審査評　選： 椹木 野衣

今日、写真とはすなわち、ほとんどデータの別名である。イメージである以前に写真がすでにデータであるなら、写真は「写真」として完結することができず、その外の世界に存在するすべてのデータと進んで関係を結ぼうとするだろう。その総体に写真を通じて作家はいかにしてアクセスすることができるのか。なかでもマーケットとネットワークはデータとすこぶる相性がよい。従来の「作品」や「表現」など、たちまちにしてかき消されてしまいかねない。本作で作者は、進んでもビットコインをめぐる個人情報やパスワードを公開し、鑑賞者と分離できない共有性を作りあげようとする。しかしそのとき、同時に私たちは写真をめぐる作者の個人的な記憶に呑み込まれてもいるのだ。そのアンビバレンスを大胆に提示する意思の強さと巧みな計画性を評価する。