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2019年度グランプリは、中村智道氏に決定!
2019年11月8日(金)、東京都写真美術館にて写真新世紀2019年度[第42回公募]グランプリ選出公開審査会を開催しました。
今年度は、審査員としてサンドラ・フィリップス氏(サンフランシスコMoMA名誉キュレーター)、ポール・グラハム氏(写真家)、ユーリン・リー氏(台湾高雄市立美術館ディレクター)、リネケ・ダイクストラ氏(写真家)、椹木野衣氏(美術評論家)、瀧本幹也氏(写真家)、安村崇氏(写真家)の7名をお迎えし、応募者1,959名の中から優秀賞7名、佳作14名が選出されました。
グランプリ選出公開審査会では、優秀賞受賞者7名(江口那津子氏、遠藤祐輔氏、幸田大地氏、小林寿氏、田島顯氏、中村智道氏、𠮷田多麻希氏)がそれぞれプレゼンテーションを行い、審査員との質疑応答が交わされました。そして、審査員の合議の下、本年度のグランプリはリネケ・ダイクストラ氏選出の中村智道氏に決定しました。
開会
2019年11月8日(金)、午後2時30分。期待と緊張感が高まる独特の雰囲気のなか開会し、グランプリ候補者である優秀賞7名が緊張した面持ちで登壇。続いて審査員6名が着席しました(サンドラ・フィリップス氏は欠席)。 続いて、キヤノン株式会社 CSR推進部 部長 木村純子より開会の挨拶を行いました。
プレゼンテーションと質疑応答
優秀賞7名は、それぞれ持ち時間7分の中でプレゼンテーションを行い、自らの言葉で作品の背景や制作意図、作品への思いを語りました。審査員からは、作品に対する賛辞や鋭い批評、質問などが寄せられ、受賞者は真剣な表情で応答しました。
表彰式
プレゼンテーション終了後、別室にて約1時間の審議が行われ、グランプリが決定しました。
表彰式で2019年度のグランプリが発表され、受賞者の中村智道氏には、奨励金100万円ならびに副賞としてミラーレスカメラ「EOS R」が贈呈されました。
中村氏は、「表現世界に残れたことへの喜びが強いです。まだ道半ばというか途中だと思いますので、これまでやってきた表現との融合なども考えて体力が続く限り創作していきたいと思います」と受賞後の気持ちを語りました。
総評
リネケ・ダイクストラ氏
1,959名の応募者の中で、私が選んだ写真家がグランプリになったことをとても誇りに思います。非常に強い感情的なつながりが、うまく作品に現れていたと思いました。お父様が亡くなられた、そのメタファーによって生まれた蟻の作品は、悲しみや喪失感などさまざまな感情が組み合わさり、美しく可視化されました。
もっと作品の背景について、見る人に提供して欲しいと思います。今、起こっていることの緊張状態について、例えば新聞記事を使うとか、もう少しわかりやすい形で示していただければ、より多くの人に共感していただけるのではないかと思います。これからもキャリアを築き、素晴らしい作品を作っていってください。
椹木 野衣氏
今回のグランプリ候補作品はいずれも日本からの応募でしたが、どの作品からも今の日本が置かれている状況を反映している部分があると思いました。肉親との離別、懐古、自分を忘れていく姿との共存、こうしたことは今後多くの人にとって生々しい問題になっていきます。そんな中からどのような新しい表現が写真を通じて出てくるのかは今後の一つの指標になると感じました。
今回は3名の方が肉親との関係を元に作品を作られていました。離別やつきあい方を通じて過去の記憶が蘇ってくるということは絶えずあることだと思います。中村さんの作品は、そこに幼い頃の蟻との関係性、加害者としての関係や、一方で無力な自分が巨人に踏まれて自分が蟻になるかのようなビジョンなど、非常に想像力の幅が広く予想外のイマジネーションが込められていて、読み解く楽しみがあり、その点で他の方よりも一歩進んでいたと考えました。
他にも今の社会のあり方を反映していると思った作品は、アメダスの装置を撮られた田島さん、街中に張り巡らされた監視カメラやSNSといったテクノロジーの問題を扱った遠藤さん。テクノロジーが我々の許容範囲を超えて進んでいってしまうということも写真にとって大きな問題だと思います。こうしたテーマが入っていたことも今回の大きな特徴です。 小林さんは、行き場を失ったものとの関係を作品にされていました。𠮷田さんの作品は動物たちが今後人間とどうつながっていくのか、自然災害のなかで動物たちがどのように生き残ってきたのかなどにも思いを寄せるものでした。選出は偶然の結果ですが、ある意味、今の世の中のあり方や写真の行方を改めて汲み取ることができるような機会になったと思っています。