2007優秀賞
ARTIST STATEMENT
さよならリアル・ワールド
現実とは一体何なのか。リアルであればあるほどリアルから遠ざかる。散々言い尽くされたことであろうが、僕が写真を撮るときそしてそれを見るとき、いつもその問いが頭をよぎり、この深淵とも言うべき現実という名の底なし沼の、その深さにたじろぐばかりなのである。だがしかしあまり深く考えてもしょうがないのも事実である。何故なら写真は僕の中途半端な思考なんかを百億光年ほども越えたところに存在しうるポテンシャルを常に秘めているし、僕が表現したいことがもしあるとするならばそういう何かを超越したものであるからだ。
そう、僕は機械のように撮ることしかできないしそれで良いと思っている。誰が撮っても同じような写真だからこそ現実の四次元的な深みが感じられる。僕は無名性の向こうがわにある何かを求める。そして写真は一人歩きし、世界のあらゆる記憶とリンクする可能性を示唆する。それはきっと「写真でしかできないことはなんだろう」の問いに答えるものであるはずだと僕は信じている。
応募作品形態:ブック形式(美術製本) A3カラーインクジェットプリント154点(表紙別)
審査評 選:具 本昌
平凡な日常を撮っている作品ではありますが、瞬間、瞬間をしっかり押さえて、固定していく能力を備えていると思います。ここに写っているものは、現実でよく見かけるものばかりかもしれません。でも、この作者がフレームに収めることで、詩的なものになったり、また、非現実的なものに思えてきたりと、色々な表情が出てくる。何気ない世界が、見る側に強く訴えかける力を備えるものへと変わっています。
プリントの完成度が高いし、ブックの構成や、見開きごとの配置なども、とても良いものがあります。色使いやコンビネーションがうまく成功していて、その確かな「目」には感心します。
作品の量がたっぷりあって、めくっていると強いエネルギーを感じます。普段見慣れてしまった現実を、新しいものにして見せてくれています。
PROFILE
田福 敏史Toshifumi Tafuku
1979年 | 広島県生まれ。 |
2005年 | 写真新世紀 佳作・奨励賞(森山大道選)。 カラーイメージングコンテスト 入選。 |
2006年 | 神戸芸術工科大学芸術工学部視覚情報デザイン学科卒業。 |
現在東京都在住。ホームページ:http://toshifumitafuku.net/