2012優秀賞
ARTIST STATEMENT
樹々万葉(きぎのよろずは)
「日本人らしい和の表現を内包する写真作品を作ってみたい」
そう思ったのが最初のきっかけです。
実現するにあたり『日本人の美意識の視覚化』をテーマに創作をはじめました。
本作において樹木を被写体としたのは、樹木の剪定を通した、人と自然との共存共栄の関係性から生まれる調和のとれた美しさが日本人の美意識の視覚化につながることを予感できたからです。
剪定された樹木が被写体ということから、街路樹や寺社仏閣、植物園など人の生活環境に植樹された樹木のみを撮影しています。
私が生まれ育った京都では、春に桜の開花状況を共有し、初夏の色鮮やかな新緑に活力をもらい、秋になると紅葉の色づき具合を例年と比較します。
そして、冬から春にかけての樹木の変化に時の流れを感じることが日常であったりと、樹木は、非常に身近な存在でもあります。
表現手法としては、樹木が表現する幾何学的な形容の中に見られる「力強さ」「可憐さ」「儚さ」、季節を通して廻る命の「美しさ」の中に潜む侘び寂びの精神に通じる光景において、余白の美学を意識した構図での切り取りが特徴です。
このような手法に至った理由は、生まれ育った京都という土地柄が強く影響していると考察しています。
近代の大きな戦火を逃れ、1000年以上の歴史を持つ京都では、古来より育まれて来た日本特有の思想から生まれた表現が身近にあり、そういった表現に見受けられる空白、想像を静かに膨らます無の空間である独特の「間」に対して慣れ親しんでいました。
私が普段から樹木を見る時、周りの空間を意識していることにインスピレーションを受けて、この感覚が自身の思考を作品に投影する手段としても最適と考えました。
「間」を表現する空白部分において、印画紙自体から発せられる美術的な美しさも入れたいという考えと、被写体の全体像を荒々しくも力強く引き立たせられる印画紙を探した結果、その両方を兼ね揃えた伊勢和紙を選択しました。
この作品の創作は、これからも継続していきます。
審査評 選:ヒロミックス
まずは、美しいという印象が強くある作品です。時代を反映してか、どうしても写真が暗くなりがちな中で、純粋に美しいと思えるものを提示してもらうことにより、人々の気持ちが希望に繋がります。写真と絵の中間のような、水墨画にも見えるのが良いです。印象としては、人々がお部屋に飾りたくなりそう、癒されそう、趣味の良い若者から年配の方達と幅広く愛されそうな作品、という感じです。日本的で東洋的な美の要素が選考の決め手です。
PROFILE
浜中 悠樹Yuki Hamanaka
1978年、京都生まれ京都育ち。
各種クリエイティブ、デジタルマーケティングに携わる傍ら、作家活動を行う。
キヤノン写真新世紀 第35回公募 優秀賞(HIROMIX選)他、国際写真コンペティションで受賞多数。
都市空間の剪定された樹木を被写体とした代表作『樹々万葉(きぎのよろずは)』を始めとした、人と自然の共存共栄の視覚化をテーマに作品を創作。
京都在住の伝統工芸作家(陶芸・漆芸・日本画等々)とのコラボレーションや和モダンをテーマにした空間演出による企画展に多数参画。
受注生産による作品販売、各種空間演出等における作品イメージの提供を行う。