2012グランプリ
ARTIST STATEMENT
世界するもの
写真という行為によって、日常の現実とは違う世界が立ち上がる。どこからも隔絶されているようで、どことでも繋がっている世界。人、もの、風景、現象、出来事が、空っぽを帯びて別の存在のようなあり方でそこにあらわれる。今、ここの絶対的な瞬間を捉まえようとするのではなく、「見つけてしまったそこ」をぼやっとした長さの時間で見ていると、対象へと向かう感覚が次第に薄れてしまい、見るということが宙吊りになっていく。「そこにあること」以上でも以下でもないものを前に、焦点を測りあぐねて意識が行き来するうちに、私と対象が混じり合う中間の場のようなものが発生し、視覚が目の奥へと引っ込んで頭の後ろから眺めているような、そこから見ている自分がいなくなるような感じがしてくる。写真を媒介として自分の世界を表現したいのではない。自分を媒介として『世界するもの』があらわれてくるのを待っているのだ。
応募作品形態:ファイル/大四切/カラープリント/58点
審査評 選:清水 穣
写真としてオーソドックスに優れているものを優秀賞にしました。タイトルは「Die Welt weltet」というハイデガーの言葉だと思いますが、世界が励起してくる瞬間を写真で表現するというコンセプトがあるわけです。世界は単に静的に存在しているのではなく、「存在する」という動詞的な出来事なのだ、と。その瞬間とは、隙間からあるものが覗いていたり、見えていなかったものが存在を主張してくる瞬間であり、日常が動詞的な有り様へと転変する、その契機です。さらに存在感のある男性、正面から捉えた女性の肖像などがうまく区切りとして挿入され、写真集としても強い印象を残します。世界が通常の意味関連から脱落し「世界する」という事件として立ち上がってきたイメージを定着させるという、写真の基本の在り方を、うまく結実させているように感じました。よく対象を見て、力まずうまく写真として成立させていて、新しい才能の閃きと言うよりは、派手さはないけれども実力があるなという感じ。オーソドックスだけど、なかなかありません。
PROFILE
原田 要介Yosuke Harada
1982年 | 佐賀県生まれ |
2007年 | 多摩美術大学美術学部 グラフィックデザイン学科卒業 |
2012年 | 2012年度写真新世紀[第35回公募]グランプリ受賞 |