2007準グランプリ
ARTIST STATEMENT
二重性活
写真新世紀の公募を知ったのは、銀行員を辞めて一眼レフカメラを買い、被写体を求めて歩き回っていた私が奈々子さんに出会った頃だったと思います。
あるいは、何度か奈々子さんの撮影をして、なにか形に残したいと思い始めた頃だったかもしれません。
奈々子さんは体は男性で、心は女性。
今よりもそのことが理解されづらかった世の中で、68年の間男性として生きていました。結婚して子供を立派に育て、鉄道職員として働きながら、仕事の後に女装に着替えて小料理屋で働く時が本当の性でいられる時間でした。
好奇心のままにカメラを向ける私に対して奈々子さんはとてもオープンでした。「家族や親戚は女だって知らないけど、いいわよ、応募してみなさいよ。本当はいっそのことバレちゃえばいいと思ってるのよ。」
審査会で選んでくださった荒木経惟さんと奈々子さんは偶然にも同じお歳です。「こんな父ちゃんとなら、一緒にビールを飲みたくなるでしょう。これぐらいに濃い人生を写してこそ、ぐっと迫ってくるものになるんです。」とおっしゃったのをよく覚えてます。
ちゃんと相手と向き合った写真だけをできるだけ大きく引き伸ばして見てみたらいい、というアドバイスの通り、男装の時と女装の時のこの二枚の写真を大きく並べて展示しました。
応募作品形態:ブック A4 PICTRAN 15点(表紙別)
審査評 選:荒木 経惟
写真としての力もあるけど、何よりも被写体の存在感が抜群なんですよ。こんな父ちゃんとなら、一緒にビールを飲みたくなるでしょう。
これぐらいに濃い人生を写してこそ、ぐっと迫ってくるものになるんです。こういう写真を見ていたら、別に最近の流行がどうしたこうしたなんてことは、関係なくなってしまう。やっぱり、自分の目の前にあるコトやモノをちゃんと見つめる。それしか方法なんてないことがよく分かりますよ。
ただ、ブックの中には、つまらない写真もけっこう混ざっていると思う。そのあたりで、せっかくの勢いが削がれちゃっています。余計なものは思いきって取り払って、ちゃんと相手と向き合った写真だけを、できるだけ大きく引き伸ばして見てみたいという気がしますよ。
PROFILE
黒澤 めぐみMegumi Kurosawa
1982年 | 東京都生まれ |
2005年 | 大妻女子大学家政学部児童学科卒業 |
2006年 | 銀行員を経て写真家として活動開始 |
2007年 | 「二重性活」でキヤノン写真新世紀準グランプリ受賞(荒木経惟 選) |
2008年 | 個展「二重性活」 GALLERY ILLUM ソウルにて |
写真集「猫のいる場所」
連載 週刊新潮 宝酒造「焼酎で行こう‼︎」
出演者 BS-TBS「湯のまち放浪記」他