2019グランプリ
ARTIST STATEMENT
蟻のような
これまでも蟻に関する作品を制作してきた。以前は映像作品で、今回の作品は、その時の技法やテーマを一部継承している。
ぼくは、ある出来事をふりかえるときに蟻のようなものが頭の中に渦巻くことがある。そのときぼくは、自らを蟻のようだと思うことがある。これは、蟻のような小さな存在である自分を表現した作品であり、父の死や、自閉症スペクトラム障害、それを起因とする二次障害、マイノリティーとしての自らの無力感と未来への不安、そして、次へ続く一歩として位置づけたもので、表現としての”Ants“シリーズとしては、現在も続くものの原点となる。
蟻は、匂いで仲間というものを認識するという。蟻のようである自分と同じような「匂い」を感じる人を探し出し、これまでには無い社会のあり方を捜し求め、制度を乗り越え、新たなマイノリティーの形を模索するAnts+シリーズに繋がることになる。
応募作品形態:静止画 21点/ベニヤ板(600x455mm 5点)/油彩、鉄、写真 16点
審査評 選:リネケ・ダイクストラ
この作品は、現実と非現実が絶え間なく入れ替わっています。作者の中村氏はまだ幼かったころ、遊びで蟻を捕まえて、その身体を半分にちぎってしまったとのこと。小さな子供がよくやってしまう残酷な行為です。そして今、父親が死の床にあるのを目の前にして、子供のころに殺してしまった蟻が感じていたに違いない無力感を、中村氏も同じように感じています。襲い来る強烈な無力感と不安。それこそが、この作品で表現したかったものです。湧き上がる悲しみはあまりにも大きく、身も心も押し潰されてしまいそうなほどです。病床にある父親の姿と死への過程が豊かな感受性によって記録されており、そこには同時に蟻との大きなコラージュができ上がっています。この素晴らしい手法によって、苦しくてせつない複雑な感情を鮮やかに浮かび上がらせています。
PROFILE
中村 智道Tomomichi Nakamura
1972年岡山に生まれる
アニメーション作品
『ぼくのまち』(2007)
2007イメージフォーラム・フェスティバル 2007奨励賞(東京)
『蟻』(2008)
2009 55th International Short Film Festival Oberhausen *International Competition (Germany)
『天使モドキ』(2014)
2015 45th Tampere Film Festival *International Competition (Finland)
2016 岡山芸術文化賞*準グランプリ
2017 福武文化奨励賞
写真作品
『蟻のような』(2019)
2019 キヤノン写真新世紀2019 *グランプリ
2020 岡山芸術文化賞*準グランプリ
『Ants』(2020)
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2020 キヤノン写真新世紀 2020 *個展
『ヤドカリの家』(2021)
LensCulture Art Photography Awards 2022 *JURORS PICKS