2008優秀賞
ARTIST STATEMENT
zoe ゾーエー
長年、母方の実家である北海道の酪農一家の写真を撮り続けるなかで、「牛の存在」について思いをめぐらせるようになりました。「牛は何のために生きているのだろう?」。牛乳を採られ、食肉にされるだけの存在。「牛たちにとっての“生”とはいったい何だろう?」そんな素朴な思いから、もう一つの牛の運命でもある「食肉処理場」を撮ってみようと思い立ちました。
実際に「食肉処理場」を訪れてみると、まず私たちを襲ってくるのは、「悲鳴」と「血の臭い」です。そしてもう一つ印象深いのが、徹底的に機械化され、効率化された解体プロセスです。「悲鳴・臭い」と見事なまでに制御・管理された処理プロセス。そのギャップが食べられる動物たちの生の呻き、軋み、震えのように感じました。「食べられる動物たち」の剥き出しにされた”生”。
これは友人から聞いた話ですが、古代ギリシアでは、“生”を表わす言葉に「ゾーエー」と「ビオス」という二つの言葉があったそうです。「ゾーエー」はあらゆる生き物に共通な“生”。「ビオス」は人間の生に固有な社会化された“生”。人間以外の生物が自然との直接的な“生”を生きているとすれば、人間は社会化された“生”を媒介に生きています。「ゾーエー」と「ビオス」。私たち現代社会もまた、「食べられる動物たち」の“生”が管理されるように、必要以上に「ゾーエー」が「ビオス」によって制御されている気がします。
応募作品形態:ブック形式 A3 横
審査評 選:飯沢 耕太郎
今までの彼女が撮っていた被写体のスケールを壊そうとしている、出て行こうとしているエネルギーを感じました。ブックの作りも、編集的にとてもよく考えられています。インパクトの強い作品なので、見る者に驚きを与えるだけにならないクールな展示が求められます。血なまぐさいシーンを見せてもなお、考えさせる余地をきちんと残す、微妙なさじ加減が必要。彼女が作家として成長していく中で、くぐり抜けなくてはいけないところですね。今は日本の作家達も国際的な舞台でどんどん活躍している時代だから、やれるだけやってもらおうという期待も込めて選びました。
PROFILE
元木 みゆきMiyuki Motoki
1981年 千葉県生まれ | |
2005年 | 東京造形大学デザイン学部デザイン学科視覚伝達専攻卒業 |
現在、東京芸術大学大学院美術研究科先端芸術表現に在学中 | |
2003年 | 第21回ひとつぼ展入選 |
2004年 | 第22回ひとつぼ展グランプリ受賞 |
2007年 | 第32回三木淳賞奨励賞受賞 |
2008年 | 第8回さがみはら写真新人奨励賞受賞 |