2018グランプリ
ARTIST STATEMENT
Hanging Heavy On My Eyes
インドネシア、スマトラ島のパーム油プランテーションで森林火災が増えており、しばらく停滞するヘイズ(煙霧)が隣接するシンガポールとその周辺地域で繰り返し起こっている。「Hanging Heavy On My Eyes」(2016年)は、これを通年で記録した作品である。
写真には文字通り指標的な性格があるが、作者はそれを生かして、シンガポール国家環境庁が日々発表する大気汚染指標(PM2.5)の記録を湿った昔ながらの暗室で印画紙に焼き付けながら、少しずつ変化を示す銀塩写真に作りあげ、それを毎月展示した。目に見えない空気やそこに浮遊する粒子を可視化しようとする試みは、記録媒体の指標性というまさにその性質をドキュメンタリー写真がどこまで生かせるのか挑戦するものである。
この作品は、視界が遮られることに対する作者の不快感や不安という経験をも蘇らせる。人間が景観や環境を絶え間なく支配し、介入し、操作しようとした、そうした中での状況により視界が遮られることは、狭量さゆえの政策に一致したものである。
応募作品形態:ブック(縦285mm × 横225mm)/ 158ページ
審査評 選:エミリア・ヴァン・リンデン
2016年にシンガポールを包んだスモッグ、あるいは霞の強烈さ、凶暴さを非常に整然とした、かつ抽象的な形で、この作家は表しています。1年間にわたる、大気汚染指数の数値を、実体験として没入するようなしっかりとしたインスタレーションで表し、非常によく編集された本によって、観賞者はこの地元の環境的災害がいかに重大であったかを把握することが出来ます。家から出れない状況のある中で、この作品は作家の個人的な不快感、非常に大きな苛立ちを表しています。これは個人的なストーリーであるだけでなく、息が詰まってしまうようなすべてを覆い尽くすスモッグによって、マヒ状態になったコミュニティーをも表しています。個人的な自由の欠如、また無力感。この作品はコントロールにしがみつきたいと思っている全ての個人が経験するグローバルな現象についてのコメントを表明し、気候変動は私たちが最も懸念する問題の一つであると同時に、非常にタイムリーなトピックであると思います。
PROFILE
ソン・ニアン・アンSong-Nian Ang
1983年シンガポール生まれ。
ロンドン芸術大学キャンバーウェル・カレッジ・オブ・アーツおよびロンドン・カレッジ・オブ・コミュニケーションでそれぞれ写真の学士号、修士号を取得。2012年にロンドン芸術大学ロンドン・カレッジ・オブ・コミュニケーションの大学院での研究に対し、International Graduate Scholarship(留学生対象の大学院奨学金)を獲得。現在は、シンガポールの南洋理工大学のアート・デザイン・メディア学部で教鞭をとっている。
人間の行動をトレースし様々な素材を用いて風景の中に可視化するドキュメント写真やインスタレーションを生み出している。思考の解説やビジュアルを通したイデオロギーに関心を持ち、コンセプトに対して綿密なアプローチを好み、作品にも細部までさらけ出すスタイルを取り入れている。
個展
2015年 | 「A Tree With Too Many Branches」 |
2016年 | 「As They Grow Older And Wiser 」(バンコク大学ギャラリー) |
2017年 | 「Hanging Heavy On My Eyes」(DECK) サンダーランド大学プリーストマンギャラリー |
グループ展
「Unearthed」(シンガポール・アート・ミュージアム) |
「Engaging Perspectives」(現代アートセンター / シンガポール) |
受賞
2010年 | アソシエーション・オブ・フォトグラファーズ賞(イギリス) |
2010年 | eCrea賞(スペイン) |
2012年 | ノイズ・シンガポール写真部門グランプリ |