ ー ム
自分はいつの間にか忘れていくのに、相手にはいつまでも自分のことを覚えていてもらいたいからなんて、そんな矛盾で撮っていた。友達が死ぬまで、彼が生きているという実感が無かった。僕の乗った一つ先を走る電車が脱線してマンションに突っ込んだ時、あ、自分以外の誰かも生きているんだと思い出した。個々の脈拍とのズレを知ってしまった。
でも、僕がシャッターを押したい瞬間に、相手が目を閉じてしまったのなら、僕は相手が目を開く次の瞬間まで、ただシャッターを押し続ければいいだけだ。昨日愛した人を、いづれは忘れ、そして忘れられてしまうであろう僕は、失う事を受け入れながら、そのズレさえも愛せばいい。
僕が撮りたいのは、今「見た」景色なんかじゃ無い。僕が撮りたいのは自分がこれから「見たい」景色。全てはいつか消えていく。だから僕は写真で誰かと日常を作っていく。
応募作品形態:インクジェットプリント(A3サイズ)58点
審査評 選:飯沢 耕太郎
構成の仕方などにはまだ物足りない部分もありますが、モノの見方や切り取り方には、他の人が真似できない天性のものがあるように思います。特に、同性である男の子を見る目は、クールでありつつも感情的なものがぐっと入ってきていてユニークです。共感のレベルが高いというか。
画面を単純化する能力にも長けていますね。若い人だと、つい何でもかんでも画面に盛り込んでしまいがちです。でもこの作家は、言いたいことをうまく絞り込んで、ノイズを最小限に抑える方法を知っている。しかもそれが的確です。
写真の並べ方が少しぶつ切りになり過ぎていたりもしますが、展示をするときなどはもう一度しっかり練り直せばいい。大いに将来性を感じさせると思います。
PROFILE
中島 大輔Daisuke Nakashima
1983年 | 大阪府生まれ。大学で認知心理学を学び、同時に専門学校で撮影技術を学ぶ。 |
2007年 | 写真新世紀[第30回公募]優秀賞(飯沢耕太郎 選)、「写真新世紀東京展2007」準グランプリ |
2008年 | ビジュアルアーツフォトアワード大賞受賞、写真集『each other』(青幻舎 2008)刊行 |
主な個展
「each other」(Visual Arts Gallery Tokyo 2008 東京)
「イメージの感触 | taken with iPhone」(伊藤忠青山アートスクエア 2016 東京)
主な企画展・グループ展
「最近のこと」(成山画廊 2009 東京)
「Internalized World: Contemporary Japanese Photography」(Vilnius Graphic Art Centre’s gallery 2011 リトアニア)
清水穰企画による「showcase #1」(eN arts 2012 京都)、「showcase #4」(eN arts 2015 京都)
ほか多数